Failure_1
「そうか…捨て子か……。…………。なるほどな……。事情は分かった。獣の姿になった――か。
…それは前世で嘘をつきヒトを騙す、いわゆる詐欺を働いた者が背負う業苦だと聞いたことがある。
まぁなんにせよ、いずれはギルドの討伐対象となっていただろう。
報告ご苦労だった、ところで私から一言いいか?」
ケズバロンに戻れたのは随分と暗くなってからだった。
ギルドへの報告の前に一度、メノさんが泊まっている宿にお邪魔してそれぞれ悪臭にまみれた体を洗っていた。
しかしこびりついた血と脂の重苦しい臭いは簡単には落ちず、既に鼻の奥まで染み着いているようであった。
特に、もろに血しぶきを浴びた俺の臭いは凄まじく、それは正に呪いのように纏わりついて離れなかった。
そうしてなんだかんだ報告をしに行く頃には21時を回っていた。
受付のヒトに声を掛け執務室に通されてから、今日の報告を終えた今の今まで、ウタさんは大層ご機嫌斜めな様子で腕を組み、先ほどから眉間に皺を寄せた怖い顔で、偉そうに足を組んで椅子に座っている。
「遅い! どれだけ心配したと思っている!
お前たちの帰還が遅いから、こんな時間まで残業させられてしまった!!
今日は給料が入ったから、定時に上がって酒場で飲みたかったというのにっ!
くぅっ! このボケナスどもっ! 私の時間を返せっ!!」
「……。」
日頃のストレスからか、ついに本音が出た。
思わず責任を擦り付け合う様に、3人で顔を見合わせてしまった。
「え、俺?」
そしてどうやらそれは俺のせいらしい。
2人の目がそう告げていた。
「すみません……。あの、それでライラは……。」
「ん? あぁ、今日一日たっぷり遊び疲れて、もう眠ってしまったよ。
託児所の寝室にいる。まったく、子供というのは気楽なものだな。
いま動かすと起きてしまうぞ。今日はもう遅いのだから、話なら明日でもいいだろ。」
そう言いながら、いそいそと帰宅の準備を進めるウタさん。
「そら、無事に帰還し報告も終わったんだ。さっさと帰った帰った!
あー、それとメノ!! お前は一杯付き合えよ。」
「いや、悪いがオレはまだやることがあって――」
「おい、私の貴重な時間を奪っておいて、ソイツは道理が通らねぇんじゃねぇのか。
一杯で良いってんだ、付き合えよオラ。」
「あ! おい! ツノを引っ張るな! ぬっ! ぬける!!
くそ! シーヴ! とりあえず明日また同じ時間に!! 噴水前に待ち合わせよう!!」
ごねるメノさんのツノをぶっきらぼうに引っ張ってウタさんは出て行った。
「……。」
「さぁ、俺達もいこうか。」
ファラとそれを見送った後、ギルド内の託児所にこっそり立ち寄った。
寝室の窓を覗くとライラの無邪気な寝顔が見えた。
あぁ…よかった、ちゃんと寝れてるんだ。
なんだかとても久しぶりに帰ってきた気がして、少し安心し顔がほころんだ。
「ふふっ。ライラ、可愛い……。よく、寝てる……。」
「ヒッ……。ヘンタイ……!」
「え……。」
突然、近くを通ったシッターのおばさんが窓に映った俺の顔を見て小さな悲鳴を上げ、飛ぶように逃げて行った。
多分、ヒトを呼びに行ったんだと思う……。
「…………。」
「えっと、ごめんね、しー君……。その顔、ほんとに気を付けた方がいいと思うわよ……。
ひいき目に見ても、相当えげつない顔してる……。」
「え、えげつないって……。お前、言って良い事と悪いことがあるぞ……。」
しかもファラのみならず、第三者にまでヘンタイ呼ばわり……。
「ねぇ、それより多分ヒトが来るわ。大事になる前に逃げようよ……。」
「うっ……ちっ、くそっ……。」
まるでコソ泥が逃げる時のように託児所の窓から外へササっと飛び出し、俺達はボーラさんの家を目指した。
ギルドの正門前を通ったところで、中からドタバタとヒトの駆け回る音と声が聞こえて来た。
どうやら結構な騒ぎになっているらしい。
「いたかー!?」
「いや、こっちにはいない!!」
「リオー! そっちはどうだー!」
「だめだ! それらしいヤツはいない!」
「おい! 窓が開いてるぞ! こっから外に逃げたんじゃないか!?」
「ちぃ! 逃げ足の早い悪質な変質者めっ!」
うぅ……。変質者ってなんだよ……。
しかも悪質って――ちくしょう!!
あのシッターのババァ!! ぜってぇ許さねぇ……!!
らららこっぺぱん。




