anthem_10
【さぁ気を取り直して!! 初戦第二試合!!!
お次はこの闘技場切っての不敗伝説を持つ、あの男の登場だぁぁああああ!!!!
その名もぉぉおおお!!! 超戦士ゴライアスゥゥウウウ!!!!】
ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー
「うっ……わ……。でっか……。」
解説のその大げさな紹介と共に現れたのは数メートルはあるかと思われる巨人だった。
どうやら常連のようで、観客の中からは「今回もゴライアスの一人勝ちだな」と称賛する声も聞こえてきた。
そういえば券売所でもゴライアスに掛けるのは禁止って言ってたな。
不敗伝説か、あながち間違ってもいないかもしれない。
あれけど、超戦士ゴライアスって…カルビの言ってた「名前負け優勝戦士」に居なかったっけか?
【対するはぁ!!! リザード族随一の剣闘士!!!
蒼き清龍王!!! メノォ!!! セレンティィィイス!!!!】
ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー
あ、さっき宣誓していた青いリザードの男だ。
凛とした立ち姿、強者の風格がある。
けど、体格差というか種族差というか、どう考えても不利じゃないか? これ……。
【それじゃあ行ってみようかぁ!!!! レーッツローックッ!!!!】
ゴング鳴り響き、再びロックじゃない方の激しい音楽が会場を包み込む。
観客は雄たけびと共に温度を上げる。
ところが開始早々、あろうことかゴライアスは突然自分の持っていた木剣と木盾を捨ててしまった。
「え……。なんで?」
ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー
俺は目を疑ったがしかし、それはいつもの事のようで、観客はそれを見てさらに大きな歓声を上げる。
確かに、考えてみれば当然の事だ。
あの体格ではそれらの武具は何の意味もなさないのだろう。
ゴライアスはその拳ひとつで、メノを叩き伏せるつもりだ。
これはある種のパフォーマンス、ゴライアスにとっては遊びのようなものなのだと、そう思った。
「ククク、さっきの大腕相撲大会、おまえ、良かったぞ。
あそこまでやれるヤツと再び戦えるとはな、正直楽しみで仕方がない。さぁ、来い!!」
ねぇもうそーゆーのいらないよぉ……。
真面目にやろうよぉ。メノってリザードのヒト、乗らないよねぇ?
身構えながら怪しく笑うゴライアスを見て、俺は落胆と不安に駆られた。
「ふん、下らんパフォーマンスだな。 しかしお前がそのつもりなら――」
そういうとメノは木剣と木盾を後方へ放り投げた。
その奇行に、いよいよ観客がざわつく。
体格差、種族差、どれをとっても勝ち目のなさそうなメノが、あろうことか唯一の勝算すらも投げ捨てた。
そして拳をゴライアスに突き出して「これで対等だ」と言い放つのだった。
【うぉぉおおお!!! 熱い!!! 熱い漢だぁあああ!!! メノ・セレンティス!!!
なんと剣も盾も捨ててゴライアスと真っ向からぶつかる気だぁぁあああ!!!
そしてあの構え!!!! 伝説のリザー道の使い手かぁぁあああ!!!!】
メノさんかぁ…超、カッコイイ!
拳と拳のぶつかり合い! それにリザー道って! くぅっ! これぞ拳闘!
俺は思わず武者震いを起こした。観客も解説も、一人残らずメノの男気に奮い立つ。
「フン、面白い……。行くぞぉ!!」
ズンッ!! と、まるで爆発でも起こしたかのように巨大な土煙を巻き上げて、勢いよく飛び出したのはゴライアス。
あの体格からは想像もできないほどに恐ろしく速い。
恐らくはスカイストライカーのソレを遥かに凌ぐほどだ。
会場の歓声がこれまでに無い程大きく盛り上がる。
【は!! 速い!!! さすがは生きる不敗伝説!!! 人知を超えたスピードだぁぁあああ!!!!!
だがメノセレンティス!!!! コイツッ! ただものじゃねぇぞぉぉおおおお!!!!】
そう、伊達に武具を捨て去ったわけではないようだ。
メノはゴライアスの豪快でキレのある右ストレートを軽々と避わし、流れるように死角に潜り込む。
体格差ゆえに死角も増える、奇しくもそれはゴライアスの弱点となった。
避わし、流し、いなし、潜り、騙し、次から次へと死角から強打を叩きこむメノ。
ゴライアスは倒れこそしないものの、時折苦しそうに体勢を崩した。
そう――これが! リザー道!!
【おおっとぉおお!!! まさかのゴライアス!! 苦しそうによろけたぞぉぉおおお!!!
これは大番狂わせっ!!! とんだダークホースの登場かぁぁあああ!!!】
「どうした、鈍ってるぞ。」
「言ってろ。当たりゃあ一撃だろうが……。」
「なら倒れる前に当ててみろ、不敗伝説。」
【なんとメノォォオオオ!!! あのゴライアスを挑発しているぅうう!!!】
ー メーノ!!! メーノ!!! メーノ!!! ー
ー メーノ!!! メーノ!!! メーノ!!! ー
ー メーノ!!! メーノ!!! メーノ!!! ー
湧きに湧いた会場の歓声が一気にメノへの声援に変わった。
このままメノがゴライアスを削り切る、そう思った時だった。
「いくぞ! グゥッッ!!」
【あぁ!!! ここでゴライアス!!!
あ! あ! あれは!! 必殺の構えだぁぁあああ!!!
超必殺の殺人拳!!!!
あれを受けて立っていた者はいないぞぉぉおおおおお!!!】
突然ゴライアスが「グゥッッ!!」と極太の両腕を顔の前でクロスさせた。
そしてそれを見たメノは姿勢を低くして緊張した様子で身構えている。
…………。
……………………。
…………………………………………。
あれ、全然動かねぇな。もしかして溜め技か?
…………………………………………。
………………………………………………………………。
……………………………………………………………………………………。
腕をクロスさせてから数秒、随分長い間があり、メノは戸惑いながらも動けずにいるようだ。
明らかに隙だらけの溜め技なんだけど、タイミング的に殴るか迷う系のやつ?
あーゆーのってだいたいシールドブレイクとかついてるから喰らうとウザいんだよなぁ。
「チョコラァタァァアアアンッッ!!」
ようやくゴライアスが動き出し腕を地面に叩きつけたその瞬間、石板に妙な字幕がドドンッ! と飛び込んだ。
「グゥッ!!チョコラァタンッッ!!」
一番大事なところが何なのかわからねぇ……。なんなんだチョコラァタンて……。
「ぐわぁぁああああああああああああああ!!!!!」
え! 見てなかったんだけどなに! なにがあったの!?
突然音もなく、メノがボロ雑巾のように大きく吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れた。
いやまじで、すべてが謎過ぎるのよ……。
【うぅぉぉおおおお!!!! 決まったぁぁああああ!!!!
ゴライアス必殺のぉお!! チョコラァタンがさく裂ゥゥウウウ!!!!
効果は抜群だぁぁああああああ!!!!!
しょうしゃーーーー!!!!! 超戦士!!! ゴライアスゥゥウウウ!!!!!!】
ー ぅおおおおおおおおお!!!! ー
ー ゴライアス!!! ゴライアス!!! ー
ー ゴライアス!!! ゴライアス!!! ー
ー ゴライアス!!! ゴライアス!!! ー
はぁーーー……?
なにこれー……。雑過ぎだろー。
ゴライアスは爽やかな笑顔で両手を頭の上で振り、声援に応えていた。
納得いかない俺の気持ちもお構いなしに、係りのヒト達によってズタボロのメノは担架で運ばれていった。
初戦第二試合勝者、超戦士ゴライアス――って……。
あー、思い出したわー。
名前負け優勝戦士、「超戦士ゴライアン」だわ。
一文字しか違わねーじゃねーか。クソみてーだなこの闘技場。
リザー道(笑)




