anthem_6
「おらぁ! ヒロシィッ! なにちんたらやってんだこのザコッ!! ぁくしろよオラァ! 掘るぞコラァ!!」
「す! すんませーん! 焼きそば6人前お待たせしましたぁ!」
「あ、おいキミ、紅ショウガモドキ多めって言ったろぅ?」
「えぇ、あ、すんません……。」
「まぁもういいよ……。」
「あぁ!? たく使えねぇゴミヒロシだなぁっ!? このカス! お前はもういいよっ!
あっち行ってろやボケがっ! ぺっ!!」
俺とファラは夕方にはボーラさんの屋台に戻り、その手伝いをしていた。
夕方のヒトの往来はすさまじく、大人気の屋台の前には行列が出来るようで、ボーラさんの焼きそば屋さんも例外ではなかった。
お客さんがごった返すとボーラさんはヒトが変わったようにガサツになり、パワハラ上司の如く言葉使いや俺達への態度も高圧的なものになった。
俺とファラはそんなボーラさんにゴリゴリにこき使われ、給水すらも出来ぬままにお客さん達の対応に努めていたが、ファラは持ち前の愛嬌と明るさと、その臨機応変な対応力で次々とお客さんの細かい注文を見事に捌いていく。
反対に、接客などしたこともない俺が足を引っ張ってしまい、今も「紅ショウガモドキ多め」を聞き漏らしてしまった。
そしてついにボーラさんに見限られ、外に放り出されてしまったというわけだ。
なんか……。俺……。なんかさ……。死に……。いや……。いいんだ……。もう……。いい。
「ナンカモーナニモカモドーデモイーデスワー……。」
俺は独り昨日の噴水に腰掛けて、虚ろな目でヨダレを垂らしボーっとしていた。
先ほどよりヒトの往来が減ってきた、それを眺めながら「人」が生きる理由を考えていた。
道行くヒトビト、このヒトたちはどこへ行くのだろう。
なんのために生きているのだろう。
笑ってるあのヒトたち、何がそんなに嬉しいんだろう。
いつか必ず死ぬのに。
喜びなんてさ、些細な一瞬に失われるんだよ。
「人」の生きる理由なんて、本当はどこにもないんだ。
生きるってさー、なんか、切ねぇよなー。
俺なんて生きてても、誰の得にもならない、何の価値もない。
不毛で、本当に何の意味もない、ただのウンコ製造機。
ただ食って寝て働いてクソして、また食って寝てクソして――ふふ、きもすぎだろー、俺。
俺の前世もこんなダメダメな感じだったのかねー。
もしかしてクラスで虐められてたりとか、引き籠りだったんじゃないかー?
最後は親からも見放されて、もしかして自殺したんじゃないかー。
ふ…………。
だんだん目頭が熱くなり、ついに涙が零れた。
「はぁ……生きるの、つら……。」
「シーヴちゃん、お疲れさまね……。」
俯ていると地面に涙が零れ、落ちたところに染みを作った。
俺が淡々とそうして絶望していると突然シュンとした様子のボーラさんが現れた。
「あ、ボーラさん……。お疲れ様、です。へへ、へっ……。」
もう……。なんか、怖くて目も合わせられないや。
こーゆーの、人間不信ていうのかな。
ボーラさんは俺の隣に、どっこいしょーいちのすけっと腰掛けた。
「さっきはごめんなさいね……。ワタシ、必死になるとつい暴力的になっちゃうの。
今日はもうノルマも達成したし、早々に終わりにしたわ。ほら、焼きそば、食べるでしょ?
飲み物も持ってきたから。酷いことしたと思ってる……。お願いだから、許して頂戴ね。」
「そんな……。俺の方こそ、役に立てなくて、すみません、でした……。」
申し訳なさそうに謝る慈愛に満ちたボーラさん(白)から俺は焼きそばと飲み物を受け取る。
なんでだろう、虚しさが、すごい……。
そうしているとファラが元気いっぱいにこっちへ駆けてくるのが見えた。
「ボーラさーん! 片付け終わったよー!――って、あれ? しー君まだいたの?」
グサッ……。
「こら! ファラちゃん! 今そんなこと言っちゃダメよ!」
俺のライフは、ゼロ……のら。
「う……。うはぁぁああああああんあぁぁあああ!!
俺なんて! 俺なんてああんあぁぁああああうぅぅうぅう……。」
「あぁもう泣いちゃったじゃない面倒くさいわねぇ!」
面倒くさいはっ! ないでしょうがぁ!!
「ファラちゃんあっち行ってなさい! よーしよしヒロシはいい子いい子……。」
だからヒロシじゃねぇよぉ……。
「なんで! なんで俺! こんなに辛い目にばっかり! 悔しい! 悔しいよぉ!
あのファラより要領悪いなんて! 俺だって頑張ってるのにぃ……。なんでぇ……。
転生早々空腹に死にかけて……。ツブツブ饅頭で死にかけて……。カーズの腹痛に死にかけて……。
カツアゲされて……。有り金全部溶かされて……。ボーラさんにまで迷惑かけて……。うぅ…死ねぇ!」
俺はしばしボーラさんのムチムチの筋肉に抱かれて泣いていた。
溜まっていた痛みとストレスを体中の血液が枯れるほどの涙と嗚咽に交えて、吐き出しながら。
ヒトビトがそれを見て冷たく視線を逸らし足早に去っていく。
あのヒトも、このヒトも、俺をゴミのような目で見やがって……。
「ちくしょう! ちくしょう!」
俺はこの夜の出来事を生涯忘れることはないだろう……。




