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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第三部 1章 ユースファウンテン
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Okaerinasai_2




――キミは、何を言ってるんだ?




――これはもう、キミのものだろう。




――これは正真正銘、キミのものだ。




――キミの想いが繋いだ、本物の奇跡なんだよ。




――……だから、大切にしなさい。




――キミがここに来てくれて、本当に良かった。




――今は心から、素直にそう思えるんだ。




***




――本当に……ありがとうな、情太郎。




「何それ。」


「金の、ネックレスかな……?」


 俺が引き上げた黄金に、白光虫がそっと止まる。

白光虫の朧気おぼろげで優しい灯りに照らされて、そのシルエットが露わとなった。

この世界ではあまり見慣れない飛行機を象った黄金色のネックレス、それを見たアナさんとガチャ子は興味深げに目を凝らすも、すぐに眉をひそめて同時に同じ角度で首を傾げた。


「これは……。すげぇ大事なものだよ。」


 密かに黄金(ネックレス)から俺の中に流れ込んだ「父さんからの想い」をよそに、不思議そうに顔を見合わせた二人を見て、俺は急に可笑しくなって笑い出しそうになった。

途端に、目頭が熱くなる。


「本当に、凄い大事なもので……。」


自分に言い聞かせるようにそう呟いた途端、胸の奥がギュッと締め付けられるように苦しくなる。


「今だって、ずっと大切なんです……。」


 強くなる光に比例して、濃くなる影――きっと、俺は無意識に見ないようにしてしまったのだろう。

考えたくなくて、思い出すことが辛くて、本能的にこの輝きから目を背けてしまっていたのだろう。

光から、影から、思い出から――過去の俺が必死に積み上げて来た物語の全てから。


 あの頃と同じように耐え切れず逃げ出してしまった――後悔。

あの頃同様、卑屈になり自らの不幸を呪っていた――過ち。

二度と償うことは叶わない――罪。

俺があの頃の自分を好きになれなかったのは、きっと、今の自分とその面影が重なるからだったのだろう。

あの頃から何も変わっていない、そう思う事が嫌で仕方なかったのだろう。




 けど、あの頃の俺はワガママで自分勝手で、だけどひた向きで一生懸命で、なにより純粋に良いヤツだったんだ。

そんな自分が必死に積み上げて来た物語の結末が、非情なものである筈がない。

俺を支えてくれた仲間達と一生懸命に紡いだ旅路が、一切合切無駄な筈がない。

後悔も、過ちも、一生涯償う事の叶わない罪だって、俺が今までずっと逃げ出さずに、胡麻化さずに自分自身の生き方と向き合ってきたっていう、大切な命の輝きだったんだ。


「俺の人生は……下らないなんてこと、全然ないよ……。俺の旅は……何も間違ってなんていなかったんだ……。」




手ずから封印されていたあらゆる感情が、今にも噴き出しそうだった。




***




――お前が信じれば、お前が諦めなければ、誰にもお前を咎めることは出来ねぇ。

それは『お前自身』にもだ。

意味なんか探すな、理由なんかファッキンシット、クソ喰らえだ。

そんなもんは全部不毛なんだよ、この絶対のロマンの前じゃな。




――いいかシーヴ。

弱くてもいい、負けが込んでもいい。

一生勝てなくっても、別にいいんだよ。




――翼がないなら地をいけ。

足がないなら這っていけ。

乗り越えた先に、お前にだけしか見えない世界が必ずある。




――それがお前の生きる、この世界の価値になんだ。




――だから続けろ、シーヴ。

お前の為に。

お前自身の、人生の為に。

最後まで、諦めんな。




――お前の人生、一回きりだぞ。まじで。




***




――人生は一度っきり。

先ほどのガチャ子の一言があんなにも脳裏に焼き付いたのは必然だった。

瞬く間に記憶の隅から力強く這い上がって来たのは、絶烈のヒノマル野郎だった。

その燃え盛る青い太陽の正体は、以前ゼロさんとサシで飲んだ時にゼロさんが俺にくれた言葉だ。


 この黄金(ネックレス)を最初に俺に託してくれたのはゼロさんだった。 

そして、十数年も前、ゼロさんにこれを託したのは、紛れもなく俺の父さんだ。

ゼロさんの生き様の背景には、いつだって父さんの熱い想いがあったのだろう。


「なんで、こんな簡単なことに、今まで気付かなかったんだろな……。」


 だからきっと、ゼロさんの真っ直ぐな眼差しは包み込むように温かく。

俺が忘れてしまった、大切な「なにか」を宿していて。

どこか懐かしく。

張り裂けるほどに胸を焦がす、あつい言葉だったのだろう。


「なんで、俺は……。」




――真っ直ぐに自分を愛せなかったのだろう……。




 自ら忘れてしまったという悔しさがあった。

この手で棄ててしまったという怒りがあった。

もう取り戻せないという悲しさもあった。

こんな自分の愚かさに、いよいよ涙すらも流れないほどだ。


 けれど一番大切な「なにか」を、最後のひとカケラを見つけ出せたという喜びは、真っ黒に染まっていた魂を浄化するかの如く焼き焦がす、人生でまたとない愛おしさだった。

そして今、このちっぽけな身に余るほどの激情が、俺の中で揺るがない信念と決意に変わりつつある。




――俺はもう、死んでも生まれ変わっても、この激情を手放すことは二度とない。




 絶対のロマンはずっと俺の中にあった。

その正体は、俺の魂に深く刻まれた大切なアナタ達と紡いできた思い出に他ならない。

俺が見ようとしなかっただけで、ずっと俺の傍で、こんなにも力強く輝きを放っていたんだ。


 俺が今、生きたいと思えている事は、確かに俺の側にアナタ達がいたという証明だ。

俺が今を笑っているのは、アナタ達が必死に生きていたという証明だ。

俺の流す涙は、アナタ達の存在の証明だ。

アナタ達が、一生懸命に俺を守ってくれてたという掛け替えのない愛おしい真実だ。


 そして俺の物語は、大切なアナタ達が俺に示してくれた、広がりすぎたこの素晴らしい世界に他ならないのだから。

だから俺は、今もなお広がり続けるこの世界で、今の自分をこんなにも愛おしいと思えている。




「ただいま、父さん。」




 俺の言葉に応えるように、やがて白光虫はゆったりと黄金を離れ宙に舞った。

同時に、そっと額に温かさが触れる。




――おかえり。




奇跡を介さずとも、優しい父さんの笑顔と、あの懐かしいガサツな声が聞こえてきた気がした。




「本当に、ありがとう。」




そして今ならば、どこまでだって世界を広げていけるんだ。




「行ってきます。」






~~ オマケ ~~






 白光虫は高く昇った満月の方へ、道しるべを辿るように穏やかに飛んで行った。

この一瞬にありったけの激情を詰め込んだ俺の気など知りもせず、アナさんとガチャ子は小さく声を上げ、その優しくも力強い光をボーっと目で追っている。


「お、飛んでいったぞ、けどなんか見すぼらしいな。」


「ははは、やっぱハエみてー。」




――お前らぶっ殺すぞマジで。





何気に良い話だな。



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