Bring Me The Horizon
随分と長いひとり語りだけど仕方ないと思う。
「ウホ……ウホウホウホウホホ、ウホウホホウホウホウホウホホウホウホウホホウホホホイ……。」
――当然、想いは言葉に直さなければ、人の心には届かない。
「ウホ、ウホホイ。」
いや、言葉にせずとも伝わる場合もあったのかもしれない。
しかし多くの想いは、その形を成すより前にただ無へと還ることとなる。
「……。」
また言葉が相手に届いたとして、それが正しく伝わることは極めて稀であろう。
それは血の繋がりのある家族とて、例外ではないのだ。
「……ウホホ、ウホウホウホホ。」
だってほら――現に今だって、届かない。
「ウホウホウホホ、ウホウホウホウホホウホホイ。」
今だって、全然なんにも届いてないんだ。
「ウホウホホウホホホイ、ウホホホホウホウホホ、ウホウホウホウホホホウホイ。」
そして俺の想いは――こうして酷い嗚咽をどれだけ吐き散らかしても、きっともう届かない。
だけど、父さん――
「ウホウホウホホウホ、ウホウホホウホホウホホイウホホウホウホホ……。」
この世界へ放り出された時、記憶も名前も空っぽだった。
「ウホ、ウホホウホウホウホホイ……、ウホウホ……。」
時々脳裏に浮かび上がる記憶を求めて彷徨って、空っぽのまま旅をする。
「ウホホ、ウホウホホウホ……ウホウホウホホイウホイ……。」
お世話になった村を出る時、共に行く仲間が出来て。
「ウホ……ウホホ、ウホホホウホウホウホウホホ。」
まだ旅の途中、大勢のヒトビトの悩みに触れて、悩んだり、助けたり、助けられたり、助けられなかったり。
「ウホホ、ウホホ、ウホホ……。」
まだ旅の途中、何かできたり、何も出来なかったり。
「ウホ、ウホウホ……。ウホウホウホホ……。」
まだ旅の途中、後悔も過ちも、二度と取り戻せない幸せな日々もある。
「ウホホ……。ウホホ、ウホウホホィ……。」
まだ旅の途中、思い起こせば、たらればだらけの人生だった。
「……。」
けれど別れより、出会いの方が多かったのは、とても幸せなことだろう。
「……ウホ、ウホホイ。」
そう思えたのはきっと、一人ぼっちじゃなかったからなんだよ。
そして俺は、俺の為に――
「ウホ、ウホホイウホホウホウホウホホウホウホホ。」
この結末を、絶対のロマンにしたいから――
「ウホホウホ、ウホウホ、ウホホウホウホホウホ。」
例え届かなくても――
「ウホホウホウホウホホ……ウホホウホウホホ……、ウホウホホウホホ、ウホウホホウホホウホホ、ウホウホホイ。」
ちゃんと、全部伝えたいんだよ――
「ウホウホホウホイ……。ウホ、ウホウホホホイウホウホイ……。」
別に無駄だって良い。
だけど無意味なものにはしたくないから。
ちゃんと、伝えたいのに――
「……ウホ、ウホホ。ウホウホホウホホホホウホホ。ウホホウホ、ウホウホウホホウホホ……。ウホウホ、ウホホウホウホウホホホイ。ウホホウホ、ウホウホホホイ……。」
なのに――
「――なのに……。なのにさ……。」
やっぱり俺は――
「……おかしいだろ。アンタ。」
まだまだガキなんだ――
「やっと、やっとだよ。やっと会えたのに、なんでなんだよ……。」
俺は子供なんだよ――
「なんで、俺の事、覚えてないんだよ、アンタ……。」
生まれ変わったって、いつまでもアンタの子供なんだ――
「生まれ変わっても絶対に忘れないって、言ってたじゃんかよ……。」
生まれ変わったって、アンタの事がすきなんだよ――
「こんなところで何してんだよ……。」
絶対に、忘れられるわけないよ――
「もっと頑張れよ……。あと一息じゃねぇかよ……。」
アンタが俺に残してくれたもの――
「なんで俺の事、覚えてないんだよ……。大事な家族の事、なに忘れてんだよ……。」
俺が……父さんの想いを裏切ってしまったこと――
「全部忘れて、新しい生活まで始めて……。
あんなに元気な子供たちまでいてさ……。
俺、やっと思い出したのに……。
やっとここまで来たってのに、バカみたいじゃんか……。」
謝罪も、後悔も、感謝も、独りよがりな手向けの言葉も――
「1人だけ、バカみたいじゃんか、ホントに……。」
ホントは全部、聴いて欲しいのに――
「これじゃぁ、あんまりだ……。あんまりだよ……。」
――もう、いつから涙が流れていたかはわからない。
「俺、やっと自由に動けるようになって、好きなだけ喋れるようになって。
父さんに話したいこと、山ほどあったんだ。
本当に、腹を抱えて笑っちゃうような話が、山ほどあるんだよ。」
ただそんな事よりも、喉が焼けるように熱く痛く、嗚咽すらも、どうにか音にするのがやっとだった。
「全部話したい、全部聞いて欲しい。
父さんの話なんてどうでもいいくらい、時間も忘れるくらい笑える話が沢山あるんだよ。」
こんな俺の様子は、端から見たらウホウホ言いながら泣いてて、さぞ滑稽なんだろうな――
「なのに、なんで――」
けど、それももうすぐ――
「なんでもう、何も、届かないんだよ……。
こんなに……。こんなに近くにいるってのに……。
これでやっと、言葉で伝えられるのに……。」
もうすぐ、終わる――
「俺、結構頑張ったんだ……。こんなに頑張ったんだよ……。」
もう、終わるんだ――
「なのになんでアンタ、ここに居ないんだよ。
最後くらい待っててくれたって、良いじゃんかよ……。」
だから、会いたい――
「俺……父さんに、会いたいよ……。」
最後に一目会って――
「母さんに……お礼が言いたいよ……。」
ちゃんと、ありがとうって――
「あ……。」
ありがとう――俺はただ、それだけ。
「あ、あり……。」
それだけ、ちゃんと言いたかったんだ。
今更だけど、台詞の合間にリアルタイムで心の声入るの読み辛いよね。
知ってたよ、ごめんね。




