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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 2章 アイ ザ ファイア
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anthem_13

 悲惨な結末を迎えた先の初戦第四試合。

その衝撃と恐怖も冷めやらぬうちに、その後すぐに準決勝第一試合となったのだが、ゴライアスと闘うはずのビーフストロガノフがまさかの欠場。

「俺はもう優勝した」と勝手なことを言ってあのバカ3人仲良く帰ったそうだ。

ふざけんな。


 そして準決勝第二試合は、ファラとあの恐ろしいドーピングヘッド。

俺は流石にファラを止めようと決死の覚悟で身構えていたが、しかしドーピングヘッドは会場に現れなかった。

なんでも薬の効果が切れ、副作用で死にかけているらしい。

ふざけんな。


 かくして準決勝をすっ飛ばしていきなり決勝戦。

ふざけんな。

ざわつく観客席もなんのその。

アイザファイヤーカップもいよいよ――いや、早速大詰めだ。

解説の男が極まりが悪そうに話し始める。


【えーと……。まぁなんといいますか、みんなごめんねー。という訳で、いきなり決勝戦だ!!! やったぜぇ!!!】


ふざけんな。


【それじゃあ早速戦士の入場だぁ!!!! まずはコイツ!!!

 去年のトロフィー軽く総取りぃ!!!!!! 今年も現在全戦全勝の不敗伝説!!!! 化け物かぁ!?!?

 だれかコイツを止めてくれぇぇえええ!!!!  超戦士!!!! ゴライアスゥゥウウウ!!!!!!】


 ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー


【お次はコイツだぁああ!!! お茶目なルーキー!!!! いや、ウッキィィイイ!?!?

 なんつって! たっはっはーーっ!!! アホ丸出しーーー!!! 名前負け確定ーーー!!!

 けれどせめて、試合放棄だけはしないでくれよぉお!!!】


 ー あはははははははっ!! ー

 

 【ウマ乗り~~? モンチッチィィイイイイ!!!】


 あーらら……。会場がドッと沸く。

もはやこれは試合じゃない。サーカスの見世物だ……。

ゴライアスは早速武器を放り投げ、余裕の笑みを浮かべ観客に向けて両手を振っている。

それを見たファラはつまらなそうに腕を組み、真っ直ぐゴライアスを睨みつける。

アイツやる気満々じゃねーかよ……。

まぁ、頼むから大怪我だけはしないようにね……。


【さぁ気を取り直していってみよぅ!!!! 超戦士ゴライアスVSウマモン!!!!

 勝つのは果たしてーーー!!!! どっちだぁぁああああああ!!!!!】


「やっちまえーーー! ゴライアスーーー!」 


「くたばれウマモン!!」


 出た、ウマモン……。なんかもう、いよいよだな。

確かにウマ乗りモンチッチって長いからな、遂にどっかの緩いマスコットキャラクターと化したぞ。


「出てきたからには逃げんなよウマモン!」


「ウマモン! バーカ! あははははっ!!」


「だぁぁあああああああああーーーーー!! もううっさいわねぇぇええええ!! 黙ってみてなさいよ愚民どもぉぉおおお!!」


会場からのヤジにファラが苛立ち、ついに大声で猛反発した。


 ー シーン……。 ー


「え…? なにこれ…?」


 その瞬間、大声で笑っていた観客は一人残らず無言になり、真顔でジッとファラを見つめ始めた。

突然の異様な静寂に俺はちょっと怖くなったが、ファラはファラで何やら気まずそうに額に汗を浮かべてキョロキョロしている。

いや、こればっかりは多分お前は悪くないぞ……。


【いくぜぇえええ!!!! レーッツローックッ!!!!】


 ゴング鳴り響き、ガシャガシャと明らかにロックではないと思われる激しい音楽が会場を包み込む。

しかし観客は表情一つ変えず微動だにしない。

なにこれ怖い。

流石のファラも怖くなったのかゴライアスを睨みつける表情からは、どこか後ろめたさのようなものが感じ取れた。

威圧、威圧、威圧、無言の圧力。

もはや呪いと言っても過言ではない……。

え? お前が黙れっつったんだろ? いいよ? 黙ります。

はい黙りました。もう喋りませーん。

そんな感じだ。空気がエグイ。


「なぁアンタ、あいにく俺は女コドモを殴る趣味はないからな。

 アンタがど~してもっていうなら、別に俺が棄権しても良いんだぜ。

 それともまた、さっきみたいにまぐれで勝つ気でいるのか?」


 鳴り響く非ロックの中ゴライアスが口を開いた。

俺が棄権しても良い、か。

先ほどの武器を捨てる時の表情といい、相手に対する挑発がやたら上手い。

無論、棄権などとそんなつもりは微塵もないのだろうが……。

いよいよ挑発に乗ったファラの目つきがギラっと鋭くなったのが解る。


「アンタも……。いい加減沈めたくなってきたわ……。

 ブタ面歪んで戻らなくなるまでボコしてやるよ。」


 ワントーン落とした声音がこえぇ……。おま、馬乗りのファラやんか……。  

そんなファラのドスの効いた殺気に怖気づく様子もなく、ゴライアスは平然と続けるが――


「なら、やってみろよ。まぐれで――」

 

 ゴライアスがまだ喋り終わらない内にファラは痺れを切らして走り出した。

それを見たゴライアスが呆れたように鼻で笑い、仕方なさそうにゆったりと身構える。

対してファラは一瞬で間合いを詰め、躊躇いなく正面から切りかかる。

瞬間、ファラの体は重力を失ったようにフッと宙を舞い、身構えたゴライアスを軽々と飛び越えた。


【あぁっと! フェイント!?!

 ウマモン尋常ではない身のこなし!!! 第一試合の時とはまるで別人だぞこりゃあ!!!】


 あまりに軽いその身のこなしに観客たちの表情が無から一転、僅かに驚きに変わるのが解った。

それに反してゴライアスは、未だ余裕の笑みを浮かべている。


「おいド素人、宙じゃ体の軌道が変えられねぇぞ。」


 過去の戦闘経験からか、まるで戦闘のマニュアルに従う様に後方に大きく腕を振りかぶりながら、勢いよく砂煙を巻き上げて踵を後方へ返した。


スカ――


 否、外したのではない。

ファラが、消えたのだ。

遠めに見ている観客ですら、その瞬間を見逃した。

彼女は誰にも知られることなくどこかへ消えた。


【き……。消え……。え……。ウ、ウマモン……。消えました……。】


「アイツ、魔法か……。」


 静かなままの観客、解説が事態を把握できず淡々とありのままの状況説明を繰り返す。

多分いま気付いたのは俺だけだと思う。

アレは魔法だ。

たしか、一瞬だけ透明になれる魔法があるって――


〖ほぅ……。兄ちゃん、気付いたか。〗


「は?」


〖その通り、ありゃ魔法だ。〗


 ふと、今の今までずーっと黙っていた隣の席のヒュムの男にボソボソと話しかけられた。

アンタだれ……。


〖瞬間的に透明になれる魔法。その名も『アトラス』

 そしてゴライアスは過去の戦闘経験から、その状況下でカウンターを外したことが無かったんだろうな。

 アイツ、いよいよまじになり始めてるぜ……。〗


「は…はぁ……。」


 だからアンタだれ……。

男は得意げにボソボソと続ける。


「見ろ。」


 そう言われて男の指さした先を見ると、ゴライアスの表情からは余裕の笑みが消え、ジッと周囲を警戒するように緊張した様子で身構えている。

そうだ、一瞬で会場の空気が――


〖ウマモンのヤツ、一瞬で会場の空気を塗り替えたな。

 周りの観客も先ほどまでの沈黙とはまるで温度が違う。

 沈黙というより期待、興奮冷めやらぬ内に言葉を亡くしたという感じだ。へへっ。〗


俺の心の中の台詞まで全部持ってかないでよ。


「………。オラァ!!」


 ゴライアスの背後から足音と微弱な風、僅かだがゴライアスはその気配を逃さなかった。

再び先ほどよりも桁違いのスピードで振り向きざまに両腕を振り上げる。


「え?」


 しかしその瞬間ゴライアスの体は、まるで重力を失ったように宙へボンッと跳ね上がった。

いよいよ何が起きたのかわからず混乱し、観客がどよめき始める。

それもそのはずだ。

観客が目にしたのは何もない所に振りかぶったゴライアス。

そしてその巨漢の身体が大きく宙へ跳ねあがると同時に、その真下に姿勢を低くして木剣を両手に構えたファラが、パッと突然に現れたのだ。

誰もが目を、口を、大きく見開き呆気にとられる。

狐につままれた様に誰にも、魔法だと解った俺でさえも、状況を理解できずにいる。

ファラが走り出してからの僅か十数秒、全てがスローモーションのように時間の感覚を支配していた。


「どっせぇぇええええええいっ!!」


 バカげた雄たけびと共に、蹴り上げたサッカーボールの如く宙に舞うゴライアスに、ファラが木剣を思い切り叩きつける。

景気よく振りかぶった木剣は凄まじい破裂音と共に木っ端微塵、ゴライアスはドカンと大砲の如く吹き飛んだ。

そしてあろうことかゴライアスは、吹き飛ぶその巨漢を映し出した石板に勢いよく直撃し、会場に爆発と見紛う程の地響きが走る。

巨漢はそのまま落下、衝撃で同時に砕け散った石板の瓦礫の下敷きとなり、遂にゴライアスの姿が見えなくなった。


「ぉぃ……。バカ、野郎……。やりすぎ、じゃねーの……。」


 なにしたんだアイツ……。

これは流石に、死んでたら、シャレにならねぇぞ……。

ざわついていた観客が再び静かになる。


思考停止。


 隣の男もさすがに呆気に取られたようだ。

腕を組み、目を見開いたままピクリとも動かない。

試合開始から一分も経っていないと思われるこの一瞬に、理解不能なことがあまりに起こりすぎた。

そして俺は、あることが急に恐ろしくなった。


「あの石板……。幾らくらいするんだろー……。」

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