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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 4章 ホールディングアブセンス
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Monochrome_4

「では行きましょうか。」


 双子のしょうもない宴会芸を見た後、事情を聴いた俺たちは、翌朝近くの村ケズブエラに向かうこととなった。

そこにはこのバカ双子の育ての親がいるというので、まずはそのヒトに話を聞こうというわけだ。

そして昨日は結局双子のせいで宿を取りそこなった。

さらにこの双子は客人をもてなす気が微塵もないらしく――


「え? ベッド? そんなものありません。お二人は床で寝ればいいでしょう?」


 などとふざけた事を抜かし、自分たちは悠々自適にふかふかのベッドで眠りやがった。

その為、俺達は双子の家でテキトーに雑魚寝したわけだが、硬い床ではどうにも寝つきが悪く、俺は早々に目が覚めてしまった。


「ゴー! ガーッ! ゴッ! ガーッ!!!!」


プゥ~……。ポリポリ……。 


「コイツ、女が寝てる時にしちゃいけない事全部やったな……。」


 隣ではドデカいイビキをかきながら鼻提灯を揺らした乳ウシのデーモンが腹を出し、ケツを搔いて寝ている。

おならすんな……。仮にもヒロインだろお前……。

カーテンの隙間から外を覗くと、スッキリとした青空がどこまでも広がっていた。

あと昨日の変な動物もいた。

こちらに気付いたのか目が合ってしまった。


「へッ! アホ! パンッ! アホッ!! ヘッ! パンッ! アホ!! パンッ! パンッ! へッ!! へッ!!」


 朝になって元気になったのか、急にウザさに拍車がかかった気がする。

リズミカルにケツを叩いてノリノリだった。

 

「あぁもう! むかつくなぁ! あの変な動物いつまでいんだよ!」


「あ、起きたんですか。哀れなマヌケ面に似合わず朝は早いんですね、褒めてあげます。

 そこのおなら乳ウシが起きたら出発しましょう。」


 双子の挨拶代わりの毒舌ジャブ。

外のうるさい変な動物。

ウゴウゴとイビキをかいて鼻提灯と腹出して寝てるおなら乳ウシ。

ストレス三段構えの素敵な朝でした。

そして結局おなら乳ウシは昼過ぎまで寝ていた。


「ふあぁあ~……。うぅ……。ふぅ~…んー……。」


 ケズブエラへ出発するころには随分と日は高くなっていた。

おなら乳――もとい、ファラはまだ頭がさえないのか、目をこすりながらフラフラと歩いている。

その横を双子が並んで歩き、その後姿を俺は眺めているのだが、こうしてみると姉弟のようだが、どっちが子供かわからないな……。


「なあ、昨日の夜から家の外にいたあの動物、一体何なんだ? あんなのが家の近くに居たら夜眠れなくて大変だろ?」


「あぁ、あれは、はぐれクソモグリブタザルのメスですね。

 一度お腹を空かして死にかけているところを見かねて食事をあげたら懐いてしまったようで、毎日あぁして恩返しにくるんですよ。

 健気で可愛いでしょう?」


「へー。クソモグリブタザル。かわいいね。」


 色々突っ込みたいことは沢山ありますがね、とりあえず俺はアイツの鼻水飲んだって事です。

ファッキンモーニングッ! へッ! ヘッ!! パンッ!!


ケズブエラには徒歩で向かっていた、歩いて20分もするとようやく村らしきものが見えてきた。

 

「フゥ……。」


 すると突然双子が物憂げに小さくため息をついた。

なにやら浮かない表情をしている。


「ん、どうかしたのか?」


「いえ、僕あんまりあの村好きじゃないんです。

 なんというか、乳のデカいバカ女が多くて正直かなり疲れるんですよ。 まぁ、行けばわかります。」


「あぁ、アス君か……。 あのさ、こういっちゃなんだけど、その口の悪さは直した方がいいと思うよ?

 普通に失礼だろ、特に女性に対して。 ちょっとは言われる側の気持ちとか考えた方が――」

 

 まさにそう言い終わるかという時、突然このバカ兄はファラの尻をスリスリと触り始めた。

えー。なにしてんのー。こいつー……。

いやいや笑えないってー、ぶっ殺されるよまじでー……。


「キャッ! だれ! なに?!」 


 案の定、驚いたように辺りを見渡すファラ。

あーあ言わんこっちゃない、知らんぞ俺は。

そう思った時だった。


「お…お! ぉッ! 俺じゃないぃいい! おれじゃないぃぃいいいい!!」


 どこからともなく俺の声が聞こえた。

え? どういうこと? いやまじで俺じゃない!!

…てかまじで何してくれてんだテメェッ!!!

俺の方を見てほくそ笑む、アス。腹話術ってすごーい。


そして、ファラが俺の方に静かに向き直る――


「いっぺん、死んでみる?」


 真顔だ。

一瞬、地獄から舞い戻った黒髪美少女の姿が重なった気がした。

馬乗りのファラ、地獄から再臨。


「お…お! ぉッ! 俺じゃないぃいい! おれじゃないぃぃいいいい!!

 まじでっ! ちょッ! アッ!! アアアアアアアッッッ!!!」


 享年たぶん18歳。

俺、死亡。

死因、腹話術。


 ほどなくしてケズブエラに到着。

妖怪おなら乳ウシとの死闘で全身がズタボロだが、どうにか辿り着けた事を、今はなにより嬉しく思う。


「お爺さんの家はこの先です。僕も久しぶりに会うのでなんだか緊張します。お爺さん、元気かな。」


「……。」


 多分だけどこの双子、表情には出ないがしっかり感情はある。

今だって育ての親との久しぶりの再会に、きっとワクワクしているのだろう。

双子の言葉からそんな事を思った。


 そういえば何故この双子は、村から離れたところにわざわざ住んでいるのだろうか。

育ての親でもあるお爺さんとの再会も「久しぶり」と言っていた。

何かが妙だ、まだ俺たちの知らない秘密があるのだろうか――そんなことを考えていた時だった。


「来る……。」


突然、双子が立ち止まったかと思えば神妙な面持ちでボソッと呟いた。


地響き。


 微かだが、揺れを感じた。

これは地震……?

徐々に大きくなる地鳴りと、縦揺れ……!

これは、シャレにならない! 相当デカいのが来る…!!


「みんな! すぐ安全な場所に逃げろ! 特に建物や塀からは離れるんだ!」


「いたわーーーー!! あそこよーーーーー!!」


「チッ……。」


「へ?」


 それは、大地震より遥かに恐ろしい光景だったと思う。

軽く100を超える乳ウシの軍勢。


「どけクソブタぁ!!」


「うっぎゃぁんぬひっでぶぅ!!」


「きゃーーーー! しーーーくーーーんっ!!」 


 まるで獲物を捕らえたかのように双子を囲む大群。

ファラは回避したようだが、俺はその軍勢に思い切り突き飛ばされ、即死。

双子はあっという間に200以上の巨乳に飲み込まれてしまった。


「タ、ス、ケ……テ……。グハ……。」


「あ……。あぁ……、そんな………、こんなことって……、嘘だ!!」


 みるみる乳ウシに飲み込まれていく双子、かろうじて右腕の先だけがピクピクと助けを訴えているのが見えた。

虚無、絶望、悪夢、地獄。

そのどれをも凌駕する筆舌に尽くしがたい恐ろしい光景。

どうやらこの村はあのアニーク樹海に匹敵する狂気をはらんでいるようだ……。


 ー 僕あんまりあの村好きじゃないんです。 ー

 ー まぁ…行けばわかります。 ー


 そんなアスの言葉の意味を、俺は今になって理解した……。

ごめん、だって――こんなことになるなんて、わかるはず、ない!!

俺は眼前に広がる悪夢を前に、涙を流しながら力の限り叫ぶ。


「やめて! もうやめてよ! こんなの酷いよ!!」


「っち……。せぇなカス……。」


「え?」


 突然、ひと際大きな美乳を持ったリーダーと思しき美しい女性が俺の方に向き直った。

銀色のロングヘアー、凛とした赤紫の瞳。

艶やかな赤を基調とし、胸元を強調した派手なドレスがとても綺麗だなぁ。


「おい、ルミナス、ヴァージ。この老いぼれ押さえつけろ。」


「へいへい。」


「あいよ。」


「えちょっなに! やめてーーーー!!」


 女性とは思えない巨漢…いや巨乳だ……。

銀髪の角刈りの2人……。

先ほどの女性と同じドレスを着ているが、今にもはち切れそうだ…特に腕周りが……。

アマゾネス顔負けのゴリゴリマッチョなルミナスさんとヴァージさんに羽交い絞めにされ、組み伏せられるように膝をついた俺をリーダーのビューティフル乳ウシが腕を組んで見下ろしている。


「ウチらはショタッ子親衛隊、アーカイヴ。」


ゴスッ!!!


「うげぇ!!」


「そしてウチはリーダーのエヴァーストームってもんだ。」 


ガスッ!!!


「ぶがぁっ!!!!」

 

「おい、老いぼれ。よく聞きやがれ。」


 もう既にボカスカと急所を蹴られてるんですが……。

この老いぼれに…まだなにか……。

エヴァーストームと名乗るその美女は、瀕死の俺の前髪を雑にガッと掴むと顔を近づけて唾を飛ばして怒鳴った。


「ウチらはショタにしか興味ねぇんだよクソジジィ!! 生まれ変わって出直してこいや老いぼれがぁ!!」


ドスッガスッ!!


「うっはぁぁあああんひっでっぶぅぅううう!!」


 あいやぁ~ん、悪くない、かも~ん……。

俺は股間の激痛に膝から崩れ落ちた。

股間を抱えて蹲っていると、日の照り返したレンガの地面に2つの小柄な影が映り込む。

痛みを堪えつつ顔を上げると、これまた艶やかなドレスに身を包んだ銀髪の見事なドリル――いや縦ロールをこさえた2人組が、口元に手を当てて俺をにほくそ笑んでいるのが見えた。


「あらあら、エヴァーストームお姉様に逆らうなんて、愚かな老害ですわねぇ? ねぇそう思わないフォール?」

 

「うっふふ、そうねエコーズ姉さん。 この哀れなブタ面の老害、ハチの巣スパイクで踏みにじるのも悍ましいわ。」


「え……。」


 よく見ればこの2人の足には長さ数十センチはあろうかという厳つい棘のスパイクが履かれていた。

これ、踏まれたら、まじヤバくね?


「おいお前ら、ショタ欲満たしたらさっさとズラかるでゲスよ。そろそろヒトが来るでゲス。」


 おい。なんか猫背の鼠小僧みたいな奴いるぞ。

画風もアイツだけ昭和のアニメなんだが……。

他の4人と同じように艶やかなドレスを着ているのだが、一人だけ黒髪のおかっぱ頭。

ゲジ眉に目つきは狐のように吊り上がり、ペチャっと潰れたダンゴ鼻。

挙句タラコ唇から大きな出っ歯がこれ見よがしに覗いていた。

なお、胸はない。


「そうねエクリプス。エヴァーストームお姉様? そろそろ引き際ですわ。」 


「おう。お前らぁぁあああ!! ズラかんぞぉぉおおおお!!」


「でゲスーーーー!!」


 ー おーーーーほっほっほっほっほっほーーーー!!!! ー


 そして乳ウシの群れは去って行った。

エクリプス、か……。

とんでもねぇヤツが出て来たな……。


「しー君……。アス君ナツ君……。大丈夫……? 死なないでね……。」


 そうして後に残されたのは、股間を抑えて蹲る俺と、半ケツにされてズタボロになった双子だった。

ファラが建物の陰からこちらの様子を見ている。

余程怖かったのか、小鹿のように震えたまま未だにそこから出てこない……。

ほんと、この世界どうなってんだよ……。

でゲスねぇ?

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