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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第三部 1章 ユースファウンテン
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――あぁ、やっぱラーメンが食べたいや。

思い切って、大盛りトッピング全乗せで、死ぬほど吐いて出禁になるまで食ってやるっ。

学校帰りに友達とチャリで直行した近所のラーメン屋、あそこの梅干しおじさん、味玉オマケしてくれるからめっちゃ好きなんだよな~。

まだお店、あるのかな?


――あったかい温泉も良いよな~。

ケズグンマーの湯畑も悪くないけど、やっぱ地元の山の麓にある、あの寂れた小さな温泉館がいいんだよ。

地元の家族連れとか農家のじっちゃんばっちゃん、見慣れた顔ぶれの知らない人たちに囲まれて、皆の他愛ない雑談を聞きながら浸かる源泉かけ流しの露天、マジで超最高なんだよな。

受付にいつもいる陽気なおばちゃん、たまに牛乳サービスしてくれたりとか、今思うとマジで神だったなぁ。

確か、「温泉おばちゃん」だっけ。

まんまな。


――それから、また高校時代の仲間たちと一緒に、旅行に行きたい。

あいつらとバカやって、しけた民宿で究極のベッドを本気で奪いあって暴れたり、人数オーバーの狭い軽自動車に乗り込んで、夜景の見える峠道をDQNのミニバンとかに煽られながら必死でちんたらドライブしたり。

夜はキャンプで焚火を囲って高校時代の事とか話したり、青空の下の海がきれいな隣県の浜辺でBBQしたり、夏は花火でドンパチするのも最高に捨てがたい。

みんなは、今どうしてんのかな。

俺があの頃のまんま、こうしてぴんぴんしてるって知ったら、きっと驚くんだろうな。

俺がこんなクソ星での冒険の日々を嬉々として話したら、一体どんな顔するかな。




そんなもん誰も信じるわけねーっぺがさっ。




 でも、そんなことよりも……まずは母さんの手料理を、朝、昼、夜、しっかり残さず元気にモリモリ食べたい、あの頃みたいに。

ファラやボーラさんの作る料理のほうが味はずっとおいしいけど、母さんの味付けは、母さんだけのものだから。

なんだかんだ言っても、やっぱ俺にとっては母さんの手料理が一番なんだよな。


 甘ったるいケチャップゴハンを包んだオムライス、旨いんだよな。

砂糖入れすぎの甘ったるい肉じゃが、アホほどクドいんだよ。

何を入れたらこうなるのってくらい甘ったるいミートソースのスパゲッティ、もういいよって本気で泣いた。

特に意味もなく甘ったるいミネストローネスープ、あれはなんか、特に意味もなく好きだった。

365日×17年――もうさんざん飽きるを通り越して呆れるほど食わされたけど、まだまだ全然食い足りないんだよな。

全部、本当に大好きな思い出の品だよ。




――あーぁ、どうしよう俺。

今から楽しみで仕方がないや。

まじでやりたいこと、山ほどあるんだもんな。

困ったよな、本当に。

こんなに幸せで――。




「良いのかな……。」




 溢れんばかりの高揚感の中、ふと迷い込むように零れ落ちたのは、いつかとよく似た不安。

それは紛れもなく、俺自身の甘さだった。


――そりゃもちろん、帰れる保証なんてものは端からどこにも無い。

ただ、こんな奇跡の星にいるから、パッと向こうへ渡る手段が存在することも、決して否定はできない。

だけど、今はそんな絵空事の真偽を気にしてるわけじゃなくて……。




「俺、帰ってもいいのかな……。」




――俺が今迷っているのは、そんな不確かな事じゃないんだ……。




「本当に、日本に帰っていいのかな……。」


 帰りたくても、帰ることができない。

俺はまだ、大切な人たちのことが、こんなにも心配で、どちらの世界からも離れられずにいる。

こんな細やかで根深い疑問は、そんな俺の、不甲斐(なにひとつ守れず)ない(にいる)弱さだった。




――帰れるのなら、帰りたい。

母さんにも、ちゃんと「ただいま」って自分の声で伝えて、今度こそ「お帰り」って、ちゃんと俺の目を見て笑ってほしい。

あの純粋な優しい笑顔に、俺は何度でも、どうしようもなくまた会いたい。


――けど、本当にそれで良いのかよ――って。

俺の物語の結末って、本当にそれで良いのかな――って。

仲間たちと乗り越えた日々が、こんな独りよがりで、また俺独りだけが幸せになる結末で、本当に良いのかな……。

自分の胸の内に仕舞ったままやり残したこと、気がかりなこと、助けられずにいるヒトたちのこと、まだまだ問題は沢山あるってのに。


「本当に……もう、終わりにしても良いのかな……。」


 仮に向こうに行けたとして、その後こっちに帰ってこられるかなんて、それこそ解らない。

俺がここまで旅をつづけられたのは、大切な仲間たちの支えがあったからで。

思い出も記憶も、みんなと共に過ごした時間を忘れることはないかもしれないけれど。

だけど、本当にそれでいいのかな。

全部置き去りにして、皆のことも、感情ごと、スッパリ切り捨てて――。




「やっぱ、わかんねぇよ……。」




――それで本当に、良いのかな。




俺には、解らないよ(ウホ、ウホウホ……)……。こんなの(ウホホ)えらべるわけ(ウホホ)ねーっぺが(ウホホ”ヒィ”)……。」




 素直な想いは、独り歩きを始める。

不意に路頭に迷い、今にも搔き消されそうな俺の嗚咽。

今も淡々と向こう側への道筋を必死に模索し続けるガチャ子とアナさんに、この悲鳴は届いていない。

二人はなにか専門的な会話と共に映像の解析を進めているだけだ。

その姿を横から見ていて、俺はその時「この人たちにはきっと俺のお気持ちは分からないんだろう。だけど、この人たちなりに必死に頑張ってくれているんだよな」と、そう思っていた。




「おい少年、ここまで自分の足で踏み歩いてきて、今更あれこれと迷うなよな。」




けど、全然そんなことなくて――。




「そりゃ帰る帰らないも大事だろうよ。」




その時アナさんは、きっと、俺の心を読んだわけじゃなくて――。




「だけど、キミがあの世界を探し求めていた本当の理由ってきっと、そんな表面的な事の為なんかじゃない筈だろ。」




アナさんは今もずっと、今の俺と同じ想いを抱えたまま生きていて――。




「突然のことで動揺したのはわかる。だけど今は、キミの想いや無念の本質を見失っちゃいけない場面だと、私は思うよ。」




――だから、俺のことを、躍起になって助けてくれようとしているんだろう。




「だって、私は――。」




――張り裂けるほどの俺の絶望の遥か先に立ってなお、同じ想いに苦しむ者たちへ、手を差し伸べようとしているのだろう。




「彼だって……そうして道を踏み外してきたのを、一番近くで見ていたから。」




 怯えたようなアナさんの嗚咽は、誰かの為に怒っているようにも泣いているようにも聴こえ、なにより優しく温かく、真っすぐと俺の心に届いていた。

それはきっと、唇を嚙み殺したようなその嗚咽が、アナさんの本気の言葉(深層心理の想い)だったからなのだろう。


 なら、いつもアナさんのすぐ傍にいたガチャ子にだって、アナさんの想いや苦しみは届いていたはずで。

だからガチャ子もきっと、解らないなりに本気で俺のことを助けようとしてくれていたはずで――。




「だから、迷わないでくれよ。」




――アナさんの声が、尻すぼむことなく、僅かに震えていた。




「母さん、俺は……。」




――俺は、どうしたらいい。




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