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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第三部 1章 ユースファウンテン
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Jinxed_7




 時刻は間もなく昼の三時。

ガチャ子が庭へ飛び出して行き、少年とコーヒーを飲み始めてから、かれこれ2~30分は経過したことになる。

ので――




グゥ~~~~…………




――私はお腹が空いていた。




「けどまぁ、魔女は魔女でも、記憶を消す魔女――ね。そりゃあ確かに簡単には見つかるまい。」


「はい。実際、アナさんの噂も魔女違いでしたし。」




グゥゥウゥゥウゥ~~~~………




「……。」


「……。」




 思えば朝食以降、私は何も食べていない。

その為、さきほどから私の腹の虫が自己主張を続けており、ちっとも話の内容に集中できない。

なにしろ、買い物に出掛けたバカ弟子がやっと帰って来たと思ったら、いきなりとんでもない客人を連れてきたもんだからウッカリしていた。


「おほん……。それで――」




グゥゥウゥゥウゥ~~~~!!!!




「すまないが、昼をまだ食べていなくてね……ちょっと、なにか作っても良いかい。」


「え、あ、うっす。どぞ、です。はい。」


「ははは……。」


「へへへ。」




グゥゥウゥゥウゥ~~~~………




――くぅ、情けないぃぃ……。




***




「そんなわけでまた振出しに戻ってしまって、正直これからどうしたものかなって……。」


カレーを作ろうと思い立ち、釜戸で湯を沸かし、野菜を切り始めた私の隣に立って、少年は話を続ける。


「帰ろうにも、本大陸行きの船が出る日まで、あと一週間ありますし。」


「ふむ、今日から一週間か……。う~ん、となると二月の……今日が三日で――」


 少年が本大陸に戻るまで、今日から一週間はあるという。

今日が二月の三日だから、つまり十日まではまだ日があるのだ。

比較的、余裕はある――がしかし、記憶を消す魔女ともなると、たかだか一週間足らずで見つかるとも思えなかった。


 そして出来る事なら、私は記憶を消す魔女には関わりたくなかった。

少年の目的は解ったけれど、バリーの夢が、私に何をさせようとしているのかが解らない。

仮に私の記憶を消されるようなことになるようなら、私は少年を手伝うことは出来ないし、勿論したくない。

バリーの見た夢を叶えてあげることは出来ないし、なにより私は、彼を忘れる為に少年が現れるのを待っていたわけではないのだ。


 そして、少年の探しビトが魔女でさえなければ、私はこんな事で悩む必要も無かっただろう。

などと、余計なことばかり考えながら、私は黙々と、湯気が立ち上り始めた鍋に切った野菜を入れていく。


「う~ん……。」


 探しビトといえば――そういえば昔、私の師匠が話していた枯れた泉の話があったのを思い出す。

その泉は、私がその名前を師匠から聞いた頃には一滴の水も無く干上がっていたから、それこそ師匠でさえ、一体いつから枯れていたのかは解らないという。

けれどあの泉には「この時期の満月の夜にだけ、不思議な事が起こったり起こらなかったりする」とか、冗談なのかなんなのか、そんな曖昧なことを師匠は言っていた。

私はその話を本気で信じた事は無かったし、今の今までスッカリ忘れていたけれど。

しかし、どうして今になって、そんな話を思い出したのだろうか。


「あー、そうか……。」


 確か名前は――ユースファウンテンだ。

けれど、バリーの夢に従い、私が少年の探し物を手伝うのであれば、今の私に出来るのは一先ずこれくらいだろう。


「うん、それがいい……。」


「? なにが良いんです?」


木のヘラで鍋をかき混ぜながら一人で勝手に納得し、うんうんと頷いた私の隣で少年はキョトンと首を傾げた。


「いやすまない。さっきは稀代のバカだと言ったが、キミ、逆に凄い時に来たと思ってね。」


「はぁ。と言うと……。」


「ししょーーーー!!!!」


そして私が少年に「ある提案」をしようとした瞬間、勢いよく開かれたキッチンの裏口から、土まみれのバカ弟子が帰って来た。 


「ツチノコもういなかったー!!」


 見れば、ぶかぶかの真っ黒なローブは、上から下まで真っ茶色だ。

更に顔にまで土がついており、どうやらあっちこっち掘り返したのであろうことがすぐに解り、私は表情には決して出さないものの、うんざりした。

因みに私の隣にいる少年も、ガチャ子の姿と一瞬で土まみれになったキッチンの床を見てドン引きしている。


「おーそうかー、残念だったなー。きっとお前が帰ってくる前に逃げたんだろなぁー。」


 白々しく嘘をつきながら、私は鍋に蓋をした。

野菜に火が通ったら、あとはルー(スパイスボール)を淹れるだけだ。

もうやっとお昼ご飯――そう思った瞬間、再び腹の虫が一斉に目を覚ますのを感じた。




グゥゥウゥゥウゥ~~~~………




「ははは、ししょーみっともねー。てか何作ってんの?」


「カレーだよっ! バカ野郎ッ!!」 


――次の研究は「オナラをお花の香りにする魔法」にしようと思ってたが、やっぱり「どんなにお腹が空いてても腹の虫を黙らせる魔法」にしようかな。

なかば癇癪かんしゃく気味にガチャ子に八つ当たりをしながら、私はふとそんなことを思ったが――少なからず需要はありそうだ。


 しかし思えば、私が昼食を食いっぱぐれたのも、このバカ弟子の帰りが遅かったからなわけで。

だがそもそも、研究材料の買い出しついでに食材の買い出しまで任せたのが良くなかった。

その点では私が悪かったと言えよう――って、そう言えば……。


「そういえばガチャ子、買い出しの御釣りは?」


ふと思い出す、買い出しに行かせる際、確か「一万シャン」は持たせたはずだと。


「あ、うーんと……。えーっと……。」


 たちまちガチャ子は視線を泳がせ始めた。

これも毎度の事とはいえ、やはりまたどこかでお菓子か何かを買うのにお金を使ったのだろう。


「あ、そーだ! そんなことより、アンコロモンチッチさんが、ししょーに出した手紙の返事が返ってこないって泣いてたよ?」


「アンコロ……? あぁ、良いんだよ彼は。会う度に妙なアロハ押しつけられて、こっちは迷惑してるんだ。良いからほら、早く御釣り。」


「ウ、うん……。ほい……。」


 わざとらしく話を逸らそうとするバカ弟子に手の平を突き出し、叱るように催促すると、ようやくガチャ子は汚れたローブのポケットから渋々お金を出して来た。

早速、預かった御釣りを確認する――が、やはりどう計算しても、圧倒的に足りてない。

何事も無く買い物を済ませていれば「6000シャン」は確実に余る筈だ。

だが今、私の手のひらには「233シャン」しか、ない。


「で? 何か言う事は。」


「イエ家の、ラーメン……食べました……大盛で……。」


やっぱりだ、しかも大盛。


「あ~のなぁ!!」


「あのー、すいません。」


「ん?」


これだからお前は!!――と、バカ弟子の土まみれの頭をひっぱたいてやろうとした時、なにやら少年が申し訳なさそうに右手を上げて、私とガチャ子の間に割って入った。


「俺もアナさんの金で御馳走になりました。お金無くって。大盛で。」


「は? え? は??? お金がない???」


「です。なので一週間ほど泊めていただけると助かります。へへ。」


「あー……うん。」




――本当に、とんでもない客人だ……。




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