THROW THE FIGHT_3
「THROW THE FIGHT」
作:The Storytellers
あらすじ
男には自慢の大きな翼がある。
けれどその翼は黒く汚れ、どうあがいても、飛ぶことは出来なかった。
男は空に焦がれ、その想いは日増しに強くなっていく。
自由に……もっと自由になって、俺はいつか、あの空を飛びたい――
けれどそんな長年の大望も、今日という人生最高の日を迎えた今となっては、もうどうでもいいことだった。
なぜなら男は、そんな翼なんかよりも遙かに大きく、空を飛ぶことよりもずっと楽しいものを、この闘いの中で勝ち取っていたのだから――
魂を捕らわれるな。
己を信じることを、せめてお前だけは信じ続けろ。
世界を呪うな、他人を妬むな、そんな己を恥じろ。
他人の善し悪しは、己の善し悪しだ。
翼がないなら地を行け。
足がないなら這っていけ。
乗り越えた先に、お前にだけしか見えない世界が必ずある。
それがお前の生きる、この世界の価値なんだよ――
だから、笑ってろ――
最後まで、泣くじゃねぇよ――
***
「――だから、収益は孤児院とリンネ管理団体へ寄付したんだ。少しでも黒印を持つ子の助けになれば良いと思ってね。」
「そうですか。でもなんだか、その方がハルさんらしいですね。」
あの一件から3カ月――今は一月の中旬。
めでたく年も明けて、俺は久しぶりにハルさんの家を訪れていた。
実は俺の方もその間色々あったんだけど、まぁそれは次の話で語ろうと思う。
そしてこれは、いわばこの八百長もどきの後日譚と言うヤツだ――
「――いや、こんなのはボクらしさじゃないよ。だってこれはね、アイツとの約束だったんだ。ボク一人だったら、決してこんな風には思えなかった。
仮に一人でここまで登り詰めていたら、ボクはきっと自分の実力に自惚れて、ろくでもないヤツになっていたよ。」
そう言って、ハルさんは申し訳なさそうに頭を掻いた。
ゼロ戦墜落という大事件の後、ハルさんはすぐに小説の執筆にとりかかったという。
まるで童心に帰ったように楽しかった日々の思い出と喜び、自分をここまで導いてくれたゼロさんへの憧れと尊敬、黙って背中を押さなければない悔しさと、それでも貫かなければならなかった絶対のロマン。
ハルさんの御両親の話では、それはもう凄い勢いと今までに無い程の執念で、それこそ日々まるで憑りつかれたように自作に向き合っていたのだそうだ。
そしてハルさんこと「The Storytellers」の描いた短編小説「THROW THE FIGHT」はケズバロンの小さな本屋の一角にポツンと置かれると、偶然それを手に取ったヒト達を皮切りに、瞬く間に反響を呼び、あっという間に一躍有名になったという。
「ボクはアイツと過ごした日々を通して、アイツから、自分にとって本当に大切なものは何なのかを教えて貰った。
遥か高みにいるアイツの追い求めたロマンが、ボクの世界をここまで大きく広げてくれたんだよ。
そしてアイツが叶えた夢は、世界が認める程の希望になった――なんて、最近はそんな風に思うんだけどね。」
ペン立てに差した白い羽根を大事そうに手に取って、何かを思い出すようにハルさんはそれを見つめて笑った。
勿論あれは、ゼロさんの落とした羽根だ。
「言うまでもないけれど、アイツのロマンはボクのロマンでもあった。
けど結局のところ、ボクがした事って言うのは、ゼロという漢が追い求めた絶対のロマンを写し描いたに過ぎないんだ。
ボクはボクのまま、アイツへの強い憧れを全力で筆に乗せたに過ぎない。」
「そんなこと、ないですよ。」
「――え?」
「――だってそれがきっと、ゼロさんの望む『絶対のロマン』だったんですから。」
クズによろしく言っといてくれ――って、あのヒトに言われたからな。
俺、ちゃんと届けますよ、ゼロさん。
「そしてそれは他の誰でもない、ハルさんと共に描きたかった物語なんです。
そうでなければ、ゼロさんはあそこまで辿りつけなかった。
だって、あの結末を解っていて、独りで歩き続けて、心の底から笑えるわけないんです。
例え、見ていた世界が違うものだったとしても、ハルさんが傍にいたから、ゼロさんは最後まで笑って飛べたんです。
最後までこんな茶番に付き合ってくれたハルさんの為にも、俺は笑って飛ぼうって、そう思えたんじゃないですか。」
口にすると、こんな恥ずかしい想いだ――けど、ちゃんと伝えたよ。
アンタとハルさんの、ロマンの為に――
「……。」
「ニンジャもサムライも、ウルトラもヤマトも――そして野球好きの、ゼロさんなら――そう言いますよ。きっとね。」
「――あぁ。そうだね。」
目に涙を浮かべて、ハルさんは笑った。
なんて――俺はその時、嬉しさと罪悪感で笑いだしそうなのを堪えるのに必死だったんだけどね。
ホント、ファラなんて連れて来てたら大変なことになってたかもな――
***
「ちゃんと伝えてきましたよ~。ありがとうってね。」
「おう、サンキューな。シーヴ。」
「まったく、自分で言えばいいのに。」
「まぁ良いじゃねぇか減るもんじゃねんだし。
しかしクズの野郎……小説とはいえ、やっぱ俺のこと殺しやがったか。許せねぇ。」
何をいまさらこの男は……。
クズさんの書いた物語を読んで、自分のことなのに「なんだこれめちゃいい話じゃねぇかぁ~!!」などとオイオイ泣いたくせに。
「あぁ、あとハルさん、今回の収入のほとんどは、やっぱり寄付に回したみたいです。」
「おう、そうか。もし自分の懐に入れていやがったらブチのめしてたとこだが、そんなら良かったわ。
にしても、入院してる間にまた金欠になっちまったな~、そろそろ街のヤツらに借りにいかねーと。」
「は? あの、それほんとにやめた方が良いと思いますよ。その内ギルドから指名手配されるんじゃないすか?」
「あ? なんでだよ? 親切で貸してくれるのにギルドが出張ってくる理由なんかねーだろ?」
そう、ゼロさんは生きている。
いや、まぁそんなもんだよ、この世界だし。
言うて皆も薄々解ってたんじゃねーの? なんてね。
あの後、墜落したゼロ戦の立ち上る煙を追いかけてファラと俺が辿り着いた先は、ファラがチーさんに拾われたという「チェルシーグリン」の森だった。
運よくそこに不時着したことでゼロ戦は森の木に引っ掛かり、ゼロさんはその時の勢いで汚い沼に放り出されたらしい。
バカみたいに溺れかけてる所へ駆けつけた俺達は、死にかけの間抜けなゼロさんを保護したのだが――
「ところで何故生きている事をハルさんに黙ってるんです? てっきり今日は顔を見せるもんだと思ってたのに。」
「あ? いやお前、あれでのこのこ生きて帰ったら、なんかかっこ悪いだろ。
あんだけシャキッと退場しといて、どっこい生きてましたって――めちゃくちゃダサくね?」
「あぁ、確かに。間違いなくハルさんは笑いますね……。」
「だろ? ま、そーゆーことだ。ロマンはロマンのままに――ってな。」
3カ月もの入院の末にゼロさんは完全復活を果たし、晴れて今日、宛てのない旅に出るという。
そして旅に出るその前に、せめてハルさんに挨拶にと共にここまでやって来たのだが、なにしろ本人がこれである。
本当は会いたいはずなのに――恐らく照れ隠しというやつなんだろう。
ゼロさんはなんてことない顔をして俺に背を向けると、両手を頭の後ろで組んで口笛交じりに歩き始めた。
「けれど、これはこれでロマンがありますよね。――またいつか会えるんじゃないかって。」
「たっはっは――」
その背中を追いかけて、俺がそう言うと、ゼロさんは真っ白な大翼をガバッと広げて、振り返らずに笑った。
「そうかもな――」
きっとそれは、今までで一番の、人生で最高の笑顔だったんじゃないかな――
「最初はやっぱり空島に行くんですか?」
「――いや、それはもういい。俺はもっと上を目指したくなった。」
「上を? あの島より高い所を、ですか?」
「あぁ、宇宙だ!!」
「は?」
「次はロケットで宇宙に行ってやる。そして次は宇宙人共と――野球がしてぇ……。」
何言ってんだコイツ。
「んじゃそろそろ行くわ。まじでありがとな、シーヴ――グッバイ。これで、さよならだ。」
そう言って軽く笑うと、俺の返事も待たずにゼロさんは大きな翼を一層ちから強く開く。
羽ばたく度に勢いよく熱風を巻き上げ、振り返る事も無くあの高い空へとグングン上がっていく。
悠然と、逞しく、もっと力強く、そしてなにより、清々しく。
この物語は続いていく。
まだ見果てぬ次のページへ――
けたたましいセミの泣け声とギラギラの太陽に溶けていくそんな真っ白な物語に、俺はしばらく見蕩れていた。
「さてと、俺も這いつくばって行くかぁ。人生は一度っきりだしな~。」
いよいよ何も見えなくなり、俺も背伸びをしながら眼前に広がる新世界を見つめて、歩き始めた。
自らも、足元を確かめながら、一歩一歩を踏みしめる、雄大な大地を。
何よりも大切な、この黄金を抱きしめて――
だって、大事な思い出があるから――
受け取った大切な想いが、ここにあるから――
生涯忘れる事の出来ない悔しさも、俺はこの世界で、背負っていきたいから――
俺にもあるんだ。俺だけの物語が、この胸の奥に、ちゃんとあるんだよ――
次のしー君の話やって2部は終わりなんだけど、ちゃんと書けるか解んないからすぐには書き始めないかも。
一応起承転結はもう出来てるんだけど。
まぁ色々この作品について語りたいこともあるけど、それは二部が終わったら書くかも。
てかデビルミーツとか間の話なんも考えてなくて止まっちゃったわ。どしよ。




