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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 2章 アイ ザ ファイア
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「あ! スリジャヤワルダナプラコッテビリーバーアルマゲドン専門店! しー君アタシあそこ寄りたい!」


え、スリ? え? ビリーバー? なんだその店……。


「あーはいはい後でな。3000レラしかないんだぞ? 飯が先だ、飯が。」

 

 俺達は活気のある観光区に来ていた。

あちこちにお洒落な外観の店が立ち並び、何を売っているのかはわからないが興味をひかれる。

なかなかどうして、こうやって歩いているだけで面白く、ファラもウキウキと嬉しそうにはしゃいでいた。


 そして先ほどからずっと気になっていたのだが、街ですれ違うヒトたちはなんだか妙な服を着ている。

あれは間違いなくTシャツで、更に言うなら俺がチーさんから貰った例の文字ティー「哀れなくそ豚」と酷似しているのだが……。

そして彼らの胸のあたりの文字は間違いなく日本語、そしてそして漢字だった。


「転生初日」

「定時退社」

「水没王子」

「外道戦記」


 もはや四文字熟語ですらねぇ。

転生初日ってなんだ。


「逃げちゃダメだ」

「優しい王様」

「闇に喰われろ」

「雛見沢症候群」


 一体これは何なんだ……。

さすがのファラもすれ違う度、不思議そうにヒトビトのTシャツを見つめていた。


「しー君てあのダサい文字読めるんだっけ?」


「ダサいとか言うなよ! 日本人の魂を! 謝れ!」


「え、あっははっごめん。」


申し訳なさそうに笑って誤魔化そうとするが、全日本人を敵に回した事実は消せないぞ。


「ねぇねぇ、それじゃああのヒトのはなんて書いてあるの?」


 ファラが指さした先をみると、親子3人が並んで仲良く歩いている。

旦那さんは温厚そうなヒトで、はしゃぐ子供に手を引かれて困っている。

それを見てニコニコと笑っているのが奥さんだろう。

なんとも微笑ましい家族の風景だ。

俺にもこんな過去があったのだろうか――ふとそんなことを考え一瞬、感慨に耽けってしまった。

そしてその奥さんの着ているTシャツを見た時、俺はギョッとし言葉を失った。

ここから先、レッドゾーン。


「女は生む機械」


 おんなはうむきかぉっぉぉおおおぉーーーーーいぃぃぃいいい…………。

…………。

まてまてまて……。

何、着ちゃってんの……あのヒト……。

作った奴も作った奴だけど、そーゆーブラックなの、まじで全然笑えねーから……。


「しー君……? ねぇ…なんて書いてあるの……?」


俺がドン引きしているのに気付いたファラが不安そうに尋ねた。


「あーあれはー…あー…あー……。

 そう、『男は労働の奴隷』って書いてあるんだよ……。たぶぅん……。」


「まぁ! 酷いわ! 最低!」


「ははー。だーねー……。」


 ファラは「不謹慎よ!」と怒っているが……。

うーんごめん。なんも、なんも言えねぇ。

これでおあいこ……。

いや、なんかこう重みのベクトルがズレてるような気がする……。

そんなことも知らずに親子は笑いながら幸せそうに歩いて行った。


「きゃーー! みて! ヤバティ屋さんよー!」


「ホントだ! ヤバティ屋が来てるぞ!」


 ふと声のする方を見るとヒトだかりの出来ているお店がある。

どうやらあそこがこのふざけたTシャツを売っているお店の正体のようだ。


「お! このTシャツ、脇が丸出しでいかしてるぜぇ!」


「兄ちゃんお目が高いな! そいつぁタンクトップっていうんだ!」


「タンク! トップ!! 名前からしてワイルドだぜぇ!!」


「まずは着てみな!? 最高だぜぇ!」


 うん、近づかないでおこう。

何とも言えない気持ちでそのやりとりを見ていると、ファラにトントンと肩を叩かれた。


「あ、しー君しー君! たいやき屋さんがあるよ! あれなら寄っても良いでしょ?」


「ん? おぉ……。そうだな、たいやき…ね。いいね、たいやき食うか……。」


 そう言われてファラの指さした方を見ると、ピザの屋台に並んでたいやきの屋台があった。

ちょっとばかり食欲がなくなりかけていたが、確かに今は思考を甘いもので誤魔化したい気分だ。

俺達はたいやき屋に立ち寄った。

甘く香ばしいたいやきの匂いに包まれた途端、隣でファラの腹が情けなく鳴り響く。


「あっはは…嬢ちゃん…お腹、空いてるのかい?」


「うん! おじさん、バジル&チーズとスパイシーミートトマト、15個ずつね!」


「え……!?」


 若干屋台のオヤジが引き気味に話しかけたが、ファラはそんな事気にも留めず相変わらずバカげた数の注文を押し付けた。

もはや迷惑行為に等しい。そして味のセレクトがただのピザ。

更に隣のピザ屋のオヤジが身を乗り出してこっちを睨んだのが視界の端に見えた。

きにしない、きにしない。

たいやき屋のオヤジはその注文を聞いて一瞬呆気に取られ、そして大声で笑い始める。 


「たっはっは! そんなに食べるのかい? 待ってな、すぐ出来るからね~。」


早速オヤジが型に生地を流し込むと、ファラは嬉しそうに体を揺らしながら歌い始めた。


「まーいーにーちーまーいーにーちーボクらはてっぱんのっ。」


 ま~たそんな歌を…てゆーかどこで覚えてくんだろうか……。

思えばこの世界、例のTシャツ、食べ物、多分他にも言語とか色々、ヒト世界の文化が随所に流入している。

恐らくは俺のようにヒト世界から転生してきたリンネ達が持ち込んだものなのだろうが……。

しかしその割には化学とか、技術的な部分が発展途上なのだ。

日常的な部分で言えば「電気」が無いし、物騒なことを言えば「兵器」とか、そーいった部分が非常に原始的なのが気になる。


 この世界にリンネが転生してきてどのくらいの歴史があるのかは定かではない。

しかし少なくともリンネの中にも、技術者や科学者、野心家だっていただろうし……。

やはり不可解だ。見事に発達したヒト文化、何故か未発達なテクノロジー。

なにか理由があるのだろうか? そんなことを考えていると、屋台のオヤジが喋り始めた。


「嬢ちゃん、その歌しってるたぁ~、通だねぇー。」


「えっへへぇ! まぁねぇ~!」


「いやー熱いねぇ~。さては今年のタイヤキング狙いかい?」


 なんだタイヤキングって。

またバカみてーな設定が出て来たな。


「あ、いや女性部門はクイーンだったかっ。へへっ。」


くだらねぇ早食い大会とかそんなのか?


「ちっちっち……。あまいわねおじさん、アタシは初代のタイヤクイーンよ?」


「えぇ~~~!?」


 なんかいよいよただのタイヤ屋専門店みたいだな……。

ファラはしたり顔でヒト差し指を振り、長い髪をファサッとかきあげた。

なんで得意気なのかは謎だが、オヤジが目を見開きどっかのマスオさんみたいに驚愕しているからには多分凄い事なのだろう。


「じゃ! じゃあアンタがあの伝説のタイヤクイーン! オリジン!?」


ださ。


「沈黙せしケズデットの食神――ファイティングモンチッチのファラさんかい!? 光栄だなぁ!」


ださ。


「ふっふっふっ、恐れいった、かしらぁ~?」


 そう言うとファラは再び、今度は両手で髪をフワァサァ~とかきあげた。

なんだファイティングモンチッチって。

たいやき全然関係ねーじゃねーか。

てかこのやりとりいつまで続くんだ……。早く出来ねーかな。


「うぅぉぉおおお! 光栄だなぁ! 俺! おれ! あんたの大ファンなんだ!

 アンタに憧れて長年やってきた海賊団『オネピエセ』の船長を辞めて、このたいやき屋を始めたんだよ!!」


いや血迷ったなこのヒトも、いろんな意味で。


「女房には大反対された上に、5人の子供たちを連れて実家に帰ってしまったけど…けど!

 俺! 生きててよかったぁぁあああ!! あれ? でもアンタ確か喋れなかったんじゃ……。」


興奮していた血迷いオヤジの表情が疑問に曇る。


「ふっふっふっ。実は、存在すらも不確かな伝説のバナナ、マジカルコトバナナのお陰で喋れるようになったのデスッ!!」


げっ!!


「は? マジカル? コトバナナ? なにそれ。」  


 まずいっ! いきなりその頭の悪い設定引っ張り出してくんなよバカ!

存在すらも不確かな伝説のバナナ、マジカルコトバナナおまえ!

流石にその存在すらも怪しまれてるぞ!

こんなことならもっとまともな名前考えればよかった!!


「まぁそれはいいや! それよりアンタがケズデットで打ち出した伝説的な記録!

 もうかれこれ5年も経つってのに未だに破った者はいないんだ! それどころかあの記録は異次元級だって――」


「あ、ねぇおじさん、焦げそうだよー。」


「え……!? あぁ! すまねぇ俺としたことがっ!」


「いえいえ……。」


 そういうと元海賊の血迷いオヤジは慌てながらワタワタと焼きあがったたいやきを袋に詰めた。

ファラはその様子を見てサイ&コウに満足そうな顔で頷いている。 

おまえのそのくだらねぇ記録のせいで、少なくとも一つの家庭が崩壊してるんだがな。


「はいよ! お待たせさんね! 全部で4500レラだよ!」


ん!?


「わーい! いっただきまーすぅ!」


「ちょまちょまちょとまてちょとまてぇ!! 4500!? 全然足りねーじゃねーか!」


「ん??」  


 おーいっ! なにキョトンとしてんだコイツ! 目パチクリさせやがって! ムカつくなぁ!!

てかなんで!? ……あー、そうだ。コイツ……。

バジル&チーズとスパイシーミートトマト、それぞれ15個ずつ注文してたんだー……。

30個だよ30個! 一個150レラ! 油断したっ! あー油断したっ!!


「あれ? もしかしてお金ないのかい……?」


うっ……。

 

「いやその、3000、3000レラしか、ないんです……。」


「え、3000、レラ……。」


「は~むっ! ぅ~んまぁ~ぃ……。」


俺が顔を背けるとオヤジは戸惑いながら頭を搔き始め、ファラはそんなことも気にせず出来立てのたいやきを食べ始め――


「いやだから食うなよ!」


「まぁまぁ。…そうだなぁ~。

 ファイティングモンチッチさんに会えて俺も光栄だったし、今回は半額サービスだ! 切りよく2000レラでいいよ!」


え……。


「えっと、すみません……。今後とも、御贔屓にさせていただきます……。」


「いいっていいって! まぁまた観光区に立ち寄った時においでよ!

 俺はタイ! タイ・ヤキってんだ! よろしくな!」


 いやおま、絶対後から付けた名前だろソレ。

元海賊団の船長、そんなんでいいのか?

とはいえタイさんには感謝しないとなぁ……。


「いやほんと、すいません……。俺はシーヴです。

 それじゃぁ…ありがとうございました……。ファラ、行くぞ……。」


「むふぅふぅ! むぐむぐ!」


まいどまいど惨めさを嚙み締めながら、俺はお礼を言ってそそくさとファラの手を引いて屋台を後にした。

 

「ファイティングモンチッチさ~んッ! ま~~た~~ね~~~~~!!」


 大声で背後からタイさんの声が聞こえてくる。

振り返るとタイさんは屋台から身を乗り出し、満面の笑みで手を振っていた。


「ふぐふぐぅ~~~!」


ファラはたいやき、バジル&チーズ味を咥えながらニコニコと手を振って元気いっぱいにそれに応えた。


オネピエセ。

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