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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第二部 余談 ヘイ マンデー
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Candles_5

「あっ! おっかえりぃ~!」


と、ファラ。


「あ! おい!」


 おいおい、なんだ急に……。

帰って来るなりファラは俺の方に駆け寄って来て、嬉しそうに手を引っ張って席に座らせたもんで、ふいに村にいた頃の事を思い出した。

テーブルの上をみると普段より豪華な食事が並んでいる。

そうそう、あの日も確かこんな感じで、豪華な食事だった。

ん? ケーキ…か? 珍しいな……。

って……。


「あ。俺、誕生日か……。」


「ん? うん。」


俺の向かいの席に座りながらキョトンと首をかしげるファラが「何言ってるの?」という顔をしていた。


「ほら! しー君の為にケズブエラでこ~んなおっきいケーキも買ってきたんだよ~!

 ヘイマンデーってお店凄い人気店なのっ!」


 そう言いながら、火の灯ったローソクのささった見事な三段タワーケーキをジャ~ンッ! と紹介してくれた。

お~凄い、1メートルくらいあるぞ、でもそれ俺の金だけどな。

て……


「なにこれ?」


「ん?」


見ればケーキ天辺のチョコプレートに文字が書いてあるのだが、普通そこには「ハッピーバースデー!」とか書くと思うんだけど……


「生老病死って……書いてある……。」


 食いづれーよ……。

ふいにバッカーの憎たらしい顔が頭に浮かんで来て一層食欲が失せる。

俺の金で何してんだコイツ。


「みてみて、このフライドチキンの特大バレル!

 これも凄い高かったんだから!」 


だからそれ俺の金だろ。


「この蟹グモの丸焼きなんて産地直送なんだよ!」


 おいコラ、それはもう金返せと言いたい。

次から次へとこれ見よがしに目を輝かせて高級料理の説明を始めるファラだが、全部が全部、俺の金だ。


「まぁアタシお金ないからプレゼントは買えなかったけどね。」


 ファラは「えへへぇっ」と照れたように頭を掻いた。

そうして結局、俺は俺の誕生日を俺の自腹で祝う事となった。

こんな虚しい誕生日、なかなかないぞ。

いやないぞ、ほんとに。


「ともあれ! しー君はぴばー!」


「お、おう……。」


「ん? なんか浮かない顔だね? お腹痛いの?」


「いや、別に……。」


「じゃぁほら! ケーキのローソク、ふぅ~! ってしてっ!」 


 なんだかなぁ。

思わずため息が出そうになり、テンションは上がるどころか下がる一方だ。

しかし例えその全てが俺の金だったとしても、こうして祝ってくれるヒトがいるだけでもありがたいと思わないとな。

俺はそう思いながら思いきり息を吸い込み、気を取り直してケーキのローソクを吹き消そうとし……て……。


「あれ。」


ふと思った。


「…そういえばお前、誕生日いつだったの?」


「ん? アタシ?」


 思えばこの一年、コイツの誕生日を祝った覚えがない。

村にいる頃は勿論、旅をしている間にコイツから誕生日を迎えたと報告があったこともない。

まぁ誕生日なんて別に自己申告するようなものでもないだろうけど。


「アタシ誕生日解らないよ?」


「え……。そうなのか……?」


 さも平然と言うファラに、俺は少し戸惑ってしまった。

けれどそうか……。

魔女は喋れなかったし、ファラはまだ小さい頃にチーさんに引き取られたから、自分の誕生日を知らないのは当然なんだ。

誕生日を知らない。

いや、もはや誕生日がない。という方が正しいのか。

……それを、悲しいと思った事は無いのだろうか。


「じゃぁ、今まではどうしてたんだ?」


まさか、祝ってもらったことがないとか、そんな悲しい事言わないよな。


「おじいちゃんと同じ日にお祝いしてたけど。」


あぁそうか、チーさんと同じ日に……。


「ふ~ん…ちなみにいつだ?」


「3月3日。」


 ひな祭りかい。

一番あの爺さんぽくないのはともかく、それじゃあ今年ファラは誕生日のお祝いなんて無かったんだな。

けれど、ということはチーさんは、今年は一人で誕生日を迎えたのだろうか。


「……。」


 ふいに、今は一人で過ごすチーさんの顔が浮かんだ。

俺に大切な名前をくれた、いってしまえばこの世界における俺の親のようなヒトだ。

少なくともそれまでの20年間はきっと、毎年ファラと祝っていたはずだけど、急に一人になって、今年の誕生日は寂しい想いをしたんじゃないだろうか。


「どうしたの?」


なんだか、それはちょっと……。


「……。」


「しー君?」


いい気味だな。


「ふふ、いや別に? なんでもないよ?」


「そ、そう? ……まぁいいけど。

 それより早くローソク吹き消して! ほら!」


 余程俺の薄ら笑いがキモかったのか、ファラは一瞬眉をひそめて下着泥棒でも見るかのような目を俺に向けた。

とはいえ、こうして俺だけ誕生日を祝われるというのも、今年お祝いが無かったファラに対して忍びない。

いやまぁ結果から言えば全部自腹なんだけどさぁ。

けれど、ファラなりの思いやりとかそーゆーのもあるわけで……


「あ~も~はやく蟹グモの丸焼き食べたいよぉ!」


 そーでもねーか。

グロテスクな蟹グモの死骸を見てうずうずした様子のファラが足をバタつかせて駄々をこね始めた。

まぁ、いつも通りだな。

けど、それなら……


「あのさ、今までファラの誕生日はチーさんと祝ってたんだろ?

 それなら今年からは俺と一緒の日に祝うようにしないか?」


「え?」


 誕生日がないなら、一緒に祝えばいい。

チーさんがそうしていたように、ファラが今までそうして来たように。

共に過ごす時間を、その喜びと感謝を、お互いに祝福すればいいんだ。


「うんっ!」


 一瞬ポカーンと間抜け面を晒した後その表情はパッと明るくなり、ファラは笑顔で頷いた。

一人寂しく年の終わりを過ごす哀れなチーさんの顔を思い浮かべながら、俺はそれに笑顔で応える。


「それじゃぁこのローソクも半分ずつ消すかっ。」


「やったぁーー!!」


 今日は俺がこの世界に来て初めての誕生日だ。

なのにプレゼントはない。

食事もケーキも、そのお金は俺の懐から出てる。

けれど日々こうして孤独じゃない時間を過ごせるのは、このマヌケな旅仲間がいるからであって、それは決して当たり前の事じゃないんだ。

一人寂しく年の終わりを過ごす哀れなチーさんの顔を思い浮かべながら、俺はそんなことを思った。


「「せーのっ!」」


 掛け声を揃えて、思いっきり息を吸い込む。

俺達は同時に息を吹きかけた。

瞬く間に豪華なタワーケーキのローソクは、恋する火消しの想いのように掻き消えた。


「はぴばーっ!」


 ただ俺だけが祝福されるだけじゃない、誰かと一緒に祝う、こんな誕生日も良いかもな。

一人寂しく年の終わりを過ごす哀れなチーさんの顔を思い浮かべながら、俺はバカな子供のように手を叩いてはしゃぐファラを見てそう思った。


「それじゃ~しー君! じゃんけんねっ!」


「は?」


 な、なんだ?

突然ファラは真剣な表情になり、右肩をグルグルと回し始める。


「アタシが勝ったらこのケーキは全部アタシのもの!! しー君が勝ったら……」


「子供か!!」


 

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