表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 3章 エンバー
79/402

Liar_4

数日後、メノさんと荒くれ者たちの蔓延る酒場、マッシュルームヘッドで会った時に聞いた話。

 

「ライラと言う名前、気になって少し調べてみたんだが『神聖な夜』という意味があるらしい。

 それからヒト世界には『嘘つき』という言葉があるそうだな。」


「あぁ…多分それ英語の『ライ』ですね。でもこの場合『ライアー』かな? あ……。」


「あぁそうだ。『ライアー』これには何か因縁めいたものを感じた。

 だからどうという話でもないのだが、ライラの母親はあの娘を通して、自分の罪と向き合い、本当の姿を取り戻そうとしていたのかもしれん。そう思ってな。」


メノさんはそういうと、ジョッキに並々注がれた真っ黒なクワーティを飲み干した。


「じつは今回、結局奇跡を使ったんです。

 真実はともかくとしても、やっぱりライラには母親の想いだけでも届けたくて。」


「そうか……。そうだろうな。結果論になるのかもしれないが、きっとそれで良かったのだろう。

 他者の想いを背負う事、そして想いを救う事は、自分で思うよりもずっとずっと難しい。

 救うどころか、あわや壊してしまう場合もある。

 或いは周囲を巻き込んだり、自分が壊れてしまうというのが実際のところ、ほとんどだろう。

 オレはそれを身を以て知っているから、それがどれほど勇敢な行いか、どれほど器の大きい人物かが良くわかる。

 正直かなり驚いたぞ。本当によく頑張ったな。ほら、おまえも飲むといい、俺のおごりだ。」

 

メノさんは笑いながら2つのジョッキに並々とクワーティを注ぐ。


「実は俺も驚いています。

 あんな小さな女の子を一人救うのに、これほど大勢のヒトの力を借りることになるなんて、はじめは思いもしませんでしたからね。あ、乾杯。」


 静かにジョッキをメノさんと交わす。

乾杯、細やかに。

グッと一気に酒を喉へ通す。


「うっ……。この酒は、一層強烈ですね……。」


 そしてやっぱり、その美味しさはまだ解らなかった。

ハッハッハッとメノさんが嬉しそうに笑う。


「俺、やっぱりまだまだ半人前ですね。」


 なんとなく、口から出た言葉だった。

けれどメノさんは少し考える様に視線を落とすと、呟くように語り始めた。


「……。これはオレの持論で、他者に話すようなことでもないのだが……。

 本当の一人前と言うのは、他者を頼る事が出来る者だと思っている。

 そしてそれは依存や利用、甘えとは違う。ヒトを信じる勇気、信頼関係の上に成り立つものだ。

 頼るべき時をわきまえ、迷わず仲間の力を借りれる心の強さなのだと。

 それが出来て初めて一人前と言えるんじゃないか、とな。

 だからお前はオレから見れば、十分に立派な一人前だと思うぞ。」


「あぁ、そういえば、メノさんのお手紙大作戦が失敗した時、よりにもよってあのファラにカウンセリング受けてましたよね。

 あれも一人前の証ですかね?」


「ブーーーーッッッッ!!」


 さっそく酔いが回ったのか、柄にもなく気の利いたことを言って、酒にむせるメノさんを笑いながら周囲を見渡す。

カウンターにウタさんがいる。

見知らぬハンターの胸ぐらを掴んで何やら泣き叫んでいる。

ファラはまた腕相撲大会に熱中している。突然大きな歓声が上がった。


「まじか! ゴライアスが敗れたぞぉおお!!」


 どうやらあの巨人のゴライアスを打ち負かした猛者がいるようだ。

すごいな! 一体どんなヤツが……。

しかし、俺は目を疑った。


「ちょ、まー、てー、よぉ~……。」


歓声を上げる酔っ払いに囲まれ、笑顔で右腕を高く高く掲げていたのは、シッターのイスタさんだった。


「なん、だと……。」


 あぁ、これはきっと、悪い夢だ……。

俺は無意識のうちに窓の外に視線を逸らしていて、そして現実逃避という言葉の意味を身を以て思い知った。


 窓の外には今日も月が浮かんでいる。

半分に欠けたそれは、これからまた少しづつ満ちて満月になっていく。

月の綺麗な、良い夜だった。


 母親の最後の願いはライラにちゃんと届いた。

自身のいなくなった世界で、ライラはこれからも生きていく。

それは辛く苦しい日々になるのかもしれない。

けれど、もう泣き虫ではなくなったライラを見たら、きっと嬉しく思うだろう。

………いや、もしかしたら寂しがるのだろうか。

なにしろ甘えん坊なのは、あの泣き虫な母親の方なのだから。


「母親……。か……。」


「ん? どうした、シーヴ。」


「あ、いえ。ちょっと物思いにふけってただけですよ。」


 俺の母は、どんな人だったろう。

ふとライラとの対話の中で自分が流した、あの涙の理由が気になった。

なぜあれほどまでに、胸を締め付けられたのか……。


 けれどあれは――温かかったのだ……。

あの時、胸の奥を例えようのない激情に焼かれた。

それはきっと、記憶に思い出せずとも俺が母から受け取った温もり、愛情の大きさなのだろう。


 欠けた月を眺めながら、顔も名前も、影も形も思い出すことのできないその人を、ライラと話した時に流したあの涙を、俺は信じたいと思った。

3章は世界仰天ニュースみたいだねぇ~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ