服を作る仕事
雪樹もこちらの世界に慣れてきた様子。
今日は碧流も休みなので、付き合ってくれる事に。
どうやら今度の仮題で使う生地を買いに行くとの事。
服を作る仕事に就くのを夢見る青年なのだろう。
「お待たせ、それじゃ行こうか」
「ああ、そうしよう」
「生地を買いに行く、デパートでも行かないとな」
とりあえず行き先は百貨店に決まる。
とはいえ予算はそこまで多くないのだが。
「この世界は凄いのだな、僕の世界にはない技術で溢れている」
「雪樹の世界ってこの世界に比べると文明は遅れてるんだよね」
「ああ、ただこっちの世界には魔法は存在しない」
「魔法かぁ、俺からしたらそっちの方が凄い技術に思えるよ」
「僕の世界では一般的だ、こっちで一般的なものでも僕の世界から見たら魔法だぞ」
見えている世界がその人にとっての世界という事か。
こっちでも国内と海外では世界が全く異なる。
それもあってなのか、魔法という言葉は便利な言葉なのだろう。
「こっちだよ」
「こっちは地下か?」
「そう、地下鉄」
「まさか地下に鉄道が走っているというのか」
「そういう事、交通系電子マネーで乗れるからね」
そのまま地下鉄のホームに移動する。
少し待って地下鉄が入ってくる。
それに乗り込みデパートのある街へ移動する。
「凄いな、本当に地下を走っている」
「地下鉄って言うけど、終点近くになると地上に出たりもするよ」
「そうなのか?地上と繋がっているという事か」
「そう、乗り入れとか直通運転って言って、他の路線と繋がってたりね」
「他の路線と繋がっているというのも凄いな」
そんな話をしつつ目的の駅に到着する。
駅で降りてそのまま目的のデパートを目指す。
その複雑さは愛依の時の駅でも見ているが。
「こっちの世界の大きな駅は迷宮か何かなのか」
「あー、それネットでも散々ネタにされてるから」
「駅の構内図を見てもよく分からん、土地勘がないと確実に迷う」
「だよねぇ、ダンジョンって呼ばれるのは伊達じゃないっていうか」
「僕はお前についていく、はぐれたら責任を取れ」
とりあえず碧流はそのデパートに向かって進む。
雪樹もそれを迷わないようについていく。
大きな駅は迷宮、雪樹ですらそう感じる恐ろしさである。
「よし、着いた」
「お前、あの迷宮のような駅を軽々と、土地勘はやはり頼りになる」
「とりあえず生地を買いに行くから、ついてきて」
「分かった」
「えっと生地は…よし、行こう」
そのまま生地の売り場に移動する。
碧流は裕福な家庭の人間ではない。
とはいえそれなりのお金は持っているからこそデパートで買えるのだ。
「それじゃ俺は生地を買ってくるから」
「分かった、待っている」
「あと商品にはあまり勝手に触れないでね」
「流石にそこまで馬鹿でもないぞ」
「それじゃ少し待っててね」
そうして碧流は生地を買いに行く。
店員と相談して必要なだけの生地を用意してもらう。
必要な大きさに切り分けて買えるのはデパートの強みとも言える。
「お待たせ」
「もういいのか?」
「うん、必要なだけは買えたからね」
「そうか、お前の作る服で誰かが喜ぶならそれもいい」
「まだ学生なんだけどね、それよりデパ地下でも行こうか、お土産でも買いに」
そのまま地下に移動する。
デパ地下、デパートの地下は食品を扱っているのが大体は基本だ。
少し値は張るものの、美味しい食べ物が多い。
「何か欲しいものとかある」
「どれも美味しそうだな、迷ってしまう」
「よほど高くないなら好きなものでいいよ」
「ふむ…む?おい、これがいい」
「和菓子か、分かった、それじゃ少し待ってて」
雪樹が目をつけたのは芋羊羹だった。
雪樹の世界にも和食はあるし、和菓子もある。
だからこそ目が行ったのだろう。
「それにしても芋羊羹なんて、雪樹って意外と」
「なんだ?」
「なんでもないよ」
「ならいいのだが」
「とりあえず帰ろうか」
そのままデパートを出て駅に戻り地下鉄で帰る。
いつもの街に到着してそのままアパートに帰還。
碧流は服のデザインも考えないといけないので、準備も始める。
「二郎おじさんにそれ持っていってくれる」
「分かった、残りは食べていいな」
「うん、でもそれは夕食の後でね、冷やしておくから」
そんなこんなで生地も買えた碧流。
近いうちに課題があるという事で生地を買いに行ったという事。
雪樹は碧流が夢を目指していると知っている。
それは異なる世界に生きる者同士の価値観の違いでもある。




