Deathbeds_5
ヒステリーを起こし彼の頬を散々叩きまわしてスッキリした私は、けれど興奮してその夜はろくに眠る事が出来なかった。
逃げるように自室に塞ぎ込み、くたびれたベッドで横になってから、かれこれ2時間。
時刻は4時を回る。
何度か気晴らしに読みかけの小説を手にとっては見たけれど、内容が頭に入ってくるはずもなく。
私はただ、天井を見つめてボーっとしていた。
もうすぐ、朝が来る――もうずっとそればかり延々に考えているが、一向に朝は訪れないままだ。
そんな残酷な、夜明け前の無限。
――それならどうして、俺やエンベリィさんを護りたいだなんて言うんですか?
あの日から、これまで散々自分に問いかけて来た、彼の言葉を思い出す。
――本当に、全てが下らないと思うのなら、どうしてアナタは生涯孤独でいることを選らばないんですか?
――どうしてフィルとラニーを引き取ったんですか?
そんな事、アナタに言われなくたって、解ってるわよ。
――誰かの為だなんて、言わないでください。
――アンタはずっと、自分の中の不安と寂しさを埋める為に、ヒトの弱さを利用しているだけです。
だからなに? 例えそうだとしても、利害が一致しているなら、それでいいじゃない。
何が悪いの? 誰が悲しむの? 誰も傷ついていないじゃない。
――本当に、解らないの?
「……。」
――それは……アナタと、アナタの思い出よ。
「……。」
胸の奥から響く「何者か」からの声――そして、思わず手を上げてしまった。
全て図星。
もうそれ以上は聞くに耐えられなかった。
そしてもうこれ以上、手遅れになった自分に対して、残酷な真実を背負わせたくなかった。
「子供に手を上げるなんて、最低ね……。」
私はずっと、逃げて来た。
逃げて、逃げて、逃げて、逃げ続けて――その果てに、それでもなお逃げられないのなら、私はどうしたら良いの……。
そんなの、もう、考えたくもない……。
「……。」
もうすぐ、朝が来る。
もうずっとそればかり延々に考えているが、一向に朝は訪れないままだ。
そんな残酷な、夜明け前の無限。
――それならどうして、俺やエンベリィさんを護りたいだなんて言うんですか?
もうすぐ、朝が来る。
もうずっとそればかり延々に考えているが、一向に朝は訪れないままだ。
そんな残酷な、夜明け前の無限。
――本当に、全てが下らないと思うのなら、どうしてアナタは生涯孤独でいることを選らばないんですか?
――どうしてフィルとラニーを引き取ったんですか?
もうすぐ、朝が来る。
もうずっとそればかり延々に考えているが、一向に朝は訪れないままだ。
そんな残酷な、夜明け前の無限。
――誰かの為だなんて、言わないでください。
――アンタはずっと、自分の中の不安と寂しさを埋める為に、ヒトの弱さを利用しているだけです。
もうすぐ、朝が来る。
もうずっとそればかり延々に考えているが、一向に朝は訪れないままだ。
そんな残酷な、夜明け前の無限。
――本当に、解らないの?
「解ってるわよ……。ずっと、解ってたことじゃない……。」
***
「そんな……。」
いつもと変わらないあの静かな夜――突然の騒ぎに家を飛び出した私たちは、眼前に迫るそれを見て「もう助からない」と、そう絶望した。
「ボーっとするな!! 走れ!!」
まだ生まれたばかりのヴェセルを抱いて、旦那のアルドが叫ぶ。
震えるリリィの手を引いて、私は転ばないよう足元に気をつけて走り始めた。
ヒトビトの絶叫や呻き声を飲み込んで、徐々に近づいて来る波音。
あちこちで建物は振動に崩れ、街は既に見る影もなく、泣き崩れる者に、転んで助けを呼ぶ者。
親と逸れて泣く子供……。
親が崩れた建物の下敷きになったらしく、懸命に助けようとする子の姿もあった。
それら全て、見殺しにして、ひた走る私達家族。
けれどその頭上にも瓦礫と共に崩れた岸壁が落ちて来て――
私は――
私だけ――
「はは……助かった……。はぁ、クソ……。俺もアンタも、ラッキーだよなぁ……。」
「ラッキー……。」
私を助けてくれた、その翼人の男に、決して悪気は無かった。
興奮状態で、それを聞いた私の気持ちなんて、解る筈もない。
それはもう解ってる。
解ってるけれど――
ラッキーだった。
困ってるヒト達を見捨てて、ラッキーだった。
ひとりだけ、助かって、ラッキーだった。
ひとりだけ、生き残れて、ラッキーだった。
私だけ、ラッキーだった。
私はもう、ここで生きてる意味なんて、これっぽっちもないのに――
ラッキー――今もその言葉が、脳裏に焼き付いて、離れない。
***
「くだらない、なんて……。本当にそう思いたいわけ、無いじゃない……。」
もうすぐ、朝が来る。
もうずっとそればかり延々に考えているが、一向に朝は訪れないままだ。
そんな残酷な、夜明け前の無限。
朝が来る
もう、逃げたくない――
朝が来る
ちゃんと、向き合わなくちゃ――
朝が来る
前に、進みたいのに――
また、朝が来る
「でも……。怖いのよ……。」
ぶっちゃけウィラさんの話は思い付きながらで書いてるんだけど、ケズトロフィス関連の話が悲しすぎる。
なのであまり詳細には掘り下げないこととする。




