Deathbeds_10
芸術とは爆発だー(棒)
「ごめんなさい……。ごめんなさい……。」
「ウィラ……。」
妻の焦がしたカレーをダシに、どうにか乗り切った昼食時の茶番。
満足そうにお腹を膨らませた子供たちが再び外へ出かけて行き、時間が止まったように静まり返ったリビング。
いつまで経っても部屋から出てこない妻の様子が気になり、私が中の様子をこっそりと隙間から除いた時だった――
「要らないなんて、そんなはずない……。」
ベッドに腰掛けたまま、妻は泣いていた。
「大事だから……大切だったから、辛くても捨てられなかったんじゃない……。」
手には一枚の紙――手紙のようだが、あれは一体……。
妻は涙を流しながら、まるでその手紙と話でもしているように独り言を呟いている。
そして彼は一体、ウィラに何を――
「ウィラ、大丈夫か。」
「……。えぇ……。もう、大丈夫……。ごめんなさい……。」
堪らず扉の隙間から声を掛けつつ私が室内に入ると、それに気付いた妻が涙を手で拭いながら笑った。
その笑顔は、一見すると取り繕っているようにも見えたが、けれど何か吹っ切れたような清々しさを孕んでいた。
それは優しく穏やかな妻が初めて見せた感情的な一面であり、なにをどう説明しようにも、複雑で、不思議としか言いようがなかった。
ただ、こんなに悲しそうで、幸せそうなウィラの笑顔というのを、私は見たことがない……。
「それは……?」
「手紙……。20年も前から、私宛に……。」
手紙――けれどあの少年が妻に渡したものは、彼女が肌身離さずに持っていたロケットだった。
そのロケットの中に、彼女も知りえなかったメッセージが隠されていたということだろうか――
「ロケットを、開けたのか……。見ても、いいかい?」
「良いけど――きっとアナタには、とてもつまらないものよ。」
これまで彼女がロケットを開けるところを見たことは無い。
思い出は辛くなるだけだから――そう言って、ロケットの蓋を開くことを頑なに拒んでいた。
そして、その中には家族との思い出の写真が入っているという。
それをあの少年に渡してしまったということだけでも驚いたが、更にそれを彼女が開いたという事実が、私には未だに信じられなかった。
思い出と向き合う――それは彼女にとって「トラウマ」と向き合うことと同義だったのだから。
「……。」
妻から受けとった手紙――色褪せた質感が、あまりに時間が流れ過ぎた事を物語っている。
そして恐らく赤いクレヨンを使ったのだろう。
そこには大きく拙い文字で「いつもありがとう」と、そう書かれていた。
そして――
「笑っちゃうでしょう? あの子、きっと絵の才能は無かったのね……。」
「いや……よく描けてるし、素敵だね。
それにきっと、キミの子供は天才だったんだよ。だってこれは――」
純粋で、自由で、無邪気で、あまりに拙いその絵は――
「"今"のキミを、描いたものなんだから。」
いま、私の目の前で、幸せそうに泣いている妻の笑顔と、あまりにそっくりだった。
「まったく――子供とは、怖いものだね。」
そして――ため息交じりの私の素朴な感想に、呆れたように笑った妻の笑顔。
「芸術とは、爆発だ――か……。」
それはあまりに、美しかった。
ごめん、更新サボって普通にゲームしてたわ。
てかちょっと最後の言い回しクドいかな? 入れたかったから入れたけど、蛇足感も否めない。




