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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 2章 アイ ザ ファイア
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anthem_14

「いったぁ……。ちょっと無理あったかなぁ……。」


 会場が静まり返る中、ファラが辛そうに両手を振っているのが遠目に見える。

木っ端みじんになった木剣。

生死不明の巨漢。

砕け散った石板。

損害賠償責任の行方――


 瓦礫の山を前に、ファラの背中が解説の男のいる小窓を見上げていた。

多分睨みつけているのだろう。

そして我に返ったように解説の男が慌てて喋り始めた。

 

【あ! えー! 勝者!!! ウマモンって――】


ミシッ……


 そう言い終わるかという頃、瓦礫の山が不自然に音を立ててグツグツと盛り上がる。

そして巨漢がゆっくりとその山の中から強者のオーラを放ちながら静かに現れた。


「フゥ。」


 良かった――はたして幸か不幸か、生きてる……。

億劫そうにはしているが、怖いほどピンピンとしている。


【ゴッッッ!!!! ゴライアスッッッ!!!! 生きてるぞぉぉおおおおおお!!!!!】


 ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー


呆気ない不敗伝説の復活に、観客は再び大いに盛り上がる。


 ー ゴライアス!!! ゴライアス!!! ー

 ー ゴライアス!!! ゴライアス!!! ー

 ー ゴライアス!!! ゴライアス!!! ー


【おいおいおいおいおいおいおーーーーい!!!!! 無傷って!!! 化け物かーーーー!?!?!?】


 ファラはほぼ無傷のゴライアスを前に微動だにしない。

石板が無い以上、この位置からではもう表情が分からないが、流石に動揺していることは嫌でも伝わってくる。

ゴライアスは首をゴリゴリと鳴らし、肩を回して体の具合を確かめる。

そして落ち着き払った様子で瓦礫の山からファラを見下ろし、静かに話し始めた。


「ふぅ、驚いたな……。魔法か……?」


【ま、魔法……?? うっそぉ……? まじ……?

 えー、ウマモン……。ほんとうに……。魔法をつかったのでしょうか?】

 

「魔法って、ドルイド以外使えないんじゃないのか? あの女、ヒュムなんだろ?」


『いや、極稀に使える者もいると聞くが……。 しかし魔法であんな威力、出せるはずが……。』


 ゴライアスの言葉に解説と観客がざわつく。

ファラは背を向け、ゴライアスが先ほど捨てた木剣をのんびりと拾いながら答える。


「そうね、けどそれってそんなに珍しいの?

 私からしたら、殺す気でぶっ飛ばしたアナタが一切無傷な事の方がよっぽど驚きなのだけど。」


 確かにそうだ。

ファラの言う通り、ゴライアスはあれだけの衝撃で吹き飛び、石板が粉々に砕け散るほどの一撃を食らっていながら傷一つなく立ち上がったのだ。

いやまじでそうだよ。硬すぎだろ……。


「衝撃に驚きはしたが、威力は左程でもない。この程度では話にならんさ。

 まぁ、本物の剣であれば真っ二つだったろうがな。」


「あっそ。てゆーか、それってもう反則じゃない。」


 巨漢は話しながらファラの目の前まで悠々と歩み寄る。

平生を装ってはいるが、明らかにファラの声の調子に余裕はない。

木剣が木っ端微塵になるほどの衝撃ですら勝機の影すらも見えない相手か……。


「しかし大したものだな。正直、ヒュムのガキが魔法を使えるだけでも驚きだが……。

 ただのそれだけで、何をどうしたらこれだけ戦えるのか。俺にもっと見せてくれ、アンタの手品。」


 挑発――見下すように笑みを浮かべ、ゴライアスが無防備に両手を大きく広げる。

そしてどうやら「手品」という言葉にファラは反応したらしい。


「ちっ……。てめぇはよぉ……。バカにしてんのか……?」


 ちょ、ここに来て馬乗りのファラ、再臨……。

声のトーンが一層低くなった。

多分だけど、あの目になってる。

そしてファラはあろうことか腕を広げたゴライアスの間合いにズイッと詰め寄り、数メートルもある巨漢を真下から見上げる形で睨みつけているのだろう。


「おいおい、いいのか? そこにいるとペシャンコになるぞ?」


「おーやってみろよ筋肉ダルマが。 ペシャンコになんのはてめぇのブタ面だ。」


 おい、まじで口悪いなアイツ……。

てかもはや誰だよ。

会場中に聞こえてるんだぞお前の声。


 ファラが静かに怒りを煮立たせてそうポツリと零した瞬間、ゴライアスが物凄い勢いで両の手を叩き合わせた。

その合掌はまるで蚊でも潰すように「ビシャンッ!」と大きな音を会場中に響かせたがしかし、それは明らかに奇妙であった。

勢いよく打ったゴライアスの両手は水に濡れていたのだ。

呆気に取られていると、今度はあろうことか後頭部から大量の水を惨めに被り、いよいよ沈黙する。


「頭冷やしたら? 攻撃が雑になってるわよ、ブヨブヨ。」


【おおぉぉぉおおおおっとぉぉおおおっ!!! ゴライアス空振りぃぃいい!!! 惨めにも水を被ったぁ!!!

 ウマモン!!! いつのまにか背後にいるぞぉぉおおお!?! まじで魔法かぁぁあああ!!!】

 

 ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー


「ぐぅぅうう……。」


 みせしめのような解説の言葉に観客が湧く。

奇妙な出来事と展開の連続に、ファラへの声援こそ出ないものの、遂に歓声を上げた。

ゴライアスは俯きがちに唸り、ファラの方へ勢いよく向き直る。

そのゴライアスから数メートルの位置に、ファラは見下すように立っていた。

 

「キモ。汗だくの豚みたい。」


おいバカまじで殺されるぞお前!


「この……。クソガキィイイイ!!」


 腕を組み冷ややかに嘲笑ったファラの一言に、いよいよ怒り心頭と見える。

どうやら安い挑発に乗ったのはゴライアスだった。

怒りに任せて地を蹴り、ミサイルの如く一気に飛び込むが、直撃間近にして尚ファラは平然と表情一つ変えず、淡々と顔の前で右手の指を鳴らした。


「う!! なんだ!?」


バチッという音と同時に、思わず目を瞑るほどの眩い光がゴライアスの顔を覆う。


「電……撃……?」


 その束の間、怯んだゴライアスを踏み台にし、既にファラが飛ぶように後方へ跳ねていた。

そしてクルリと宙で身を返し、拾った木剣を振り返ったゴライアスに向けて流すように軽く投げる。


ギョォォオオオァァァアアアアアアッッッ!!! 


 それは燃える様に異常な赤色に発光すると、一瞬で数倍の大きさに巨大化し、さながら高速回転するジェット機のプロペラのような、あまりの音に耳を覆うほどの尋常でないカザキリ音で巨漢目掛けて突っ込んだ。

着弾、爆発音、土煙で視界は見えない。

ファラは軽々と着地し土煙を眺めている。

なんだ今の……。

あの威力――どう考えても攻撃魔法じゃないのか?

一体なにが――木剣を投げただけ、だよな……。


〖ブラフだ。〗


「え……?」


 突然、解説の男の声が変わった。

聞き覚えのある声……。


【ちょ……? アンタだれ……。】


 そうかと思うと解説の男が戸惑ったように喋っている。

ふと隣に座って居たヒュムの男が居なくなってることに俺は気付いた。

まさか――


〖アンタ…あれも理解できない様じゃ解説失格だぜ?

 あとはこの俺ヒュー・マン・ジャックに任せな。 へへっ。〗


何してんだアイツ。


【いやだからアンタだれ!? どっから来たの!?】


〖だから、このジャックに任せなって。へへっ。〗


【えぇ~……。こんなの前代未聞だよ……。】


だろうな。


『まず透明になったのは『アトラス』だ。

 ゴライアスが何もない所に振りかぶった時は『ノイズ』で音を『フゥ』でそよ風を起こしている。

 水とさっきの電光は『ヴィズ』と『エレクタ』だ。

 一瞬で背後に移動したように見えたのは『ヴィズ』と『ヴィジョン』の合わせ技だな。

 異様なカザキリ音と爆発音は『ノイズ』木剣が異様な赤色に発光したのは『インク』と『ヴィジョン』。

 巨大化したのは恐らく『メレット』だろうな……。

 威力こそないが、相手の危機意識を逆なでするには十分なはずだ。

 ありゃゴライアスもコケにされて、相当キレたろうよ……。

 魔法の多重発動や連続発動は頭のかてぇドルイドじゃ到底できねぇ。

 驚いた……。とんだエンターティナーだぜ、あの小娘……。

 へへっ、こりゃおもしろくなってきやがった……。へへっ!!〗


 ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー


 なにあの解説ジャック、めっちゃ優秀やん……。

解説をジャックした解説ジャックが満足そうに、へへっとヒト差し指で鼻を擦っているのが遠目に見えた。

その隣で元解説の男が茫然と立ち尽くしている。

観客、めちゃ湧いた。


〖はっ!!!! 来るぞっ!!!〗


 解説ジャックがそう叫んだ途端、土煙から真っ赤に発光した木剣がファラ目掛けて飛び込む。

しかしそれは微動だにしないファラの目の前に不自然な軌道で落下した。


〖ひゅぅ~。やるじゃん。〗


口笛やめろ。


「くっくっく……。なるほど、そういうことか……。重力を瞬間的にコントロールする魔法。

 俺の身体が不自然に浮いたのも、あの第一試合も、まぐれじゃなかったわけか。

 こんなくだらん小細工までしやがって……。しかし種がわかればどうということもない。」


解説ジャックが口笛を吹き、土煙の上がる中、ゴライアスの声が響くが、未だその姿は見えない。


「やられる前に潰せば良いだけだ。」


 その瞬間、ドンッと大きな音を立てて土煙がゴバッと勢いよくファラ目掛けて襲い掛かった。

それは今までと桁違いのスピードで、雪崩のようにファラに急接近する。

ファラの目前でいよいよ土煙が吹き飛び、ついにゴライアスが姿を現した。

さながら超高速で突っ込む10tトラックのような、豪快な体――


〖豪快な体当たり!!〗


おい!


〖シンプルなだけに隙も無く、攻撃と防御を両立する。

 もろに食らえば超即死だ!! へへっ。〗


 ………。そう……。

そしてそのまま激突するかと思われたがしかし、ファラの目前で不自然に体勢を崩す。

足をかけ――


〖足を掛けられた!!!〗


おい!!


〖いや、足を何かに取られたのか!? 前のめりに吹き飛んだぞ!! はっ!!! アイツ!!

 やりやがった!!! ゴライアスの片足にだけ瞬間的に『ファイス』で重力を掛けたんだ!!!

 そしてバランスを崩したゴライアスの身体を今度は逆に軽くしやがったんだ!!!

 ゴライアスのヤツ、そのまま勢いで吹っ飛んだぞ!!!〗


 ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー


 あーなるほどね~。

会場いい感じに湧いてますンゴねぇ。


「ぐぅっ!!! こざかしい!! 真似をっ!!!!」


 ファラが自分目掛けて吹き飛んだゴライアスの腕を掴んだ瞬間、その巨漢がギュンッと不自然にひと周り縮んだ。

しかしそれでも、ファラの体格ではあり得ないほど軽々と豪快に背負い上げる。


「ぅおおぉぉおおおらぁぁああああ!! ぃいっぽぉぉおおおおおおんんんっ!!」


 そして地面に叩けつける瞬間にはゴライアスの体はボフンッと元の数倍に膨れ上がり、地震と見まごう地響きと共に土煙を盛大に巻き上げたのだった。


「……。」


 会場が静まり返る。

しばらくの沈黙。

数秒後、土煙が消えると、小さなクレーターにゴライアスが仰向けに沈んでいるのが見えた。

ファラは先ほどの衝撃に尻もちをついたらしく、座ったままお尻をさすっている。

何が起きたのかはジャックが口笛と共に、へへっと得意気に解説してくれるだろう。


〖ひゅぅ~。〗


ほらな。


〖へへっ、今のは『ファイス』と『メレット』の高度な掛け算だな……。

 背負い投げの瞬間『ファイス』でゴライアスを軽くして、更に『メレット』で縮ませたんだ。

 そして叩きつける瞬間にそれらを解き、今度はゴライアスを重くして、更に体を倍以上に大きくした。

 へへっ。吹っ飛んだ時の勢いも生かしたパワーとスピードの掛け算!!!

 スカイストライカーが飛んだ時よりも更に高い所から、「暗愚魯鈍(スカイツリー・)の天上(ノーリード・)死亡遊戯デスバンジージャンプ 」したのと同じだ!!!

 無事で済むはずがねぇ!!!!

 一瞬に幾多もの魔法の足し引き――その俊敏な判断能力こそが、ウマモンの持つ魔法の素質なのかもしれねぇな!!! へへっ!!〗


 ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー


きれいにまとめたなぁ、へへっ。


〖不敗伝説、超戦士ゴライアス撃沈――か……。へへっ……。決まりだな!!!

 勝者! ウマモン!!!!! おめでとう!!! へへっ!!〗


 ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー


解説ジャックのキビキビとした勝利宣言の後、会場は歓声にドッと沸いた。


「あの技なんだ! めちゃクールだなっ!?」


「威力もすげぇぞ! ねぇちゃん一体何者だ!?」


「バカにしてたが、ありゃマジでめちゃくちゃ強えぇ!」


 ー ウマモン!!! ウマモン!!! ー

 ー ウマモン!!! ウマモン!!! ー

 ー ウマモン!!! ウマモン!!! ー


「ふぅ……。」


 止まぬウマモンコールの湧く中、ファラは額の汗を拭い立ち上がり、髪をかき上げる。

そして次の瞬間には嬉しそうに満面の笑みで観客席に両手を振って、黄色い声援に答えていた。


「いやぁ! どうもどうも~! いやぁどうも~~! こりゃどうも~~~!

 あっはは~、照れますなぁ~! こりゃまったく照れますな~~!!」


 てか、まじで勝っちゃったの?

まじ?? アイツ凄くないか??


〖あっ! おいウマモン!! うしろー! ウマモン! ウマモン!! うしろぅしろー!!!〗


「うぅ……。これは、流石に効いたな……。」


 突然解説ジャックが慌ててそう叫んだ瞬間、ピクリとも動かずにいた筈のゴライアスがムクッと起き上がった。

するとまた観客の声援も一転。


「おぃねーちゃん! うしろー! うしろぉー!」


「いやぁ! どうもどうも~! いやぁどうも~~! こりゃどうも~~~!!」


 あいやー、ダメだありゃ。

どうやら完全に自分の世界に入ってしまったようだ。


「バッカ! ちげーよ! うしろー! うしろぉー!」


「あっはは~、照れますなぁ~! こりゃまったく照れますな~~!!」


 しかし聞こえていない。

嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねながら、自分に降り注ぐ最終警告に大手を振って応えている。


「ありがとぉ~!! そしてっ、ありがとぉ~~!! あっはは~~~~! サンキューベリマ~~~~!!」


 背後ではすでにゴライアスが起き上がり困ったように頭をさすっていた。

そして満面の笑顔で手を振るファラの背後から、小さな肩を申し訳なさそうに小突く。


「お、おい……。」


「あ~サイン? いやっははあ~~~っ! いゃ困ったなぁ~~! いま筆持ってないからあとにしてね~!!」


「……。」


 なんでこんな時に限ってバカなんだアイツ……。

先ほどまでの声援はどこへやら、ファラの馬鹿さに観客も解説ジャックも完全に引いている。

ゴライアスは再び、今度は強めにファラの後頭部をぶっといヒト差し指でドンと突いた。


「おいっての!」


「あたっ! もうっなによ! サインはあとにして――」


そうしてようやく振り返ると、ファラの顔程もあるゴライアスの右手の中指が、小さなおでこを待ち構えていた。


「――あら……。うっふふ……。おはようござい、ます……。」


「いや、もう、寝ててくれ……。」


「ぷぅぎゃぁんんっ!!」


 デコピンと同時にファラは、足を踏まれた小犬のような奇声を上げ、ゴンッ! という鈍い音と共に綺麗な弧を描いて数メートル先まで吹っ飛んだ。

思い切り目を回して気絶しているのが遠目にもわかる……。

そして――


〖えー……。勝者……ゴライアスっすー……。うす……。〗


 沈黙、会場の熱気、即クールダウン。

ゴライアスは「どうしてこうなった……」と言わんばかりに頭を抱えている。

俺は恥ずかしさのあまり、思わず顔を手で覆って蹲っていた。

あいやー、入りてー。穴、入りてー……。


 ー あーはっはっはっはっはっはっは!!!!!! ー


 そして会場は大爆笑にエンドレス、永遠に包まれる。

ファラは奇しくも闘技場切っての歴史的笑い者として、その名を上げたのだった。

こうしてアイザファイヤーカップは、予想通りゴライアスの優勝でその幕を閉じた。

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