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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 4章 ホールディングアブセンス
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Monochrome_3

「じゃあつまり、その事故の後からキミ、つまりナツ君の中に、兄のアス君がいる…と。

 そういうことなのかな。」


「はい。あ、ちなみに今入れ替わってます。今は僕であり、実質アスです。」


「いやわかるか! いやさっぱりわからん!」


 道中、双子はどちらもマイペースと言うか基本的にボーっとしており、ボソボソと抑揚のない喋り方をした。

無味無臭、無感情、モノクローム。

それが一層双子の区別を難解にしていた。


 そして双子の家に着く頃には、フル稼働していた俺の脳すらもその限界を迎えていた。

なにしろコロコロと入れ替わるこの双子は、入れ替わっても全く変わらず、いつ入れ替わったのかも解らない。

時々話がかみ合わなくなると思ったら、案の定入れ替わっていたというわけだ。

そしてファラの脳はそんな状況にとっくにオーバーヒートし、膝を抱えて蹲り、カラカラに乾ききったカッパのミイラのようになっていた。


「ひとまず話の続きは中でしましょう、何か甘い物でも用意しますね。」


 そういうと双子は俺たちを家に招きいれた。

今はどっちだろう……。


 日は傾き、そろそろ日暮れを迎える頃だろう。

重たい頭を抱えたままソファに腰かける。

双子がお茶の用意をしてくれている間に、話を整理しよう。


 まず、弟はナツ。

兄はアス。


 弟ナツの体の中に、兄アスの意識が宿ったのは、もう5年も前になるという。

最初はそれぞれ別の体があったが、不慮の事故で兄アスを失った次の日、気が付くと兄アスが弟ナツの意識の中にいたという。

いままではそれでも特に問題がなかったらしい。


 しかし最近は、ナツの時にアスになったり、アスの時にナツになったりと、入れ替わってしまうそうで

日常生活に支障をきたしているそうだ。

言ってる意味が解らないかもしれないが、勿論俺たちにもはてさてサッパリ全く意味が解らない。

ファラは既に魂が抜け落ちてカサカサの真っ白な燃えカスと化していた。


「ファラ、ごめんな……。こんなに頭を使う依頼が回ってくるとは思わなかったんだ。」


ソファに膝を抱えて横たわり、完全に虚無に堕ち廃人となってしまったファラを俺はただただ抱きしめていた。


「無理するなって、お前が言ったのに……!

 こんなからだになってしまって……。うぅ、すまない……。」


「なにしてるんですか……? そーゆー事はあまりヒト様の家でしない方がいいですよ?」


 冷ややかな目を向けながら、双子がお茶とお茶請けをもって目の前に座った。

相変わらず声のトーンに抑揚はないが、微妙に辛辣な物言いをするから、今はアスだろうか。


「おいファラ、起きろ。お菓子あるぞ。お、ケーキだ。ケーキもある。」


「ケ、ケー……キ……。イィィイイアアアア……!!」


「おぉ~……。」


 その瞬間、カッパのミイラはみるみる息を吹き返し、さながらイエスキリストの復活を目の当たりにしているようであった。

それをみていたアス君が小さく驚きの声を上げる。


「う、うあ! あ、うぅうううがああああああッッッ!!」


「……。」


 いや失礼、デーモンの召喚の間違いであった。

ファラデーモンは生き返ると同時にケーキに飛び掛かった。

手にしたのはいかにも甘そうなチョコ味だ。


「すごい。手品みたいだ。僕、もっと見たいです。」

 

今度はちょっと天然ぽいからナツの方だろうか?


「なぁ、申し訳ないのだけど、正直2人が入れ替わっても申告がない限り違いが解らないんだ。

 なにか判別方法はないのかな?」


「え? あぁ、そうだったんですか……。

 僕らは全く正反対の性格なので、逆に何故違いが解らないのかが不思議なくらいです。

 ちなみに今、入れ替わってます。」


自覚がないというのはやはり罪深いものだ。


「ちなみにちなみに、今はどっちだと思いますか?」


 いやわかるか! めんどくせぇ女子か!!

顔の前で手を組んでじっとこちらを静かに見つめるお茶目な双子。




 ー ねぇ……。どっちだと思う……? ー




ふと脳内に声が響き、視界がぼやけて白い光に包まれた。


え、なんだ……。


この感覚……前世の記憶……?



「ねぇ、アタシが―――を好きか嫌いか、どっちだと思う?」

 

 うわ、可愛い……。この子、誰だ……。

高校生……? クラスメイトとかか?

ちょっと若過ぎな気もするけど、俺好みの品のある落ち着いた見た目……。

将来有望な美少女じゃないか?

好きとか嫌いとか、まさか、告白……?

あれ、なんか、見てる俺までドキドキしてきた……。

というか、こんなに鮮明に人の顔が見えたの初めてじゃないのか……?

一体、何が起こってるんだ……。


「もう、答えない気? それじゃぁ、付き合ってあ~げない。」


いまいち状況が飲めないけど、とりあえず俺、振られた……?


「なんてね。す……好き、だよ……。

 去年の夏から、ずっと……。………。あぁもう見んなバカーーー!!」




じんわりと、視界が戻る。




「はッ……。」


「ん?」


 気が付くと顔の前で手を組んだ双子が期待するような目で俺をジッと見ていた。

今のは…………。

って……。

違うだろーーーー!!

ちーがーうーーだーーーろーーーー!!


「このハゲーーーー!!」


「え? 僕、ハゲじゃないです……。」


「…ハッ!」


 思わず叫んじまった。

いやでもなぁ!

違うだろ! 今じゃないだろ!

なんでこのタイミングなんだよ!

シチュエーション大事にしてよ!!

もう誰よこんな酷い事するのダレなのよもぅ!?


「それでそれで、今はどっちだと思いますか?」


「うるせぇ! 目キラキラさせんな!!」


 あークソ……。イライラするー……。

意地でもラブロマンスさせねぇ気だなちくしょう……。


スー……ハー……。


よし、仕切り直しだ……。


スー……ハー…。


 深の呼吸……。

逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。

考えるな、感じろ……。

……。

いや、やっぱりわからん……。


「あ。」


 そうしてこの期待に胸をときめかせた双子としばらく睨めっこをしていた時、俺はあることに気が付いた。

うん、この方法なら判別ができるかもしれない。 

俺はケーキを貪る凶悪なデーモンにある命令を下す。

そう、この方法なら――


「ファラ、双子に抱き着け。」


「ふえ? 良いの……?」


 目を輝かせ「わーい! いっただきま~すぅ!」と遠慮も躊躇いもなく無邪気に抱き着くと、暫くファラのウシ乳に双子の顔の半分がモズッと埋もれた。


「きゃ~~~! もっちもち~~~!」


「……。」


う~ん、相変わらずの無表情、ここまで無反応となると今は弟の方かもしれない。


「チッ……。」


「あ、いま舌打ちしたから兄のアスだな。」


「はい、正解です。あの、いい加減に止めてもらっていいですか?」


「ファラ、お座り。」


そういうと少し寂しそうにのそのそとソファに戻り、再びケーキとお菓子を貪り始めた。


「まぁ、見ての通りだ。こんなやり方じゃなきゃ今はキミら双子の判別ができない。」

 

「それは非常に困りましたね、ムフフ。」


 え? ムフフ?

急にどうした。そーゆー病気か?


「あ、いま僕は弟です。兄者は大層ご立腹ですが、僕はこの判別方法、イヤじゃないですよ。ムフフ。」


 この弟、喜んでる? むっつりさんなのか?

ちょっと引く。

 

「そ、そう……。えっと、そうだな、例えばふたりは特技とかってあるのか?」


「あぁ、それなら。僕は降霊術が得意です。

 少々窮屈になりますが、あらゆる死者をこの身体に憑依させることができます。」


 窮屈になるというのがよく解らないが、狭い四畳半に3人で住むようなものだろうか? 

てか降霊術って、何気に凄いのぶっ込んできたな……。


「え、ちょ、それホント? 今もできるの? 凄い見たいんだけど。」


「いいですよ、ちょっと待ってください。」


「…………。」


そういうと目を硬くつむり、暫くの間、時間が止まったように無言になった。 


「…………。」


「はい、どうぞ。」


「え? 今の間、なんだったの?」


「どなたを呼び出しますか?」


 あぁ、そうか、呼び出したい相手がいなければ降霊術は成り立たないのか。

しかし俺には前世の記憶もほとんどないし、この世界に来てからの日も浅い。

そもそも前いた世界の死者を呼び出せるのかも疑問だ。

どうしたものか――


「どうしました? もうテンションゲージはとっくに満タンなのでいつでも繰り出せますよ?」


「必殺技か何かなの?」


 じゃぁさっきの間は溜め時間みたいなものか。

アホくさ、だんだんどうでもよくなってきた。


「え~と、う~んと、じゃぁ武田信玄。」


「はい。それじゃあ、いきます。」


やるんかーい。


「えきて そひむ ないてや いんで ぶいあ すじへ どどえる――」


 突然謎の言葉を呟き始めた。

復活の、呪文……?

しばらくブツブツとその呪文を呟くのを聞いてたが、正直もうどうでも良い。


「そへな いてぶ のくとう おあさ――」


なげぇな、早く終われよ。


「はぁっ!! プレゼントフォーユゥ!!!」


 プレゼントフォーユゥ!?

何を!?誰に!?


「…………。」


呪文を唱え終わったのか、急に死んだように静かになった。


「あの、ナツ君? おーい、大丈夫?」


「ナツ君? 僕はタケ、田信玄だ。」


「は?」


なんか自己紹介のアクセントがきもい。


「あ、ふぅりんかざんん~。」


突然歌舞伎に興じる信玄公。


「おまえ、バカにしてんだろ。」


「失礼な奴だなキミは、誰が何と言おうと僕はタケ、田信玄であるぞ。あ、ふぅりんかざんん~。」


「あーわかったわかったから、もう帰ってください。

 あと一人称が僕ってのも凄いイメージ崩れるからやめてくれ。」


「あ、ふぅりんかざん……かざん~……ざん~……。」


 独りで勝手にフェードアウトしていく……。

そんな信玄公を静かに見送った。


「ふぅっ、どうでした? 僕の降霊術は。」


「あーすごいすごい。すごかったよ。うん、大したもんだと思ったよ。」


「む……。もしかして馬鹿にしてます?

 いいでしょう、それじゃあ次は本気で行きますよ。さぁ、お題をどうぞ。」


 いやいいよもう! 急にムキになるの女子か!

てか今お題って言っちゃたよこの子。


「あー、んー、ガンジー? うん。ガンジー。」 


「はぁ!! えきて そひむ ないてや いんで ぶいあ すじへ どどえる――」

 

「またそっから始まるのか!」

 

だが今度はノーチャージで復活の呪文を唱え始めた。


「はぁっ!! プレゼントフォーユゥ!!!」


 だからなんなんだそれ。

そして再び静かになる。

その後も俺が話しかけず黙っていると、チラッチラッとこっちを見て来る。


……チラッ。


 うぜぇ!! はやくやれ!

諦めたのか、ナツはようやく話し始めた。


「ぼ、僕は……、ガン、爺……。」


「誰だよ……。露骨に失敗してるじゃねーか……。」


「じ、重要なのは行為そのものであって、結果ではない。」


「おまえが言うな!」

 

「結果がどう出るにせよ、何もしなければ何の結果もないのだ。」


「だからお前が言うなっ! あぁもういい! やめだやめっ!」


 俺がそう声を荒げた時だった。

今の今まで黙々と隣でケーキを食べていたファラが俺の肩をトントンと軽く叩いた。


「ねぇねぇ、武田信玄とガン爺も兄弟なの?」


「む、そうじゃ。」


「いやちげーよ! もう帰れよガン爺っ!! むかつくなぁっ!!」


「弱い者ほど相手を許すことができない。

 許すということは、強さの証だ……あかしだ……かし……だ……。」


 そういうと再び静かになった。

最後の最後まで癇に障るやつだったな、ガン爺。


「ふぅっ、これでわかっていただけましたか? 僕の降霊術の実力ってやつを。」


「あなた小さいのに凄いのね。ガン爺の言葉に感動しちゃったわ。」


このノリで行くともう一発お題が繰り出しそうなので、そろそろ話を切り上げたい。


「じゃあ次は――」


「もういい! もういいから!!」


 あっぶねぇ、だいぶ食い気味に阻止したぞ。

それみたことか、すぐ調子に乗るのがこの弟らしい。


「それで、兄者は何ができるんだ?」


「兄は腹話術ができます。」


 腹話? しょーもねー……。

どーせまたふざけた感じに決まっている。


「兄者、シーヴさんたちが呼んでいるので起きてください。」


兄者寝てた。


「フゥ……。はぁ、今度は何です? せっかくヒトが気持ちよく寝ていたというのにまったく。」


「いや、何でもない。寝てていいぞ。」


「なるほど、僕の腹話術が見たい、と。」


「言ってねーけど? おまえ起きてたろ。」


「はぁ、しょうがないですね……。正直面倒ですが、そこまで言うなら少しだけですよ?」


 お、もう勝手にやってくれ、俺は知らん。

アスはいかにも面倒くさそうにズボンのポケットから茶色の人形を取り出した。

そしてそれを手にはめ、人形の口を動かす。

その瞬間、アスの口は動いていないというのにどこからともなく声が聞こえた。


「僕は、ガン爺。」


……しょーもな。

馬鹿どものせいで外はすっかり暗くなっていた。


「アホー。パンッ! アホー。パンッ! アホッ! パンッ! パンッ!」


 外を見ると頭の悪そうな動物がケツを叩きながら、いつまでもやかましく鳴いていた。

こんなことならずっと道に迷ってた方がマシだったわ。

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