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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第三部 1章 ユースファウンテン
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Century_2

ちょーっとオーストリアへの引っ越しとか大ピンチの友達助けたりとか結構ゴタゴタしてるので5月か6月までお休みするかもしれないです。

余裕があれば書きますが、今書いてる章が作中で最も重要なパートになるので、こうバタバタしてる時に無理矢理書きたくないのも本当です。

すみませんm(_ _)m









「おー、これがあの枯れた穴ぼこなのかぁ。すげー。」


 以前ここへ来た時同様、ガチャ子は子供のように真っ先にスッ飛んで行き、ちょいと後ろから押せば落っこちそうな姿勢で屈んで食い入るように泉を覗き込んでいる。

この場所に辿り着くなりそんな調子で感嘆の声を上げるガチャ子の背中を、俺は休憩がてらアナさんと並んで、この聖域と森の境目から冷ややかに見ていた。


「それにしても、本当にあんなものが存在するとは……。私の師匠もたまにはまともな事を言うんだなぁ。」


 木の幹を背もたれにして腕を組んだアナさんが感心したように何度も頷く。

して、アナさんの言う「師匠」がどういったヒトなのか俺には解らないが、バカにしたようなアナさんの反応からして、よほど信用のないホラ吹きなのだろう。

俺は特に相槌を打つことも無く、泉の方を見てぼんやりとそんなことを思った。




 ユースファウンテン――意図的に隠されたかのように、背の高い木々に囲まれた丸い空間。

その真ん中にあった大きな穴ぼこが、今はいっぱいの澄んだ水になみなみと満たされ、少しのそよ風に波紋が立つだけで今にも溢れ出しそうになっている。


 水面に映しだされた丸い小さな宇宙と無数の星、その真ん中に模様の無い大きな満月。

合わせ鏡のように、無限の宇宙はふたつ。

夜がふたつ。

世界もふたつ。

遠目に見ても――いや、泉から離れたこの位置で見ているからこそ、それが鮮明に映し出されているのがよく解る。


 時おり吹く微かな冷たい夜風が草木を撫でると、地上の宇宙はふっと儚く揺れ、次には表面を削り取られていくように真っ黒な波紋に掻き消されてしまった。

この泉が映し出した世界は、こんなにも儚く、こんなにも脆く、あまりにも美しく、見るに堪えない。

こんな奇跡に立ち会えたというそれだけで、俺は何故だか無性に胸が苦しくなった。

置き去りにしてきた大切な世界を思い出して、俺は急にひとり泣き出しそうになっていた。


 初めてこの世界で星空を見上げた時のように劇的な感動。

初めてこの世界で深呼吸をした時のように壮大な衝動。

もしかすると、俺は"あの日"からまだ夢の中にいるのではないか――そう錯覚するほどの奇跡を全身で感じていながらも、俺は今、俺を孤独たらしめたこの世界を確かに呪っていた。


「……。」


「どうした、少年。」


「いえ、ちょっと……。」


 溜め息の一つも無く黙り込んだ俺の横顔を、アナさんが笑顔で覗き込んだのが横目に解った。

心なしか嬉しそうなアナさんには、俺が感動のあまり呆気に取られ、何も言えずに立ち尽くしているように見えたのだろうか。


「ちょっと、驚いた……だけです……。綺麗だなって……。」


 アナさんを視界に入れないよう少しだけ視線を外側に逸らして、俺は満月を見上げた。

模様のない月――明るすぎて模様が見えないのか、或いは初めから模様が無いのか、俺には解らない。

けれど模様が無いというそれ以外は、基本的に日本で見ていた月と同じだ。


 今夜は空気が澄んでいるのだろうか、月の周囲に微かに虹色の光輪が肉眼で確認できた。

そしてぼんやりと、思わず数秒、俺は確かに見惚れてしまっていた。

鼻から入り込む空気が冷たいことに、いまさら気がついた。

それが嫌ほど懐かしくて、切なくも不思議な夜だと思った。

そして夢のように幻想的なこの夜にさえ、俺は平気でヒトに嘘をつける事を知った。


 本当は、とても怖かった。

探しものを映すという幻の泉、ユースファウンテン――その真実にこれ以上近づくことが、俺は怖かった。

近づけない、近づきたくない、今すぐにでも真っ暗な森の中へ駆け戻りたい。

この場所から立ち去りたい、逃げ出したい――それをどうにか思いとどまり、恐怖を悟られないように、黙ってこの境目で立ち尽くすのがやっとだった。

今の俺には、嘘をつくのがやっとだったのだ。

そして、ここに留まるだけの無意味な時間が長ければ長いほど、俺の中から、端から有りもしない自信が更に失われていく。




――だって、俺は空っぽだ。

中身の方も、てんですっからかんだ。

今までもずっと、あれこれと理由を付けて俺自身から言い逃れをしていただけで、俺の探しものなんて本当は何も無いのかもしれない。

それに、噂の真偽がどうであれ、あの水面に何も映らなければ――ほら、結局俺は空っぽだ。


 もし何も映らなかったら――俺はここで、アナさん達にどんな顔を見せればいいのだろう。

やっぱ嘘じゃねーかコラなどと声を張り上げて怒ったり、笑って誤魔化す気力なんて、俺にはもう無い。

それならいっそ大声で泣いてしまおうか、そうも思ったが、俺は別に誰かに同情して欲しい訳でも、誰かを責めたい気持ちになっている訳でもないのだから、余計に虚しいだけだと思った。


「さてと……噂がどこまで本当なのかまでは解らないし、この泉がいつまであるのかも定かじゃない。早速始めようよ、少年。」


 背もたれにしていた木から、アナさんが軽々と体を起こした。

俺はそれを見て、更にアナさんのあっけらかんとした提案を聞いて、いよいよ自分が愚かな勘違いをしていたことに気付いた。


 というのも、最初この空間に辿り着いた時、アナさんはガチャ子のように真っ先に泉を覗き込もうとはせず「少し休ませて」と言って木の幹にもたれ掛かっていた。

そこで大きなため息をついたアナさんを見て俺は、アナさんにも何かきっとあの泉を覗きたくない理由があるのだと、そう思っていた。

が、どうやらそれは見当違いだったらしい。

つまり、年甲斐も無く長距離を歩いたことで、絶望的に体力を消耗したというだけの話だった。


 結局のところ、この場で悲観的なのは俺ひとりだけだ。

そしてアナさん達にとってこの件は、どこまでいっても他人事でしかないのだろう。

だから、こうも無慈悲でいられる。

考えなしに、心無い言葉が出て来る。

ヒトの悩みに、心に、ずけずけと土足で踏み込んで、好き放題に引っ掻き回して……。

――だけどそれは、俺が好きになれないあの頃の俺だって同じだった。


「……。」




――だから俺は、俺を待たずに歩き始めたアナさんの背中に、何も言えなかった。







成長してるはずなのに逆に少しずつ村に居た頃の卑屈な感情と重なっていくこの感じが良いんだってさぁ~。




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