Mother Tongue_3
「……これでいいのかい?」
「はい、大丈夫です。……。俺の声が、聞こえますか?」
「……。」
おもむろに、そして恐る恐る、怯えた様に――耳を塞いだエンベリィさんの大きな背中。
俺の言葉に、エンベリィさんからの反応は無かった。
その沈黙が合図となって、俺はエンベリィさんの背中に一歩、歩み寄る。
父さんだ――
父さんの、背中だ――
何も変わってない。
ちょっと老けたけど、背中はやっぱり、父さんの背中だよ――
「――やっと、会えたのにね……。」
そうして言葉にすると、辛かった。
重かった。
悔しかった。
もう、その一言だけで、言葉がグシャグシャに押し潰されそうになるほど。
そしてエンベリィさんからは、特に反応は無い。
大丈夫、ちゃんと聞かれてない。
――そう、これでいい。
これからすること、まじでメチャクチャ恥ずかしいからな――これは俺が、俺の想いの為に打ち明ける事だから。
誰に届かなくても良い事だから。
だけど、もしエンベリィさんに盗み聞きされてたら、死ぬほど恥ずかしいからさ――
「ウホ、ウホホホ。」
父さん、ちゃんと聞こえてるか――
「ウホウホウホ、ウホホウホホイ。」
俺の声、ちゃんと聞こえてるか――
***
俺、ここに居るよ。
ちゃんと、生きてるよ。
生きて、ここにいるんだよ。
自分の足で歩けるし。
自分の言葉で喋れるよ。
ここで、この星で、この下らない世界で、どうにか笑って生きてるよ。
いつも楽しくやってるよ。
なんだかんだ父さんも、楽しくやってるみたいでさ……なんか、良かったよ。
……。
俺、今日までさ……ホントにまじで、すげぇ楽しかったんだ。
沢山泣いて、泣かされて。
時々笑って、笑われて。
散々とんでもない目に遭って、挙句何回も何回も何回も、酷い死に方したんだけどね。
それでも――この世界に来てからの全部、それがどれだけ大事なものだったのか、今だったら……解るんだ。
しょうじき端から見たら、とんでもなくデコボコで、ハチャメチャでグチャグチャな人生なんだろうけど――それでも今日までの日々を思い出すとね――あぁ、俺って、結構リア充してたんだなって、素直に思えるんだ。
それくらい楽しかったからさ――
それで、父さんも腹抱えて笑っちゃうような面白い話いっぱいあるからさ。
もう、ほんとに今更だとは思うんだけど、それでも聞いて欲しいかな……なんて――
――やっと、会えたのにね……。




