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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第二部 終章 ブリング ミー ザ ホライゾン
312/402

Deathbeds_1


コン、コン――


「……。」


 少年とのやりとりに耐え切れなくなり部屋へと逃げ込んだ私は、それから明かりも点けずにベッドに腰掛けたまま、タバコを吸ってウィスキーを飲んでいた。

真っ暗で静かな部屋、風で揺れるレースのカーテン。

半開きの窓からは涼しい風に乗って、スズの音ように安らかな虫の鳴き声が入ってくる。

恐らく昔から――こうしていると、気分が落ち着くのだろう。


「いま開けるよ。」


 しかし随分長いこと、ウィラと少年が話をしているのが扉越しに聞こえていた。

ジッとその会話に神経を集中するも内容までは解らなかったが、恐らくはウィラが少年を説得していたものだと思う。

そう……。私にとっても、そしてウィラにとっても、彼という存在は「邪魔」以外の何でもない。

そして性懲りもなく、部屋の戸を叩く音が真っ暗な空間に虚しく響いた。

頼むから、放っておいてくれ――私を……私達、家族を――

私はため息交じりに重い腰を上げ、扉のノブに手を掛けた。


「ウィラから、だいたいの事は聞いたようだね。」


「はい。」


「……。」

 

 どうやらまだ、彼は諦めていないらしい。

しぶしぶ戸を開くと、リビングの明かりに当てられて、何の断りもなく私の足元まで少年の影が伸びてきた。

その影から顔を上げると、どこか申し訳なさそうにその少年が立っていた。

しかしこの子は一体、何をそこまで必死にならなければならないというのか。

何がこの子をそこまで必死にさせるのか。

このネックレスに、この下らない呪いに――

そして私に、彼は何を期待しているのだろうか――


「それで、まだ何か。」


私は冷徹を装って、突き放すようにそう言った。


「実は最後にひとつ、お願いが――試したいことがあって――」


「試したいこと?」


「はい。それでもし――」


 お願い、試したいこと――彼はそう言って俯きがちだった顔を上げたが。

試したいこと――それは「私に対して」試したいことがある、そう言うことだろうか。


「もしダメだったなら、俺は……。」


「――キミはこのまま、諦めて、帰ってくれるんだね。」


「……。はい。」


 煮え切らず、言い淀む彼の言葉に、私は催促するように最後の一言を付け加えた。

私のその一言に、彼はまるで観念したように小さく頷いた。

試したいこと――それを済ませたら、この子は何もせずに帰ってくれる。

それなりの覚悟と確信があっての決断ということかもしれないが、そう言うことならば――


「そういうことなら、一応――まずは話くらい聞いてもいい。

 キミにもそれなりの理由があるようだしね。

 なにしろ、こんな辺境までわざわざやってきた客人をこのまま冷たく突き返すというのは、私としても虫の居所が悪い。

 最低限、協力はするよ。」


「ありがとうございます。」


「こう言っては何だが、別に礼を言われることじゃない。どのみちキミを助けるつもりは、私にはないんだから。」


 少年は、私に向けて頭を下げた。

その謝罪はどこか寂し気で――頭を下げた彼の姿に、私は何故だか胸の奥が痛むのを感じた。

実際この少年は、これまで私の元を訪ねて来た犠牲者達とは少し雰囲気や状況が違っていた。

どうやらただの好奇心や興味本位で私を訪ねてきたわけでは無いようだし。

そもそも彼は、私がゼロへ渡したネックレスを辿ってここまで来たというだけであり、ゆえに私が何者かなど知りもしなかった、というのがどうにも引っかかった。


「……それで、試したい事というのは?」


「はい。実は俺、触れたものの想いを呼び起こし、それを伝えるという奇跡が使えるんです。」


「……。想い……? それを呼び起こし、伝える?」


「えぇ、そうです。そこで、これをエンベリィさんに――」


「……? それは……。」


 少年はネックレスを私の方へ差し出して来た。

私がこの世界にやってきたあの時、記憶も名前も空っぽだった私の、唯一の持ち物。

なんてことはない、何の変哲もない、黄金色の飛行機――

つまり彼は、これの想いを呼び起こし、私に伝えようというのだろうか――


「……それの想いを、私に伝えようと?」


「はい、そうです。最後に、それだけ……。」


「……。」


 正直、彼が何を言っているのか、よく解らなかった。

どうして彼が、私の気持ちを動かすために、このネックレスに込められたその想いとやらを伝える必要があるのだろうか。

それに、私は特別、これに対して何か思い入れがあるわけでは無い――彼にもそう言ったはずなのだが……。

今一彼の意図が読み取れない私に対して、けれど少年はただ黙って私の回答を待っていた。


「……。」


――しかしまぁ、これが済めば、彼はもう私の前からいなくなる。

これで潔く諦めて貰えるというのならば……。それなら――


「よく解らないが……。まぁ、それでキミの気が済むというのなら、試してみるとしよう。」


「ありがとうございます。それじゃぁ、このネックレスを。」


「あぁ……。」


 このネックレスの、想い、か――

僅かな緊張を胸に、私は彼から、それを受け取った――




***




「―――、誕生日おめでとうっ!」



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