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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 3章 エンバー
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Failure_4

「んぎょぇぇええ!?」


 待ち合わせの広場、時刻は朝10時少し前。

噴水に到着すると、背後から肩をトンっと叩かれ、ファラの影におびえていた俺は間の抜けた悲鳴を上げた。

振り返るとなんてことはない、ただのメノさんだ。


ホッ。


「おい、シーヴ。……か? その怪我は一体、尋常ではないぞ……。何があった?」


「夜這いよ夜這い。そのヒト、女の寝込みを襲って返り討ちにあったの。」


「ひぃっぐっ!!」


 あいやぁ~ファラっ! イタノカ!

突然ピリピリとした空気を感じて、反射的に身構えてしまう。

不機嫌そうに腕を組み、相変わらず顔をそむけたまま目も合わせない。


「夜這い……? 一体どういうことだ?」

 

「あ、あの……。ファラ、俺……。」


「あーあ、なんかお腹空いちゃったなー。ダーティワンアイスクリームでも食べたい気分。」


 チラッ、チラッとこちらを見る。

い、行かないと――今度こそ、命はない……。


「か、買ってきます……!」


「アイスはトリプルよ! あと、クレープにタコ焼き、あじまんもね!」


「はいぃっ!」

 

「おい、ファラ。」


「いいのよ、コレくらい。それだけの事したんだから。

 むしろこの程度で許してあげるんだから優しいもんでしょ。」


「いや、違くてな、あじまんとは何だ?」


「あら、あじまん知らないの? と~っても美味しくて、ほっぺた落ちちゃうわよ?」


「そ、そんなに美味いのか……。ジュルリ……。」


「ほら! さっさと行きなさいよ下僕!!」


 俺はケツの激痛を上手く庇いながら必死に街の屋台を駆け回った。

ダーティワンのアイスはすぐに見つかった。

けれどタコ焼きにクレープはなかなか無い。

何より大変だったのが「あじまん」の捜索だった。

街のヒトに聞いて回って知ったのだが、今川焼とか太鼓焼きとか、色々呼び方の違うアレのことらしい。


 買う順番を間違えた。

戻る頃にはアイスの山は崩れ始めていて、ズタボロの俺が息を切らせてヨタヨタと戻るとファラは仁王立ちで腕を組み、相変わらずゴミでも見るような目で俺を見ている。


「か、買ってきましたぁ……。」


「あら、随分遅かったのね子ブタちゃん。待ちくたびれてアタシもうお腹ペコペコ~。」


「す、すみません……。ファラ様……。」


 一転、嬉しそうに溶けかけのアイスの頭を一口で食べるファラに、俺はペコペコと頭を下げる。

そんなやり取りをしているとメノさんに後ろから肩を叩かれた。

何やらそわそわしている。


「オ、オレの分のあじまん……。あじまんはあるか?」


「え? えぇ、勿論。あんことクリームがありますけど……。」


「おぉ! これがあじまん! あんことクリーム、か。な、悩ましいなっ!!」


 え、なに?

こんなに興奮しているメノさん初めて見るな。

意外と食いしん坊なのか?

目をキラキラと輝かせ、ブンブンとシッポを振ってる。

犬かな……?


「よければ2つとも食べてください。沢山ありますので。」


「い、いいのか! それじゃあ遠慮なくいただくとしよう。」


 やや緊張した様子であじまんに齧り付く。

その瞬間、目を見開き、世界の神秘が織りなす絶景でも目の当たりにしたかのように絶句し、静かになった。――いや、昇天した。

 

「ハァアア……。これは……。あぁ……。わが主よ、わが神よ――」


 あらら、どうやら完全に自分の世界に入ってしまったらしい。

そんなメノさんを見ていると再びファラに声を掛けられた。


「はい。一口だけあげる。」


 ぶっきらぼうに溶けかけのアイスの乗ったコーンを顔の前にズイッと突き出される。

なに、これ、今度は何?

喰わないと殺される? それとも喰ったら殺される?

俺が迷っていると、馬乗りのファラの目つきがキッと鋭くなった。


「う、あー、りがとーぅ……。」


 恐る恐る、一口。

ヒヤッとした感覚が口から脳に伝う。

味など解らない、傷口に沁みてひたすら痛かった。


「おいしい?」


「う、うん。美味しい――かな~。」


 ファラはじっと俺の目を見ている。

探るように、見透かすように。

なんだ? なにがしたいんだ……。

わからない! ウマモン、怖いっ!!

殴らないでっ! 殴らないでっ!


「あ、あの、俺……。昨日は――」


「許さないわ。」


 遮る冷たい一言。

あ、やっぱまだ怒ってるよね……。


「また謝るなら、もう許さないから。」


「え。あ、うん、ごめ――」


「もう……。」


 呆れたようにため息をついて、俺の口にアイスを押し付ける。

反射的に謝りそうになり、出掛かった「ごめん」という一言はそうして遮られてしまった。

あぁ、そーゆーことか……。

そしてファラはアイスの残りをササっと食べ終えると、今度はクレープを食べ始めた。


「さ、そろそろギルドも開く時間でしょ? しー君、ライラちゃんまで待たせる気?」


「あ、そうだ。メノさん、行きましょう! あの、メノさん……。」


見やればまだ自分の世界に浸かっている。


「あんこ。クリーム――どちらも甲乙つけがたい世界の神秘……。悩ましい。実に悩ましいぞぉ!

 オ、オレは! けれどオレはどちらかを選ばなければいけない!

 オレはどちらも愛してしまった!! あぁ! 主よ! 神よ!!」


 なにやってるんだこのヒト、今どんな世界に行ってるの。

通行人めっちゃ見てるんですけど。


「なにあれ、劇の練習? なんかやばくない?」


『え? あれ師匠じゃん。おーい! ししょー!』


あ……。

  

「なんだなんだ大道芸か? あ、おいウマモーン! こんどはサーカスでも始めんのかぁーー!?」


……。


「うっさいわよ! このボケナスどもーーー!!」

 

「おいあれ見ろ、マヌケ面のカーズマンもいるぞぉ!」


げっ……。


「掘り掘り大サーカス開催ってか!」


『そりゃズッコケ見世物小屋の間違いだろ! あっははっ!!』


 あちこちから指をさされて、いよいよ笑い声が上がる。

まぁ、もう慣れたけど……。

そうしているとついに街の子供たちまでもが集まってきた。


「あ! ウマモンだ!」


『ほんとだ! やーーーい! ウマモン!! バーーーーカァ!!』


「こーんのクソガキどもぶちころすぞーーーー!!」


「おいやめろ! 子供に手を出すのは流石にまずいってば!!」 


「あー! カーズマだーーー!!!」


『ほんとだ! やーーーい! カズマッカズマー!!』


「わちょ! ちょまっこのっ! 誰だカズマッてのはぁあああああ!!」

 

「ヒッ! あのヒト昨日のヘンタイッ!!」


「ブーーーーーーッ!!」


 思わず吹き出した――見れば児童預かり所にいたシッターのおばさんだ!

あいや~ちょまちょま! なんでいんのーーーーー!! 

 

「アー! もうこんな時間だ! ほら、劇の練習はここまで!

 い、急いでギルドに行かないとー! ライラちゃんも待ってるしーー!

 でもでも、俺は別にヘンタイじゃないぞーーー!?」


 俺は2人の手を無理やり引っ張ってその場を逃げるように離れた。

厨二師匠、ウマモン、カーズマン――並びにヘンタイ……。

カズマって、なんだよ……。


 俺たちはマヌケな3人組として少しずつ、確実に街の笑い者になっている。

挙句ズッコケなどという、ふざけた通り名が定着するのも時間の問題だった。

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