身長の世界
こちらの世界にもなれてきた感じの雪樹。
とはいえ碧流も常に手は空いていないので、時間のある人に任せている。
そんな中卯咲子が今日は手が空いているようだ。
時間もあるとの事なので、卯咲子が相手をしてくれる事に。
「今日は暇なのか?」
「そりゃ毎日仕事があるわけでもないからね」
「確かモデルと言っていたな」
卯咲子は現役のモデルでもある。
とはいえモデルにしては身長は小柄なのがネックらしい。
「モデルというのは何をする仕事なんだ?」
「うーん、分かりやすく言うと服の宣伝かな?」
「服の宣伝、つまり広告塔というものでいいのか?」
「そんな言葉も覚えたんだ、まあそんなところかな、例えばこんな感じね」
「ふむ、美しく映っているではないか」
だがモデルの世界は厳しいのだと卯咲子は言う。
その理由が身長にある。
卯咲子は160こそ越えているものの、モデルの世界では小柄なのだ。
「私はモデルの世界だと小さい方なんだよね、だから咲夢とかが羨ましくて」
「確かに咲夢は長身で男にも間違う程度の顔立ちではあるな」
「モデルの世界って基本的には身長なんだよ、最低でも170は求められるから」
「卯咲子は女にしては大きい方なのではないのか?」
「標準から見たら平均よりは上だけど、モデルの世界では小さいかな」
平均身長から見たらそれよりは上ではある。
ただモデルの世界ではそれでも小さいのだ。
とはいえ卯咲子はそれはあまり気にしていない様子ではある。
「そういえば卯咲子は体型の維持には気を使っているのか」
「うん、でも細すぎるとクビにされるからある程度の肉付きは意識してるかな」
「確かに写真のモデルはどれも細く見えてもしっかりとした体型だな」
「うちの事務所は体重が一定以上じゃないと駄目っていう規則があるから」
「細すぎるごぼうのような女が美しいとも思えないな、僕は」
卯咲子の所属する事務所は体重が一定以上をクリアしないと所属出来ない。
それこそごぼうのように細かったりしたら門前払いだという。
なので卯咲子も細く見えるが、実は平均体重より少しだけ上なのだ。
「この世界は仕事でも健康を重視しているのか、素晴らしいではないか」
「雪樹の世界だとそういうのはどうなの?」
「軍人になるなら少なくとも細すぎず太すぎずだな」
「つまりメディカルチェックみたいなのはあるんだね」
「こちらの世界に比べれば技術は劣るからな、そこは医者任せだ」
雪樹の世界でも軍隊に所属する際には入隊前に検査があるらしい。
そこは世界が違っても変わらないものなんだなと卯咲子は思う。
メディカルチェックは体が資本の職業ではやはり必須なのだと。
「でも私は慎重に対しての平均程度の体重だから、もう少しあってもいいかなと思うかも」
「体重は健康に関わるが、軽すぎる奴も重すぎる奴も大変だとは思うな」
「体重も仕事の基準にしてるのは過度なダイエットとかへの警鐘なんだよね」
「思えば卯咲子は細く見えるが、実はしっかりと筋肉もついているな」
「外国でモデルの痩せすぎが問題になった事があって、それもあるんだと思うよ」
卯咲子が言うには過去に外国でモデルの痩せすぎが問題になった事があるとの事。
それもあってか卯咲子の事務所は面接の際に体重などもチェックされる。
そこでふるいにかけられるやり方をしているとの事らしい。
「私が所属してる事務所ってまだ設立から10年経ってないんだよ、まだ弱小なの」
「とはいえ体重のチェックが入る辺りは風穴を空けるつもりなのだろうな」
「それは私も思うね、そもそもミイラになるまで痩せたいとか空気としてはあるし」
「ミイラとは言ったものだ、細ければ美しいと思うなど僕の世界ではありえん」
「うちの事務所が出してるモデルってみんな結構いい体型してると思わない?」
雪樹も卯咲子の事務所のモデルには美しさを感じている。
細すぎず、かといって太すぎでもない。
そんな整った肉体に見られる美しさなのだろう。
「さて、お昼に下のラーメンでも食べに行こうよ」
「モデルなのにラーメンに行くのか」
「それはそれ、お金払って食べてるんだから」
「ふっ、付き合ってやる」
雪樹もそんなモデルの話に価値観の違いを感じていた。
卯咲子の事務所が面接でそういったチェックをする事。
それは世の中の空気に抗おうとする心意気。
雪樹はこの世界の仕事についてもついでに学ぶつもりではある。




