Bad Life_1
「ただいまぁ~。」
「あら、おかえり情太郎。」
一日の授業を終え学校から帰ると、リビングのソファで寝っ転がっている母さんと目が合った。
相変わらずこの時間になると、ダラダラとお菓子をつまみながらテレビを見ている。
去年、俺が中学に上がり、姉も大学の近くで一人暮らしを始めてからはずっとこんな感じだ。
まったく母さんときたら――父さんは休みなく頑張って仕事をしているというのに、主婦って言うのは気楽なもんである。
「……。アンタまた遊びに行くの?」
げ。
「うん、友達の家に行ってくるよ。」
「ちょっとアンタねぇ、勉強もしないで遊んでばっかじゃ、そろそろ進路の事とか考えないと、後々痛い目見るよ?」
帰宅早々風呂場へ直行、ちゃっちゃと汗を流し、さっさと着替えて外へ行こうとすると、キビキビと母さんに玄関で釘を刺された。
出来る事なら帰宅せずに友達の家に直行したかったけど、今日みたいな真夏日に体育館でバスケの授業なんてあったら、流石に一回帰って汗くらい流したかった。
その結果がこれである。
まったく別に高校なんてどこでも良いじゃないか。
「母さんこそ、そうやってだらだらしてるとまた太る――」
「――情太郎!!」
「――ぃやべッ!!」
「あ!! 待てコラァ!! この薄らトンカチぃッ!!」
しょうもない中学生の小言に激怒した母さんから全力ダッシュで逃れる。
へへへ、流石に日がな一日ゴロゴロしてるオカンに足の速さで遅れは取らんぜ?
「アンタ今日飯抜きだかんねッ!!」
――あぁ……これは、母さんだ――
――俺の、母さんだ――
***
空が高い。
ただそれだけ。
「ほら情太郎、もうこんなに紫陽花が咲いてるわ。」
母が車イスの向きを変える。
俺の視界に、花がいっぱい映る。
「綺麗だね――」
母が呟く。
「私は紫陽花が好きなの、綿菓子みたいで美味しそうだし、今日みたいな曇り空や憂鬱な雨の日も、この花を見ると嬉しくなるから。」
そう言った。
「情太郎はこの中でどの色が好き? 青? 紫? 赤?」
どうでもいいよ、そんなの。
「私は青いのが好きね。」
全部、灰色だ。
「情太郎っぽいのは――」
この世界の、全部――
「あ、あった。この色かな。」
灰色だ。
――そうか、俺は……――
花言葉を添えて。




