Jinxed_2
驚いたことに、その日、バカ弟子が突然連れてきた客人は、昔バリーが夢に見たという例の少年だった。
冴えない黒髪のリンネ、パッとしない間抜けでふざけた顔、私よりも目線ひとつくらい低い身長――ひと目見た瞬間に、私は「遂に彼が現れた」と確信した。
「あ~もぉ~まったくまったくまったくもぉ~……!!」
――までは良かったのだが、なにしろタイミングが良くなかった。
寄りにも寄って、今日――いや、いつ来てもだいたい家にいる時は無気力なのだから、それは関係ないか。
しかし、パジャマのまま寝癖すらも整えず、自堕落にソファで横たわる私を見て、あの少年はどう思っただろう……。
「あ~~~~もぉ~~~~バカガチャ子~~~~!!!」
急いで身だしなみを整えつつも頭の中はその事でいっぱいで、さらにふと姿見に映る自分を見て、遂に私の羞恥心が大噴火した。
ひとまず外用の濃紅色のローブに着替えたは良いものの、長い髪は未だに寝癖であっちこっち跳ねまわっており、まるで暴風域をフライトした後のようにボサボサだ。
鏡に映る私は、顔色も悪い、目つきも悪い、オマケに口角も下がってて、うんざりするほど感じが悪い。
目の下にはくっきりとクマが出来てるし、肌も青白く、如何にも不健康そう。
――外では見栄を張って若作りをするけれど、なんだかんだ私は今年で38になる。
勿論、今日訪ねて来たヒュムの彼から見れば幾らか若く想えたかもしれないが、中身はスッカリおばさんのドルイドなのだ。
「……。」
そしてバリーは――もし彼が生きていたら、彼は私の6つ上だから、今年で44歳か。
もっとも、私も彼もリンネなのだから、本当に正確な年齢なんてものは解りっこないけれど。
「でも、そっか……。20年……。」
ふと姿見越しに、首から下げたあの青いゴム玉が目についた。
それと同時に、幾度となく書き直した歪なゴム玉の顔と、鏡越しに目が合う。
――そして、ふと思う。
これは最初、どんな顔をしていただろうか――もっと純粋で、素直で、可愛らしい顔をしていた気がするけど。
どうやらそれすらも思い出せなくなるほど、私は独り、こんな遠くまで来てしまったらしい。
「気が付いたら、こんなに時間が経ってたんだね。」
姿見から視線を落とし、実際にゴム玉を触り、その顔と向き合って、私は呟いた。
よく見れば、ゴム玉の顔がまた消えかかっている。
普段から首に下げている為に、気が付くと表情が無くなっているなんてのは良くあったけれど。
「今度こそちゃんと、書き直さないとね。」
――バリー、やっとキミの夢が目を覚ましたよ。
改稿の意。




