In Circles_5
「にっくにっくにっくにっく、お~にくぅ~!
ぶっくぶっくぶっくぶっく、お~でぶぅ~!
おいし~なっぞにっく、な~んの~に~く~~~!!」
「おい、もうそれ歌うのやめろよ、みっともない。」
どこか意味ありげで怖い歌を陽気に歌いながら、ルンルンとスキップするファラ。
今日はカレーにするというので、見慣れない野菜類を買い付け、先ほどは肉屋にいた。
そこでは珍妙な怪曲がどこからともなく延々と流れており、それを完全に覚えてしまったようで、ファラは先ほどからずっとこの調子でリピートし続けている。
「別にいいじゃない。歌ってるだけで幸せな気分になるわ。」
まったく……。
しかし今は、この能天気さが逆に心地いい。
俺は知らず知らずのうちに、ファラの無邪気で陽気な性格に救われているのかもしれない。
そんな事を想いながらアスとファラの前を歩いていた時だった。
「いたわーーーー!! あそこよーーーーー!!」
突然、背後から獰猛な乳ウシの軍勢アーカイヴが地鳴りと共に現れた。
「ゲッ! おいファラ! アーカイヴだ!! すぐにソイツから離れろ! し!! 死ぬぞっ!!」
「あわわわわ!! まだ死にたくないいいいいい!!!」
「チッ……。」
先ほどと比べると幾らか小さな群れだがしかしそれでも、非力な俺たちにとっては絶望的な脅威だった。
ファラは無事なんとか逃げ切った。
しかしやはり、か弱い双子はまんまと餌食となってしまった。
そう、この世は弱肉強食――弱きものは食われ、強きものの贄となり、糧となる。
それをきっと、あの双子は、誰よりも知っている――
「ひゃっはぁーーーーー!! ショタっ子サイコーーーーーー!!」
「あーーーエヴァーストームお姉さまズルいですわぁ! アス様のオシリはわたくしのモノですぅぅううう!!」
「ちょっとエコーズ姉さん! エヴァーストームお姉さまを差し置いて何を言っていますの!?」
「おいヴァージ! しっかり押さえつけろよっ! ズボンが脱がせにくいだろうが!!」
「あぁ!? そりゃこっちのセリフだ!! ルミナスてめぇまた抜け駆けする気だな?!」
「ゲースッスゥウ~~~! アチキはチクビを舐めるでゲスッ!!」
あっ! エクリプスだっ!! やっぱアイツだけ画風がちげぇ!
どう考えても生まれてくる世界間違えてるヤツだろ!
「チッチッチッ――チチッチチッ――チッ――」
そしてリズミカルに舌打ちすんな!
どうやらあれは兄者の細やかなる抵抗らしいが、色々と気が散って仕方がねぇ。
「チッ――メス豚が……。」
暫く膝を抱えてボーっと見ていたが、群れから解放される頃にはすっかり夕暮れを迎えていた。
服をひん剥かれパンイチでズタボロになり疲れ果てたのか、無言になる双子。
並んで歩きながら、横目でそれをみていると僅かに心が痛かった。
チクビ丸出しのパンイチ姿――流石に放っておけず俺が普段寝巻に使っている「哀れなクソ豚」Tシャツを、ひとまず家に帰るまで着させた。
しかしどうやらこの双子にはサイズが大きかったらしく、小汚い金太郎みたいになってしまった。
「なぁ、いつもあんなことが起こるのか? その、大変なんだな。大丈夫か……?」
「え? 僕は別に。むしろ今、最高に幸せです。ムフフ。」
あ、弟者か、あほくさ。
性格が真反対と言ってたが、それはもはや女の――いや、乳の趣味だけな気がする。
そんなこんなでチトさんの家にようやくたどり着き、玄関の扉を開けるとお米の炊けた時の甘い香りがした。
今夜はカレーだ。
双子の好きな甘口、それも悪くない。
そう思うと、何故だか無性に懐かしい気持ちになった。




