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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第二部 余談 ヴォードロー
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mayday parade_1



「おぉぉおおおいぃぃいいい!! なんじゃこりゃぁぁあああああ!!!!」


 龍星期3031年6月30日。

いよいよ年の暮れ。

また同時に、俺がここに来て今日でちょうど2年ということになる。


「おいファラァァアアアアア!! ちょっと出て来いやぁぁあああああ!!!!」


 この世界に放り込まれて、2年。

長かったような、あっという間だったような。

様々な出会いと別れを噛み締めて、俺は今日という今年最後の始まりの朝を迎えた。


「さっさと出て来いヤァァアアア!! こなくそウガァァアアアアア!!」


「……もうなに~? 朝からうるさいなぁ~……。」


「これが黙っていられますかってのよもぉ~~~!!」


――はずだった。


「ファラ!! こりゃ一体なんだっ!!」


「ん……?」


 時刻はまだ朝の7時を回ったところ。

こんな年の暮れの早朝から火炙りにされたゴブリンのような奇声を上げて、一体今度は何事だと読者の皆さんもお思いかと思う。

だがしばし待たれよ、まずはこのひと幕を見届けて頂きたい。

話はそれからだ。


 俺が目を覚ましたのはほんの十分ほど前。

顔を洗おうと台所に向かった俺は、その一角に山と積まれた「あるもの」を発見し、堪らず今年最後の大癇癪を全身全霊で解放してしまったという訳だ。

そんな今年最後の朝、家中に鳴り響く今年最大の俺の怒号に、ファラは目を擦りながらようやく部屋から出て来た。

そして俺が尻を焼きつぶされたラストゴブリンのような奇声を上げた根源というのが――


「なにって……。見ての通り、壁一面の健康食品と栄養促進サプリメントだよ?」


つーわけだ。


「こなクソこのバカタレー!!」


「え? なに? なんなの?」


「え? なに? なんなの?――じゃねーよこのブサイクハゲッ!!」


「ムッ!! なによーさっきからー!! アンタの方がハゲでしょーがぁっ!!」


「うるせぇッ!!」


 キッチンの一角、そこにひっそりと綺麗に積まれた段ボールの、山。

まるで壁のように……あまりにも自然にそこにあるもんで今の今まで気が付かなかったが……。

それはもう見ただけでド偉い量の健康食品と栄養促進サプリメントであることが解った。

よく見れば段ボール箱にはお洒落なロゴで「メーデーパレード」と印刷してあり、恐らくこれがメーカー名であろう事が解る。


「何でこんなもんが大量にウチの台所にあんだよ!」


「なんでって……それはだって、しー君がずっと元気なかったからじゃん!」


「……は?」


「それ、意識高い系のヒト達の間で話題になってる食品メーカーなんだって。

 食べたらきっと意識高い系のしー君も元気になると思って取り寄せたのっ。」


腰に両手を当てて得意気にそう言うと、更に「褒め称えよ」とでも付け加えるかのように、ファラは腕を組んで満足そうに笑った。


「へー! 俺の為にね! そうかそうか! ありがとなぁ! お陰でこんなに元気になったよ!! はっはー!!」


 うん、どうやらこのバカげた量の健康食品とサプリメントは「俺のため」だったらしい。

確かに、前世の記憶を取り戻してからの俺が、特にここ最近までずっと元気がなかったのは事実だ。

それは否定できない。


 あの日――俺はケズホライゾンからこの家に帰ってくると同時に、逃れようのない非情な現実に直面してしまった。

その直後から、俺は喪失感と虚無感に感情を板挟みにされ、食事も喉を通らないという状況が暫く続いたし。

夜になっても上手く寝つけず、睡眠の質もガクッと下がってしまっていた。


 日中は自室に閉じ籠って、ベッドの上でひたすら怠惰に時間を浪費し。

未だ帰ってこないパトラッシュの事を考えるだけの孤独で険しい残酷な時間が延々と続いていた。

当然そんな様子をファラにも心配されたが、心にゆとりのなかった俺は冷たくあしらう事も多かった。

その結果が、壁一面の健康食品と栄養促進サプリメントの段ボール箱なんだそうだったらよ~。


「でもおかしいだろ! なんだこの量はよ! 幾らだ! 幾ら使った! 我が家の全財産の何分の幾らだ!!」


「んとねー……確か200万くらい?」


「ににににひゃくまんぎゃぁああΦ#仝§%’〇ぁああ+*!#Δ%$ΘΞぁぁああああああ!!!!」


「ちょっとやだーーーー!!!」


「――ΣΦ#仝§%’〇ぁああ+*!#Δ%$ΘΞΦΣぁぁあああ!!!!」


「あーもーうるっさぁぁああああいっ!!!!」


「ざけんなぁぁああああ金返せ金返せ金返せ金返せぇぇええええ!!!!」


「待って待って! 本当に体に良いんだよコレ! 本当だよ?」


 いよいよ喀血しかねない程の凄まじき俺の発狂は家中に反響。

堪らず耳を塞いだアホウシだったが、その後ヤマと積まれた段ボールの一角を「よっこらしょーいちのすけ」と陽気に抱えると、その中から……。


「ジャーンっ!」


「な、なんだ? この不味そうな液体……。」


 その箱の中からファラが取り出した物は、グッタリと濁ったドブみたいなネズミ色のドロリとした液体が入ったパック。

しっかり真空パックでラミネート加工されてやがる……。

段ボールといいコレといい……いい加減にしとけよスチャラカクソポコが……。

んで、一見すると腐って見えるその液体の正体が――


「……これ、カレーか?」


「うんっ!!」


――だそうだ。

ファラは満面の笑みで頷いた。


「あ、ちょっと待ってねっ!」


「……。」


 その後ファラは鼻歌交じりにウキウキとカレーを皿に盛ると、俺にそれを差し出して来た。

おいおーい、毒を食らわば――ってか? 食い物を粗末にするなよ。

これがカレー? せめて緑だろ……なんで灰色なんだよ。

いやまぁ真っ青なネモフィラカレーとかさ、奇をてらった変な色の食べ物は確かにあるにはあるよ?

けどいくら何でも灰色はねーだろ……。


「こーゆーお肉を使ってない食べ物を『ガヴィーン』って言うんだって! ほら、試しに食べてみて! 吐くほど不味いけど絶対に元気出るんだから!」


「いらねーよ!! 見ての通りもうこんなに元気じゃドアホっ!! ガヴィーンはテメェだこのバカブス!!」


「バカブスー!? なによー! 自分だって腐ったイモみたいな顔してるくせにー!!」


 当然、俺としても年の暮れにこんなみっともない言い争いなどしたくはないのだが……。

しかしこのアホは自分の出番が減っているからと言って、ここぞとばかりに過激なことをするようになってしまったのだ。

ちょっと前は毒キノコ食わされて殺されかけたし、その前は訳わからんカードゲームに付き合わされもしたな……。

まぁ今にして思えば、あれはまだ可愛い方だったが……。


「あーなんか具合悪くなってきたー! こんなガヴィーンに全財産の96%もパーだからなぁー! ほらお前のせいで財布の中の8万レラしかなぁーい!!」


日々エスカレートするファラの奇行に、俺は発狂による酸欠も手伝ってか、いよいよ眩暈を覚えた。


「もー心配しなくても大丈夫だってばぁ! アタシだってしー君の為に色々考えてるんだから!

 これはね、食べきれない分は知り合いとか同業者に売れば良いんだって! ね、画期的でしょ?」


――あ?

コイツ何言ってんだ? 画期的……?

バカみたいな量の健康食品とサプリメント。

それも食べきれない分は知り合いに売ればいい?

あれ待てよ……つまりそれって――


「ネズミ講だよー!」


「え?! ね、ねずみ!? どこどこ?!」


ファラはワタワタと辺りを見渡した。


「ネズミ講!! 騙されたんだよ詐欺だ詐欺!!」


 ち、ベタなボケ方しやがって!!

実は解ってやってんじゃねぇだろな?

最早コイツの一挙一動に殺意を覚えるんだが、俺は一体どうしたら良いんだ……。


「あー畜生クーリングオフとか無さそうだなこの星はよ!!」


「も~やーねー。詐欺だなんて、そんな訳ないじゃな~い。」


俺がクソマルチの箱を蹴っ飛ばすと、ファラはアメリカ女のように陽気に笑った。


「あーもーいーよッ!! んで誰だ!! 誰に勧められたッ!!」


「シルちゃんだよ。」


「俺がソイツぶっ殺してや――って、え? シルフィさん?」


 はて、聞き間違いでもしただろうか。

ファラの言うシルちゃんと言えば――あれ、それってシルフィさんのことだよね?

いやいや、そんな訳ないか。

仮にも彼女はゆるふわ聖女だし――あ、いやでもあり得るな、あの子も普段はキャラ薄いからか、唐突に暴走する癖あるし、思えば色々とチョロいからな、あのヒト……。


「うん。なんかシルちゃんも友達の友達に勧められたんだって。」


「だからそれネズミ講だろ!! そしてなんでお前もそこでおかしいと思わないんだよ!!

 あ~クソ――バカだバカだと思っていたが、まさかお前がここまでバカだったとは思わなかったよ!!」


「あ、ちょっと何すんのよー!!」


 俺は堪らずクソマルチの箱の中身をぶちまけた。

確かにこのスチャラカポコタンで「詐欺」って滅多に無さそうだし、争いもなくこう平和だと詐欺を詐欺だと思わない豊かな人間性が養われるのも解るが――


「でも解れよなぁ!! なんでそんなに純粋なんだよお前たちはよっ!!」


「え、純粋……? もしかしてアタシ、しー君に初めて褒められてる……?」


「褒めてねぇよ!!」


――年の暮れ、我が家の家計、トホホノホ。

とまぁこんな年の暮れにまで、俺達っていうのはとことこんスチャラカポコタンだった。

因みにこの大事件はその後どうする事も出来ず、完全に泣き寝入りに終わるのだが――


「なんか大声出したらお腹空いたね~。年越しガヴィーン食べる?」


「いらねぇよッ!!」


――後に更なる大事件への引き金となるのであった。



正確にはマルチだそうです(マルチ商法とネズミ講は似て非なる物なんだとか)。

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