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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 余談 打上花火
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打上花火_2

そうだった――


「折角のお誘いは嬉しいんですが、ナツがまだ動けないので僕は行けません。」


 そう、俺としたことが失念していた。

双子を訪ねてから気付いたのだが、ナツはまだ立って歩くのがやっとなのだ。

そんな状態で花火大会など来れるはずもない、勿論ナツが来ないのならアスも来ない。

当然だ――


「そんなわけなので、今夜は家の前でお爺さんと3人で花火をするんです。

 僕たちも本当は花火大会に行きたいんですけどね。

 行くならやっぱり2人で一緒に行きたいので、すみません。

 ところでシーヴさん、花火大会にはファラさんと行くんですか?」

 

「ん、あぁ。他に誘えるヒトいなくて、さ……。」


 う、言葉にすると一層重いな……。

いや、なんだ、ファラだって一応女性なのだから、一般的には恐らくましがられる状況ではある。

むしろ誇っても良い所なのだろうが(なんならお礼を言っても良い位なんだが)、如何せん相手が相手だからなぁ……。


「え、あぁ……。そうですか……。それは…なんというか…ご愁傷さまです……。」


 そしてアスのこの反応である。

「え? このヒトまじでアイツと行くの? あちゃー……」みたいな憐れんだ表情――それがまた一層虚しさを助長させた。


「え? このヒトまじでアイツと行くの? あちゃー……」


 言うんか~い。


「まじ終わってんなぁ。」


しかもプラスアルファしてきやがった。


「あ、ちょっと待っててくださいね。」


 毒舌に関しては何から何まで期待を裏切らないアスは、その後何かを思い出したように家に入っていった。

なんだかとっても哀れまれてしまって、心底惨めな気分である。

そして暫くして戻ってきたアスが持っていたのは――


「これ、よかったらどうぞ。ナツが怪我するといけないので、危なそうな花火は弾いたんです。

 ロケットのやつとか、ネズミのとか、そんなんばっかですけど。

 捨てるのも勿体ないですし、せっかく来ていただいたので、お土産になればと。」


「うぉおおお! 懐かしーーーい!」


 アスから受け取った袋の中身――それはアレもコレもヒトに向けて使ってはいけない危険で楽しい火薬のオンパレードだった。

うっひょ~トリガーハッピー!!!


「これ昔よくやった気がするわ! なんか、思い出すような……。

 とにかくありがとう。遠慮なく頂くよ! わ! すげー沢山ある!! 楽しみだなぁ!」


 そうして俺はちょっと危ない系の花火を大量に仕入れてウキウキと家に戻った。

いや~、花火には誘えなかったけど、行ってみるもんだなぁ~。

今度コイツでファラを驚かせてやろう――そう考えると柄にも無くなんだか童心に帰ったようにワクワクしてくるのだった。




***




ほどなくして、帰宅――


「ただいま~。」


「あ、しー君遅い! もう、先行っちゃったのかと思ったよ。何してたの?」


「あれ、もうそんな時間……?」


 思えば村でダバの手配や、ついでで食料調達やら道草をしていたものだから、思った以上に遅くなってしまったらしい。

ファラがドタドタと遠慮のない足音を立てて部屋から出てきた。


「あ~すまん、あちこち寄っていたら遅くなったみた――」


「みてみて! ほら! 可愛いでしょ?」


 見ればファラは明るい金魚柄の赤い浴衣を着ていた。

くるりと回って嬉しそうにそれ見せびらかし、無邪気に笑う姿は子供の用でなんとも微笑ましい――が、少しも可愛いとは思えなかった。

残念ながら、パトラッシュの方が圧倒的に可愛いのである。

例えるなら月とスッポン――あーいや、スッポンの方がまだ愛嬌は上か……。う~ん……。

それと――


「そーゆーの、自分で言わない方がいいぞ。そんなんだから彼氏の一人も出来ないんだろ?」


「??? 何言ってるの? アタシに男が寄ってこないの、しー君が傍に居るからだよ?」


 ほー、言うなコイツ。

俺が傍にいなければ誰でも彼でも選び放題とでも言いたそうだ。

自惚れるのも大概にしとけ。自分の顔鏡で見たことあんのか?


「……。」


 ――いやまぁ、確かに目鼻立ちやスタイルは良い、少なくともスッポンと張り合えるくらいには。

けれど虫も食うしバカだし五月蠅いし。

子供みたいに駄々をこねてはいつも食べ物の事ばかり考えているような最低のニート。

そもそもそんな底辺クズのような自分を客観的に評価できていない事も問題なんだ。

それに――


「ちょっと、あんまジロジロ見ないでくれる? うぅやば――鳥肌立った……。」


「あっ! テメ! だから可愛くねぇってんだ!!」


「ほらもう! いいから行こ! 花火見れなくてもいいの?

 お祭りごとの日は早く行かないと、人気の屋台はすぐ売り切れちゃうんだから!」


 結局それかよ。

ファラは帰って来たばかりの俺の服の袖を、小賢しい奈良の鹿どものようにグイグイと引っ張り始める。


「あーはいはいわかったよ。わかったからあんま引っ張んなって――」


かくして食いしん坊のファララ二等兵に引っ張られて、俺はいよいよケズバロン大花火大会にはせ参じたのであった。




***




 ダバに揺られて2時間ほど――夕暮れが近づく中、ケズバロンへ到着。

街の入り口には既にヒトが溢れるほどにごった返していた。

なにやら入り口のあちこちに点在する屋台にヒトだかりができているらしく、気になってそれらを覗くと、どうやら浴衣販売の屋台であることが解った。


「ねぇ、折角だからしー君も着てみたら? その恰好だと浮いちゃうよ。」


「うぇ? 浴衣をか?」


 けれど言われて確かに周りを見ると、性別や種族に関わらずほとんど浴衣に着替えているようで、まるでハロウィンの日の渋谷のようにお祭りムード一色。

というかもうハロウィンだなこりゃ……。

しかしまぁ確かに、ここに私服でいるというのはなんだかその雰囲気を壊すようで忍びない。 


「あぁ……。そうだな、そうするか。」


 気恥ずかしさもあったが、手ごろな浴衣の屋台で黒の浴衣を購入。

質素なトンボ柄。

早速着てみると――おぉ……。まぁ、思ったよりは様になってる気がするぞ。

雰囲気も出てるし、やっぱ俺も日本人だからかな、案外似合うものなのかもしれない。

心機一転――俺もすっかり祭り気分に踊らされていた。


「ど、どうだよ?」


「え??? ぅ、うん。似合ってる、よぉ~?」


「あいやー。」


訂正。

スッと目を逸らしたファラが笑い出しそうなのを我慢しているのがわかった。

さて、帰るか。

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