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「あら……? アナタたち、今日はギルドに行ったんじゃなかったの?」
闘技場で参加申し込みを済ませボーラさんの屋台に着いたのはお昼過ぎであった。
本来ギルドで仕事を斡旋されている筈の俺達が突然屋台に現れたのもので、ボーラさんは目をパチクリとさせ呆気に取られている。
何故だか学校をズル休みした奴みたいで、少々極まりが悪い。
「それが――ギルドに入りたきゃ闘技場で名を上げてこい。と門前払いを食らいまして……。」
「あら、そうなの? ハンターっていうのも大変なのね……。
そうとは知らず、ごめんなさいね。 ギルドに行ってみたら? なんて無責任なこと言っちゃったわ。」
「いえ、いいんです。 そんなわけでさっき闘技場の参加申し込みを済ませてきました。」
「えぇ!? まさか! シーヴちゃんが出場するの?! 大丈夫!?
丸裸に剥かれてボコボコにされてトラウマになるわよ!?」
ボーラさんは突然両手で台をバンッと叩いて身を乗り出した。
まぁ、そういう反応になるよね。
それにもし俺が出たらそうなるのも想像に難くない……。
いや丸裸にはされないと思うけどさ。だからこそだが――
「いや、俺じゃなく――その、ファラが……。」
チラッとファラを見ると腕を組みドヤ顔でうんうんと頷いていた。
不安しか、ねぇ……。絶対止められるぞ。いや、やっぱここはビシッと止めて貰おう。
「あら、ファラちゃんが出るのね。」
ん?
「それなら安心ね。」
なんで。ボーラさんはホッとした様子でそっと身を引いた。
俺は丸裸に剥かれてボコボコにされるのに、ファラは安心て……なんで?
心の中に疑問が残ってしまった。
しかし何故だか嫌な方にばかり考えてしまい、理由は聞きたくないと思ってしまう。
「……あぁ。まぁ、それなもんで――今日半日は暇になりました。
それでボーラさんのお手伝いにでもと思ってきたんですが、何か手伝えそうなことはありますか?」
「あらそう。まぁ見ての通り……。この時間は暇なのよねー……。」
ボーラさんが困ったようにそう言って、俺はハッとした。
確かに辺りを見るとまだ昼だというのにこの辺りはヒトの通りが少ない。
まぁ、昼食時も過ぎてはいるし、そう不思議なことでもないが……。
さて、どうしたものか。
「――そうだわ! 折角時間もあるんだし、街の観光でも行ってらっしゃいな。」
げ、これは、まかない貰えないパターンかな……。
「わーい! アタシお腹空いちゃった! しー君何か美味しい物食べに行きましょ?」
「いや、だから俺金が無いんだってば……。」
あぁもうほんとやだ。コイツといると惨めさを嫌でも味わわされるんだ。
「はぁ……」と思わずため息が漏れる……。
「え!? なんで! 昨日来たばっかりなのに!」
「あーもーいいよそーゆーバカキャラ! 可愛くねぇからっ! すげームカつくわ! おまえ!」
「どうしよう……。お腹が空いて力が出ないよぅ……。うぅ……。」
突然しおしおと小さくなり、大ピンチのアンパンの化け物のようにぐずり始めた。
ほらすぐ泣く! あーやだやだ!!
「あらあら、そうよね。 お駄賃あげるから何か食べていらっしゃいな。」
お、タナボタ……?
「その代わり、夕方になったら忙しくなるから、また手伝いに来てね。」
憐れむような表情のボーラさんがおサイフから3000レラ程取り出し、ファラに、渡した。
ありがとうございます。
けどボーラさん。ソイツにほいほいお金や食べ物を与えないで下さいよ。
ソイツは卑しい野生の猿と同じなんです。何かを渡すなら俺の方にお願いします。
「いやっふぅ~! たっいやっきたっいやっきぃー!
あそ~れ! しー君の~、くつっのそっこにっもアッブラッムシィ~~。」
ファラは呑気にくだらない歌を歌いながらボーラさんから受け取ったお金を、懐に、仕舞った。
おいコイツ……。さっきの3000レラ、まさか一人で使う気じゃないだろうな。
「ボーラさん、すみません……。この恩は必ず返しますので……。」
「いいのよ、楽しんでらっしゃい。」
「わ~いっ! いってきま~~すぅっ!」
ボーラさんに笑顔で見送られ、再び俺たちは屋台を離れて街の観光に繰り出した。
「さてと。」
そしてボーラさんの屋台を離れてすぐ、ヒト目もはばからずに俺は3000レラの主権を廻ってファラと取っ組み合いの死闘を繰り広げたのだった。
「もーーーー! なんでいっつも髪の毛引っ張るのよーーー!!
離してよーーーーー!! この3000レラはアタシが貰ったのーーーー!!」
「何言ってんだこのスッタコハゲーーー!! これはボーラさんが俺達にってくれたもんだろがっ!
半分ずつ使うのが道理だろーーー!!」
「いぃぃいいやぁぁあああっ!! しー君は土でも食べてればいいじゃんっ!!」
「オメーの方こそその辺の虫でも食ってろこのデカゴリラーーーーッ!!」
「あーー解った解った解ったからーーーー!!」
「おう! ならさっさと渡せっ!」
「もうっ! ガメツイんだからぁ!」
オメーが言うなっての!
「いいからさっさと3000レラ出せ!」
「じゃあジャンケンで決めよう!?」
「あ!? てめぇ!」
「アタシが勝ったら全部アタシのもの! しー君が勝ったら、半分こねっ!!」
子供かっ!
しかもコイツ勝手に決めた上に全然フェアじゃねぇっ!
「よ~~しっ!!」
やる気満々にドヤ顔で肩なんかグルグル回しやがって。
「言っとくけど、後出しはなしだからね~っ!」
そしてこの自信――多分なんか企んでやがるな……?
このアホウシが……。
いいぜやってやるよ畜生が……。
「いくよしー君! 本気で来てねぇ!!」
「あぁやってやらぁ!!」
「さーいしょーはっ! パー!」
ゴツッ!!
「ぁいたっ!」
「へっ! これが本気のグーだクソウシがっ!」
「ぐぅ~~~~……。卑怯だよぉ~……。」
どっちがだ、このアホが。
案の定ファラは卑劣にも最初はパー作戦で仕掛けて来た。
だからこそ心置きなくおもクソ頭をぶん殴ってやれると言うものだ、ざまみろっての。
「はい、残念でちた~っ。オレの勝ちな~。」
ん……。
しゃがみ込んで頭を押さえて蹲るファラの手から3000レラを取り上げ、ふと冷静になると、俺は自分の幼稚な言動が急に恥ずかしくなってきた。
たかが3000レラに…なにやってんだ俺は……。
あぁ……。見て見ぬふりで通り過ぎていくヒトビトの視線が、痛い……。
1レラは1円です。




