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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第二部 余談 ヴォードロー
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This could be ours_3



「……う。ここは……。」


 気が付くと、俺は見知らぬ天井を見つめていた。

頭のすぐ上に小窓があり、涼しげな風がカーテンを揺らすと、まるで土足で踏み入るようにヒトビトの楽し気な話し声や高笑いが入って来た。


「あ、やっと気が付いた?」


「なんだ……俺は一体……。」

 

 さっぱり状況が解らずボーっとしていると、ファラが呆れた様子で腕を組みながら俺の顔を覗き込んで来た。

小窓からは模様のないあの月が覗いている、どうやらもう夜らしい。

そして外から聞こえて来るこの喧騒――もしやここは、ケズバロンだろうか。

そして多分ここは宿だ――けど、なぜ俺はこんな所で寝ているんだ……。


 それに何故だか身体が鉛のように重く、妙に馴染みのある精神的な疲労感がのしかかっていた。

例えるならそれは――そう、シルフィさんのパーティングギフトで木っ端微塵に爆散した時のような……。

……て、あれ――


「もしかして、俺……死んだのか。」


「え? うん。変な二人組の荷車に轢かれてね、それはもう凄まじい惨状だったんだよ?

 どけどけ~って盛大に轢かれた瞬間、四肢と頭が黒ヒゲ危機一髪みたいに『バッツーンッ!!』ってぶっ飛んでバラバラに捥ぎ千切れちゃったの。

 更に道行くヒトビトに容赦なく踏み踏みされちゃうし、ようやく全部の肉片を回収したと思ったら、踏まれ過ぎたせいでゾンビの吐瀉物みたいになってたんだから。」


――だそうだ、なるほどな。


「そうかよ。集めてくれて、ありがとな。」


「うんっ! どういたしましてっ。」


 ファラはそう言ってあっけらかんと笑った。

とりあえずファラに礼を言ったがしかし、本当は「けど自分の死にざまを詳細に聞かされる俺の身にもなれよ。」って付け加えたかったけど、なんかその笑顔が純粋過ぎて何も言えなくなった。

というか何かもうどうでもいいや。


「しかしなんで俺はケズバロンに……。」


――そう。そうなのだ、いよいよ摩訶不思議なのである。

奇妙なことに、俺には自分が無惨に爆死する直前の記憶が無かった。

ファラの言った事が本当ならば、恐らく俺はこれまで通り、加害者でもあるシルフィさん直々に蘇生されこの部屋で寝かされていた筈なのだ。

であればそれこそ、これまで通り目覚めると同時に自分の置かれている状況を理解出来て当然なのだけれど……。


「だめだ、何も思い出せない……。一体どうなってる……。」


「――でもホント、シルちゃんいなかったら大変なことになってたんだよ?」


ベッドから体を起こし、俺が失われた記憶を再生すべく意識を集中していると、不意にファラがそんな訳の分からない事を言い始めた。


「そうか。でも俺が死んだの、多分シルフィさんのせいだろ。」


「ちょっと何言ってるの? シルちゃんが、い”た”か”ら”――助かったんでしょっ?」


「あぁそう!! じゃぁもうそれでいいや!! ありがとなぁ!!

 なんだよなんだよ!! どうせ悪いのはカーズ顔の俺の方だよこんちくしょうブサイクこんにゃろうめぇッ!!」


「何その態度!――って、そういえばしー君、なんか全体的に元に戻ってない?」


「……は? なんのことだ? 見ての通り身体はもう元通りだぞ。」


「あ、うん……えっとねー……。」


 ファラの話では、どうやら俺は今朝から記憶喪失になっていたらしい。

いや、厳密に言えば今も軽い記憶喪失状態には違いないのだが、そうではなく。

例えば、ファラの事を「マイハニーエンジェルゥ~」と猫撫で声で呼んだり。

例えば、シルフィさんの事を「大道芸人」だとか「メンヘラ女」と蔑み、ペットのクロちゃんを「小汚ねぇ鳥」と罵ったり。

売られたケンカは相手が誰だろうと容赦なく奇声を上げて襲い掛かったり。

逃げた相手を「ムカつく」という理由だけでわざわざ追いかけてブチのめそうとしたり。

果ては「ブサイクに人権なんかない」とツバを吐いて悪態をついたり。


「もうほんとに大変だったんだよ?」


「お、おう……。」


 とまぁかなり重症だったようで、荷車に轢かれて爆散する直前まで相当やりたい放題な暴漢になっていたそうだ。

そしてそんなヤツはいっそ死んで当然だと、俺は大変お疲れなご様子のファラさんを見て思った。

また、どんな理由で俺が記憶喪失になったのかというその経緯についてだけは、どういうわけかファラは頑なに教えてくれなかった。

コイツ、また何かやらかしやがったんじゃねぇだろうな……。


「まぁいいや、それでなんで俺達はケズバロンにいるんだ?」


「えー……それもイチから説明しないといけないの~? もう、めんどくさいなぁ……。」


「いいから話せよ。」


「はぁ……しょうがないなぁ……。けどもう良い時間だし、その話しは歩きながらにしてよね。」


 未だベッドの上にいる俺を尻目に、ため息交じりに背を向けて、ファラは部屋の戸を開けた。

壁に掛けられた時計を見る。

夜の10時か――いくら眠らない街ケズバロンと言えど、この時間になればもう少し静かになると思うのだが。

けれど窓の外から聞こえてくるヒトビトの笑い声は、更に先ほどよりも増したようにさえ感じた。

俺達が今日ケズバロンに来た理由――もしかしたら、この活気づいた喧騒と関係があるのかもしれないな。


「ほら、早く行こっ。」




一話が2000字弱なの久しぶりな気がするし、なんか物足りなく感じる。

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