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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第二部 6章 フレーニア
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「シィィイイイイイイイヴゥゥウウウウウッッ!!!」


 鼓膜をパンクさせるほどの怒号で、俺はギョッと目を覚ました。

その咆哮はヒト喰いの悪鬼を連想させ、途端に窓を揺らし、家を揺らし、そして俺の心臓をもドッキンコと飛び跳ね上がらせる、というか飛び起きた。

そう、ウタさんだ。


「い……、やっべぇ……。」


「さっさと起きろよぉぉぉおおおおおおおおおッッ!!!」


 そう、寝坊した。

時計を見る。

時刻は……13時あぁやべぇやべぇ大遅刻じゃねぇかぶっ殺されるぞこれ!!

カーテンの隙間から外を見る。

ダバから降りたウタさんが肩で風を切ってズンズンとこちらへ向かってくるのが見える。

お……鬼だ……。

SO…鬼がいる……。


「アホ!! シーヴ!! アホ!! カス!! 老害アホカス!!」


 事態の深刻さに気付いたパトラッシュが必死に応戦しているが、それも時間の問題だ。

はやく、早く逃げなきゃ!! …殺される!!


「んだこのブタザルがぁぁあああッッ!!!」


「アホーーーーーッッ!!」


「パトラーーーッシュッッ!!」


 遂にパトラッシュがやられた。

ウタさんに蹴とばされてボロ雑巾のように弧を描き、家の前に転がるのがカーテンの隙間から見えた。

そんな、パトラッシュ…俺の為に…俺の為に……。

こんな事って……。


「シーヴ…ハゲ……。」


バンッ!!!


「誰がハゲじゃいッ!! …は……。」


ハゲという言葉に反射的に反応してしまい、俺は想わず玄関を飛び出し叫ぶと、そこにはまるで仏のように安らかな笑みを浮かべるウタさんがいた。


「よう、ハゲガキ。まだ寝ぼけてるなら一発お見舞いしてやろうか。」


「あ……おはようござまつ……。」


「たくおめぇはよぉ!!」


 お説教、開始。

かれこれ30分くらい。

長い長い長い長い。

気が付けばコロ君もダバの上から降りて来て、そこら辺に生えている「毛むくじゃらし」でパトラッシュと遊び始めた。


「お前みたいになぁ、毎日毎日よぼよぼの老人みたいにボケーっとしてるやつは、まず時間に疎くなるんだよ!」


 え、うわ酒くさ!!

顔を近づけて唾を飛ばしながら怒鳴るウタさん、見れば少し顔が赤いのだが、なにしろ酒くさい!

何だこのヒトこんな時まで飲んでやがるのか?

ほんとにどうしようもねぇヤツだな。


「そうすっとどーなると思う!」


「はぁ、ストレスなく自由気ままに生きていけるとかでしょうか?」


「他人に迷惑を掛けるようになるんだよッッ!! このバカタレがぁッッ!!」


「あ、あの…まじ、すんません……。」


 ウタさんは、こなくそがぁ!! と地団太を踏んだ。

どうやら酒も手伝ってか俺との温度差にえらいギャップがあるようだ。

とりあえず深謝。ペコリ~。


「シーヴ、ヒトが待たされると、なんで怒るのか知ってるか?」


あ、まだ続くのかー……。


「あ、その、えっと……。心に…余裕がないからですか?」


「…時間を奪われるからだ……。」


 俺が答える度に眉間の皺がひとつ、またひとつと増えていく。

怒るくらいならもう怒らなければいいのに、ウタさんは活火山のように無駄にエネルギーを爆発させ続けている。


「え、はぁ…時は金なりとかですかね……。」


「あん? なんだ? それは。」


「えっと、古来より、俺のいたニッポンでは、時間はお金と同価値だとか、そんな意味です。」


「そんなわけがあるか! たわけが!

 いいか? 命を金で買えるか? 死んだヤツを金で生き返らせる事ができるか?

 命は、時間だ。

 生きることは時間と共にあり、そして命と共に、時間は死に続ける。

 金とは対等じゃない。

 時間は金より貴重であり、金は時間の産物に過ぎない。

 例えばお前が汗水垂らして稼いだ金、盗まれたらどう思う。」


「はぁ、腹が立ちますね。」


「そうだろう。ではなぜ金を取られて腹が立つ? いいか? 大事なことだからしっかり聞けよ?」


 長いなぁ……。

ウタさんはもはや興奮状態にあり、なんなら質の悪いクレーマーとそう変わらない。

そして余程キレているのか、俺の心の中を読む余裕すらないようだ。

眉間に寄った皺がこれまたなんとも嘆かわしい。


「それはな、本質的に奪われたのが金じゃなく、時間だからだ。

 金を手に入れる為に費やした時間を奪われた、命の、時間をなぁ!

 金で時間を買ってるなんて勘違いしてるやつもいるがな、その金だって時間を掛けて生み出したもんだろが?

 金ってのはな、1から100まで時間の産物なんだよこのバカタレがぁ!

 こら! なんだその顔! 解ってんのか!

 たくっ! お前は私の時間を無下に殺したんだぞ!

 殺した! 殺したー! 3時間33分12秒もなあっ!

 あー勿体ねぇ私の3時間33分14秒ちゃん!」


五月蠅いなぁもう。


「あ、けどそれだと、こうして話してる俺らの時間も刻々と死んでますね。」


ボコッ!


「あだっ……。」


「行くぞ! バカたれが! たくっ。」


 いてぇ……。

まぁ長い説教聞くより、一発殴られる方がましか。

そんなこんなでようやく出発。

あー長かった長かった。

て、そうか…本当なら俺は早起きして……


「あ、あのウタさん、ケズブエラ寄ってもいいすか?」


「あん? なんで?」


「パトラッシュのお世話をヒトに任せる予定だったんですよ。なので……」


「ううぅぅううううがぁぁああああああ!!!!」


「しー君、肝座ってんなぁ。」


コロ君に褒められた。

クズだなぁしー君。

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