Bad Life_2
「ゲェ……。事故渋滞だぁ……。」
「あら、結構長そうね……。」
「だから俺は飯なんて後回しにしてさっさと帰ろうって言ったんだよ~。」
「でも向こうでご飯なんて言ったら何時間後になるの? 絶対お腹空くじゃない。」
静岡への楽しい家族旅行の帰り、軽快にここまで走らせてきた車が徐々にスピードダウン。
何事かと思えば、それは長い絶望の始まりだったってわけ。
運転席の父さんが早速ブツブツ文句を言い始めた。
「その結果がこれだろ~!」
「もうお父さん五月蠅いよぉ。黙って前見て運転しててよ。」
大声を出した父さんに、後ろの席の姉ちゃんが堪らずシートを叩いた。
けどその物言いは運転手に対して流石に可哀想だと思う。
「車が進まねぇから代わりに俺の口が進むんだろが!」
「あら、お上手。」
「へへ? そうかぁ?」
「いや、ぜんぜん上手くねぇよ……。」
うん、全然上手くないと思う。
けれど何故か父さんは得意げに頭を掻いた。
こんな人でも飛行機の設計師になれるんだから、それってどれだけ楽な仕事なんだろう。
ところで早速ちょっとお腹が空いてきたのだけど――
「ねぇ父さん、買ったお土産食べてもいい?」
「お土産を車内で食うやつがあるかバカタレ!」
「そうよ! 我慢しなさい情太郎!! 卑しい子ね!!」
「アンタさっき食ったばっかじゃん!! バカなの? ねぇバカなの?」
家族全員からストレスの的にされた。
――そして、この後……――
***
「へー、咲ちゃん、もう進路の事考えてるのか。」
「う~ん、まぁね。けどまだ漠然としてるかな。」
学校の帰り道――というと若干の違和感を覚える。
というのも、俺は彼女と同じ電車に揺られながら、手すりにつかまって席に座る彼女と話していたからだ。
ほら、帰り道って言うと、やっぱり自転車を押して歩いていたりとか、動的な雰囲気があるじゃん?
「ジョウ君は将来の夢とかあるの?」
「え? 夢? 夢かぁ……。」
そしてふと彼女はそんなディープ目な話を俺に振るのだった。
幸いこの時間帯は電車に人がほとんど乗っていないから、周りに聴かれて恥ずかしい想いをすると言うことも無いけど。
因みに何故、彼女が席に座っていて俺が手すりにつかまっているのかというと。
まぁ彼女の隣も余裕で開いているが――まだこう、なんかさ、ピタッとくっついて座る距離感とかむず痒くて、無理。
ぶっちゃけ普通に恥ずかすぃ~。
「……まぁ、まだ考え中かな。」
「……そっか、私も。でも最近お母さんが五月蠅くてさ~。」
と、咲ちゃんはため息交じりに俯いてしまった。
因みに彼女の本名は、阿須野 咲。
咲ちゃんのお父さんはお医者さんで、お母さんは結構凄い弁護士らしい。
そんな両親を持った咲ちゃんは、日ごろから両親の期待と重圧に苛まれている。
そしてそんな彼女を、俺はただ黙って見ている事しか出来ずにいた。
「へー。でも咲ちゃんは勉強もできるんだし、まだいい方だよ。」
「ちょっとなにそれ? 何もよくないよ。」
咲ちゃんは他人行儀に返した俺の言葉にムッと顔を上げ、今度はちょっと怒った。
「だって俺なんてこなんだの中間テスト、英語3点だよ。」
「3点!? まじそれやばくない!?」
「うん。母さんには滅茶苦茶怒られた。」
「私、自分の彼氏が英語で3点取ったなんて知りたくなかったよ。」
「なんだと? こんな俺だって必死に生きてるんだよ!」
そして彼女は声を出して笑った。
ザッツライト――これで良いんだ。
俺の恥で、咲ちゃんが元気になれるなら、俺はこれでいい。
って、今の俺、ちょっとカッコいい?
「なら今日イチの悲報を聞かされたお詫びにジュース奢ってよ。」
なぜそうなるんだい咲ちゃんよ。
「それより今度『トリプルエックスメン』の新作やるんだよ。一緒に見に行かない?」
「こら、話を逸らすな3点君。そんな態度だと皆に言いふらすよ?」
「あいやー。」
「うひひ、ごちでーすっ。」
――咲ちゃんは、あの後どうなった……――




