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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 3章 エンバー
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Liar_1

「あ。えっと……。」


「おはようございます、シーヴさん。」


 夕暮れ過ぎ、待ち疲れた俺はそのまま休憩室のソファで眠っていたらしい。

優しく肩をゆすられ、心地よい眠りから目を覚ますと、嬉しそうなイスタさんの顔が目の前にあり、なんだか胸がときめいた。


これは――恋か……。


 どうやらライラが目を覚ましたらしい。

託児所の寝室前で足を止める、イスタさんには念のため扉の前で待機してもらう事にした。

ライラのいる寝室のドアをそっと開ける。

中は静かで、蠟燭の明かりだけがゆらゆらと揺れ、落ち着いていた。

寝室に入ると、入り口に背を向けてベッドに座るライラがこちらに気付き、しっかりと目が合った。


「おにーちゃん。なに?」


 落ち着いてはいるが、明らかに憔悴しきっている。

でも大丈夫だ。

俺は、俺達はきっと、力になれる。


「うん、ちょっとライラと話したくて。少しは落ち着いた?」


 コクっと、小さく頷く。

俺はそれを確認し、ライラの隣に静かに腰を下ろす。

入り口の方を見ると、小窓からイスタさんがチラッと覗くのが見えた。


「明日、ファラの知り合いの孤児院に行くことになったんだ。

 ファラが育った場所、ライラはこれからそこで生活することになる。」

 

「えっ……。おにーちゃんたち、いっしょじゃないの……?」 


 か細い声は震え、不安にライラの表情が一気に曇る。

母親との突然の死別。

その矢先、唯一の拠り所であった俺たちからも引き離され、これからは知らない場所で知らないヒト達に囲まれて生活することになる。


「孤児院までは一緒に行くけど、おにーちゃん達とはそこでお別れなんだ。

 大丈夫、そんなに離れた場所じゃないから、すぐまた会え――」


「やだッッッ! やだやだやだッッッ!! いやだよ!!!」


 俺の言葉を遮って大声を張り上げ、駄々をこね、必死に自分の想いを伝える。

それはどんな言葉よりも実直に、痛いほど胸に届いていた。

けれども、これは必要なことだ。

この劇の悲惨な結末を、トゥルーエンドへ導くために。


「おかぁさんも! おにぃちゃんも! おねぇちゃんも! みんなウソつき!!

 アタシのことおいて、みんなアタシのこときらいだから! アタシがナキムシだから!

 ウソついてどっかいっちゃうんだ!!」


 カンシャクを起こし、声を更に荒げてライラは泣き崩れる。

そのあまりに大きな悲鳴に心配になったのか、堪らずイスタさんが扉の隙間から覗いていた。

こちらの視線に気付いたイスタさんの口が動いてる。

部屋が薄暗く逆光で良く見えないが「大丈夫ですか?」そう言ってるようだった。


大丈夫ですよ。


 俺は笑顔でイスタさんに向けてグッと親指を立てる。

何故か怪訝な目をされた気がしたが、解ってくれたのか静かに扉を閉めた。


 俺は手袋をはめる。

いまはまだ、この奇跡は必要ない、そんな気がしたからだ。

ライラの頭を撫でながら、ゆっくりと話し始める。


「ライラのおかぁさんは、どんなヒトだった? おにぃちゃんに教えてくれないかな?」


 そういうとライラは泣き顔を上げた。

くしゃくしゃに涙で歪んだライラの顔の前にロザリオを差し出す。


「これ、ライラにって、おかぁさんから預かったんだ。」


「おかぁさん……。これ、おかぁさんがたいせつにしてた……。

 いっつもたいせつそうにもってた……。すごくたいせつなものだからっていってた……。」


「それじゃあ、おかぁさんはどんなヒト? ほんとに、嘘つきだった?」


「おかぁさんは……、おかぁさんはウソつきじゃないよ……。アタシのおかぁさんは――」


 ライラは何度も確かめるように、沢山の母の姿を叫んだ。

優しい母を、怒った母を、泣いた母を、笑った母を……。


いつもずっと傍にいてくれた母。


眠れないときはお話聞かせてくれた母。


一緒にご飯を作って笑ってくれた母。


名前を呼んであたまを撫でてくれた母。


 美味しいごはんを食べさせてくれた。

面白いこと沢山教えてくれた。

楽しい場所にいっぱい連れてってくれた。

泣き虫な自分をいつだって抱きしめてくれた。

転んだ時も怪我した時も泣いちゃだめだよって励ましてくれた。

寝たふりしたら抱っこしてくれた。


大好きな母を、何度も、何度も、何度も。


「ほかにも……ほかにも……――」


 叫ぶ度に涙を流してなお、それは止むことはなかった。

声が枯れ、嗚咽交じりに言葉を失っても、涙で視界がなにもかも滲んで訳が分からなくなっても。

その想いと叫びが止むことは永遠になかった。

ライラの肩を抱きながら入り口の窓越しに、イスタさんが見えた。


ありがとうございます。


 そう言われた気がした。

あれ――俺…………。


「あ……あれ……。」


 その時、いつのまにか自分が泣いていることに気付いて、驚いた。

別に、悲しくはない。

ライラに共感して涙が流れたわけでもない。

もっと別の、例えようのない感覚。


 知らないところの――懐かしいなにか……。

温かい――なにかなんだ……。


喉の痛みに耐えながら、ライラとの対話を続ける。


「おかぁさんのこと、好き?」


「だいすき……。だいすき……。だいすき……。だいだいだいすきだよ……。」


 涙が零れ「だいすき」と口にする度に、母との思い出を、母と育んだ愛の深さをライラは確かめていたと思う。

それはもう、奇跡なんてちっぽけに思える程、十分に伝わっていた。

ライラにも、ライラの母にも、他人である俺にだって。


もう、いいよな――


 頬を涙が伝った。

俺は手袋を外し、ライラに触れる。




 ー ララちゃん、泣かないで…… ー




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