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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第三部 1章 ユースファウンテン
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この物語のテーマは「自立」です。

また、私の考える自立とは「自分の意志で芯を立て、自分を騙すことなく最後まで生き抜く」という、誰にとっても当たり前にある「人として生きる権利」のことです。

まぁぜんぶ嘘なんですけどね。








 あの頃のまま、俺はこんなにも小さくて、こんなにも弱いから。

今だってこんなにもアナタを思ってしまうから。

自分がまだまだ子供だって解ってるから。


 だから、自分の嗚咽(本音)を伝えることが恐ろしくて。

アナタを弱くしてしまうことに居た堪れなくて。

だけど、上手に仕舞い込めるほど器用でもなくて。




――本当は、今すぐにだって会いに行きたかった。




――生まれ変わってもずっとアナタのことを愛してるって、この身体こころ抱きしめ(届け)たかったんだ。




――だけどあの頃は、生きながらに(ひとでな)死んでいた(しだった)から。




――こんな簡単な想いさえ(声を形にすることすら)も、神には許されなかったから。




***




「だから、アナさん……。」


 私の奇跡(センドリクエスト)を介して、再び私が少年の母親へと深層心理の想いを届けて間もなく、まるで寿命を迎えた生命のように、プツリと途絶えた泉の映像。

その直後、もう二度と取り戻せない日々と、生涯を通して交わることのない世界を想い、ようやく現実と向き合った少年の瞳からは濁流のような想いが溢れ続けた。


 ひっそりとした(洪水)と共に、彼が打ち明けた母親への本当(自分自身)の気持ち――それは、もはや手遅れとなった今になって、ようやく言葉に直り、そしてようやく少年自身の魂と交わり、二度とほどけることはないほど、彼の全身全霊と強く繋がったこと(シンクロした)だろう。


「助けていただいて、本当に――。」


 彼の魂の根元で音もなく疼き、張り裂けるほどに脈打つたった一つの無念と過ちの爪痕。

透き通ったガラスのようなその魂のヒビと向き合って、やっと、この平凡な少年の小さくも果てしない物語は救われることとなる。


「本当に、ありがとうございました。」


 直後、少年は真っすぐに力強く頭を下げた。

彼の流した涙は、この星(スチャラカポコタン)が龍星期を授かるよりもずっと前に存在したという、前人類(ルクス)最後の英雄のように気高く。

騙されていると知りながら、愛する者たちの為に敵地へ飛び、大義の為に自害した、彼の地に確かに存在したという大和の民のように誇り高く。

抱きしめ、愛し、その生涯を捧げても守りたいとさえ思ったアリシアを、その意に反して遠ざけ続けたバリーのように生真面目で。

そしてあの日、二度と償うことの叶わない後悔にしがみついた私のように、拙く、傲慢で、幼かった。

それはこの少年が、ヒト(リンネ)でありながら(日本人)であるという事実で。

同時に、断ち切ることのできない血のつながりを持っていたという、確かな証拠だった。


「うん、全然。」


 低く頭を下げた彼の誠意(心からの感謝)を、私は上からそっと優しく撫でていた。

少年の涙腺を打ち鳴らすほどの嗚咽は、マグマのように熱く力強い振動となって、心を読まずとも痛いほど私の胸に木霊こだましている。

別段、私が何かをしたつもりもないが――けれど、幾つもの過ちを乗り越えてきたこの愚かな少年を許そうと思った時、頭を下げた少年の真摯な姿に、私は無意識にバリーの面影を重ねていた。




――きっと私はもう、少年バリーを許している。




 そう思い、これほど穏やかな気持ちになるのは、それこそバリーの傍にいた時以来かもしれない。

或いは、バリーが傍にいたあの頃でさえ、これほど安らかで慈悲深い気持ちになったことは無いかもしれない。

そして、私自身がバリーを許しているのだという自覚は、私が私自身をも許せているという、根源的な事実にも結び付いていた。


「だって私がしたことっていうのは、ただ私が私自身の為にしたかっただけのことだから。」




――私の奇跡(想い)は、少年バリーと出会い、救われた。




「だから、私だってキミに救われてるんだよ。キミの想いの矛先に、そしてその結末に――。」




――少年の深層心理と、バリーの業苦を(媒介)にして。




「キミの救いの一助となれて、ようやく私も救われたんだ。」




――だから、ありがとう。




「何故だか今は、そんな気がするんだから。」


 少年の頭からそっと手を放した時、私は無意識に真っ黒な泉を見つめていた。

どこまでも深く、黒く、揺るがない私の影。

どれだけ見つめあっても、そこにはもう、何も映らない。

ただ遠ざかる小さな満月が、私の影に寄り添うように、ひっそりと穏やかに浮かび上がるだけだった。




「そして、あの月がきっと――。」




――きっと、バリーの夢見た「私の物語の結末」なんだ。




***




「さて、そろそろ行こうか。」


スッパリと気持ちを切り替えるように、私は踵を返して歩き始めた。


「うぇ? ししょーは泉覗いてみないの? せっかく来たのにさぁ。」


 それに抗議するように、素っ頓狂なガチャ子の声が足早に近付いてくる。

続いて、少年がゆっくりと歩き始めたのが、ランダムに増えた足音の数で判る。




「いいんだよ。」




――今まで、ありがとう。




「別にもう良いんだ。」




――親愛なる友、バリー・バードマン。




「私 "も" もう、独りで大丈夫だから。」




忍び寄る絶望の薪を焚べる手。




アンタの好きに生きたら良い。

ただ卑屈にさえならなければそれで良い。




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