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Feed The Wolf_6
「ラ……ラ……」
突然の出来事に気をとられた、その僅かな数秒。
その一瞬、静止した獣の背後に、メノさんが切りかかるのが見えた。
「あ。」
待って――って。
「ま――」
そう言いたかった。
「って――」
間に合うのなら――
「……。」
無音でビュルビュルと、しきりに血しぶきを上げ、おぞましい獣の頭部は赤い目をビクビクと見開いたまま、俺の頭上を音もなく静かに、舞う。
ボタボタと、吹上げた血と脂を大粒の雨のように全身に被った。
ボツッと、鈍く、嫌な音と共に横たわる赤黒く爛れた肉、ネットリとゆっくり広がる血だまり。
血が、脂が、空気が、臭い。
一瞬の出来事。
俺は、訳の分からない、まま 言葉を亡くし
何も
考えられ
栃木は何もない。




