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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第二部 余談 ビトウィーン ユー アンド ミー
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Better Days_1

「シーヴッ! アホッ! ボケッ! カスッ! ヘッ! ヘッ! パンパンッ!」


「パトラッシュゥ~! 元気だったかぁ~!? うれうれ~よ~しよしよし!」


 ケズドラシルから戻った次の日の朝。

俺は目が覚めるなり、アスとナツに預けていたパトラッシュを即行で迎えに行った。

良かった……。

まさかまたムチでビシバシ叩かれていたりしなかったろうかと思ったが、このテンションの高さから言ってその心配はなさそうで安心した。

家の中からお行儀よく出てくると、俺の顔を見るなり駆け寄って来て、激しくお尻を叩きながら俺の周りをグルグルと風魔小太郎のように飛び回っている。

ふふ、カワイイ……。


「いやぁ、毎度毎度悪いな、ホントにさ~。」


「いえいえ、良いんですよ、これくらいは。全然。」


「ところでシーヴさん、お土産は?」


「あ……。」


「またですか? 確かケズトロフィスに行った時も忘れて戻ってきましたよね?

 僕たち楽しみにしていたのに。」


 しまった、そうだった……。

おっとりとしているナツと違い、アスは小賢しいほど抜け目がない。

そんなアスに指摘されて気付いた。

お土産、買ってない……。


「ち、ちがうぞ。ちがうちがう。断じて違う。俺は別に忘れてたわけじゃないんだ。」


「兄者、シーヴさんはこう言ってますし、もういいじゃないですか。」


「いいや弟者ダメだよ、シーヴさんは虚言壁がある変態なんだ。しっかり調教してやらないと。」


もう変態言いたいだけだろこのチビが、ブチのめすぞ。


「今回はギルドの先輩のお手伝いだったから、そういう自由時間とか全然貰えなかったんだよ。」


「遺言は、それで良いですか?」


「え? ちょ! ちょま!」


 そう言ってアスが顔の前に右手を掲げる。

まずい! アーカイヴだ! アーカイヴ呼ぶ気だ!

こいつらが出て来る話ほぼ100でアーカイヴいるからな、まちがいねぇ!

というかそれ以外に出番ないから嫌でも出す気だ!!


「ご! ごめん! いやホントにゴメン! 俺が悪かった!」


「兄者、そのくらいにしといてあげましょう? このブタもこう言ってますし。」


「……。」


「くっ……。弟者がそう言うなら、仕方ない……。」


 遂にナツにまでブタ呼ばわりされたのが聞き捨てならないが、そのナツのお陰でひとまず助かったといえよう。

アスはどうしても右手の指を鳴らしたいらしく、顔の前で自分の指を悔しそうに見つめている。


「くっ……。鳴らしたぃぃい……。」


 良いからさっさと降ろせ。

俺からしたら手榴弾と同じなんだよ、その右手は。


「…そういえば今日チトさんは? もしかしてまだ寝てるの?」


 そんな訳の分からない禁断症状で手榴弾のピンを抜かれない為にも、俺は話題を逸らすべくそう尋ねた。

別段チトさんに用事があったわけではない。


「あ、いえ、昨日の夜また社交ダンスの大会に出掛けました。」


「また!?!?」


 あのじぃさん何ハマってんだよ……ヤンチャキッズか……。

その内マジで大怪我すんぞ……。

そしてそんなチトさんの話題になった途端、アスは突然疲れた顔でドッとため息をついた。

まぁ、解らんでもない。

でもファラよりはマシだ。

正直お前らの方が恵まれてると、俺は思うがね、うん。


「アイツ、昨日もカポエラーみたいにグルグル回ってて、まじウザかったですよ。」


「お前今なんつった? アイツ? 年寄りはねぎらえよ。」


って……。


「…え? ちょい待ち、お前カポエラー知ってんの?」


 アスがあまりにナチュラルにそう言うのでスルーしそうになった。

…いや、他にも突っ込むべきことが多すぎてスルーしそうになったのだが、確かに今アスはあのカポエラのマスコットの名を口にした。


「そりゃそうでしょう。

 僕もフロムジャパンのリンネですし。」


「え……。」


 あー…そっかー……。

そういやコイツらもリンネか……。

そして「何をいまさら」、アスはそう言いたげな表情をしている。

…いや、でもほんとに日本人か?

それなら……、この日本人離れした白髪は一体なんなんだろう?


 アスとナツ、この2人の白髪は、どうみても日本人のそれではない。

確かに顔立ちはアジア、それも日本人だとすぐに解る。

けれどそうだとしたら、この白髪は老人でもなければ説明がつかない。


「なぁ、お前らってここに来る前の記憶、どれくらい残ってる?」


「前世の記憶ですか?」


「前世…まぁ、そうだな。

 例えば普通、日本人って髪が黒いだろ?

 お前らのそれって染めてたとかなのか?

 そんでそんで、染めるとそのままの色でこっちに来るとか?

 …あ、ひょっとしてチトさんに魔法で変えて貰ったとかか?」


 あれ、なに聞いてんだ俺。

この会話めちゃくちゃシュールだな……。

色々気にはなるものの、だんだん馬鹿らしくなってきたぞ。


「いえ、お爺さんは特に何も。

 そもそもカラーって魔法は、あまりに高次元過ぎてほとんど誰も使えないって話ですし。」


「え…そうなの?」


 いや、まじか……。

だとしたら、ファラってまじで凄いんじゃないのか?


「けどこれは…言われてみればそうですね?

 僕らは2人ともシーヴさんと同じ黒髪だったと思いますけど。」


「確かに……。僕たちの髪、なんで白いんだろう。」


 アスとナツは首を全く同じ角度で右に傾げて「う~ん」と唸り始めた。

なんか無性に首をへし折ってやりたくなるのはひとまず置いといて、些細な事だが、やはり元々は黒髪だったのか。

もしやチトさんの魔法で色変して貰ったのかとも思ったが、そういう訳でもないらしい。

日本で染めていた訳でもなさそうだし、けれど何故白くなったのかはコイツらでも理由がわからないと……。

知れば知るほど、その謎は深まるばかりか。


「なぁ、いつまで髪が黒かった? お前らの最後の記憶ってなんだ?」


「最後の…ですか……。」


「……。」


 俺の問いに、何かを思い出そうと頭を抱える双子。

これは決定打になるかもしれない、そう思った。

髪がいつまで黒かったのか、そもそも初めから白かったという事は無いだろう。

多分、無いと思う。

そんなの聞いたことないし。

て…あれ、もしかしてアルビノってやつなのか……?

いやけど、アルビノって目も赤いもんだよな……。


「最後…僕は……。

 寝て……。

 布団で、寝てて……。

 ……。

 すみません…やっぱりよく解りませんね……。

 髪がいつから白かったのかも、よくわかりません。」


「僕も、兄者と大体同じです。

 何かが燃えてるような、嫌な感じで……。

 …もういいですか? ちょっと気分が悪くなってきました。

 思い出そうとする事も、思い出せない事も、なんだか恐ろしいです……。」


「そ…そっか…すまん……。」


 前世の記憶。

リンネは、良い死に方をしていないという。

もしかしたらその記憶は、この世界へ来る前に、意図的に消されているのかもしれない。

その見えざる何者かによって……。

アスとナツの髪が白い事と、リンネとしてこの世界にいる事、それは何か関係があるのだろうか……。


 俺は、どうだろう……。

俺の最後、俺の最後は……。

俺の、最後の、一番最後の記憶は……。


 眠りの淵、夢の中を彷徨っている感覚、真っ暗なはずなのに、真っ白な部屋。

そこでは、ピー、ピー、と均等な機械の音だけが頭に浮かんでくる。

夢の中を、いや…闇の中を彷徨う感覚。

暗い…イメージに霞が掛かって、意識が朦朧としてくる。

何者かに思考と記憶を遮られているかのようだ……。


「あの、シーヴさん?」


ふいにアスの声がして、我に返った。


「あぁ…すまん……。

 ちょっと、俺も思い出そうと思ったんだけど、やっぱり上手くいかないもんだな。」


 恐ろしく不気味な感覚だった。

真っ暗で、透明で、無音で、何もない、無限の空間。

あれは、虚無と言うヤツではないだろうか……。


「多分やめた方が良いです。

 知らない方が良いことというのもありますし。」


「……。」


 アスとナツ、2人はここに来たときから一緒にいた。

一人は業苦を、一人は奇跡を。

それはつまり言い換えれば、一人は憎しみを、一人は願いを。

と言うことになるのではないだろうか。

同じタイミングで死を迎えた、双子。

この2人の親は、…彼らの死後、どうしたのだろうか……。


「そういえばシーヴさん、日本人なら日本語、話せますよね?」


「え? あ、うん……。」


 よく解らないが、そうして俺が頷いた時だった。

2人は顔を見合わせて頷き、そして……。


「「ウホホウホウホ、ウホウホウホホウッホホ、ウッホホイ、ウッホウホ。」」


「え……。ど、どうしたおまえら、急に怖いぞ……。」


 突然アスとナツが盛った類人猿のようにウホウホ言い始めた。

なにこれ、怖い……。


「ウ…ウホ…兄者、やっぱりだめみたいだウホ。」


「ウホホ、やはり伝わらないようだなウホ……。」


「え? え? え? え?」


 え、なになに?

解らない怖い、解らない怖い……。


「む…なんて顔してるんですか、失礼ですウホね。」


「シーヴさん、今のは日本語です。どうやら伝わっていない様でしたけどウホ。」


「え? あ、うん……。あぁ……。」


 あぁ、そういえば俺も昔、マーシュさんに同じ事したことあったな。

ふいに思い出すグッドシャーロットでの日々。

そこで俺は今のアスとナツと同じことをして、マーシュさんに化け物でも見るような顔をされたのを思い出していた。


「ちなみになんて言ったんだ?」


「「ひ~みつ~。」」


 何でこんな奴ら、助けたんだろ、俺。

まじで。


「シーヴ、ウホ……。パンッ!」

丸焦げのショーグンが入った小便臭い棺桶、それを囲む涙の葬列。


誰一人言葉を発することの無い曇り空の下、ヨシネンもその中にいた。


ショーグンは、生きた。


そしてこの日、大エドの誰もが、ショーグンの勇気を、その涙と共に称えていた。


そんな時、その人物が遂に姿を現す。


まさか、あのヒトは……!?


次回!! ヒケコイ8999話!!


「パジャマでおジャマ!! 熱血!! ヨシネンパパ!!」


お楽しみに!!

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