Black Magic Mushroom_3
「あ~ぁ。また死にやがったか。うぃっくぅ……。」
「ふふ……。シーヴ様、今日は面白い程よく死にますね。」
「けっ!! 鼻クソマーマレードがっ! 口程にもねぇっ!! ぺっ!!」
シーヴが、また死んだ……。
今日何度目か定かではないが、オレが思うに、既に5回くらいは死んでいるような気がする。
ボーラの丸太のような巨大な両腕に思い切り頭を叩きつぶされ、シーヴの首から上は見事に酔っ払いの吐瀉物の様にグチョグチョになっていた。
そのあまりに凄まじい下スマッシュに地鳴りが起こり、ヒトビトは逃げまどい、シルフィは尻もちをつき、ファラは転んでコロコロとボールのように転がっている。
そして興奮した様子のボーラが横たわるシーヴの死体にツバを吐きかけるのを見て、オレは思わず笑ってしまった。
――リザードの里を離れ、エネを追ってかれこれ1年近くなる。
こうしてシーヴを中心にこの輪の中にいると、なんだかおかしな事ばかりが起こり、オレは柄にもなく我を忘れて楽しい気分になってしまっていた。
けれど反面「こんなところで何をしているのか……」という僅かに暗い影が差すのも事実だ。
それは、楽しい気持ちになればなるほど顕著に表れていた。
先日、ウタからの情報提供で、遂にエネの足取りがつかめた。
もう終わりにしよう――そう思うのに、オレはまだこんなところで、現実から目を逸らしている。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
「あん?」
なんだ、なにが……。
いち早くその異変に気付いたのはウタだった。
ボーラの起こした地鳴りとは違う。
先ほどの見事な下スマッシュに少し遅れて、不穏な地響きが徐々に近づいて来るのを感じる。
なにか――とてつもなく巨大な「災厄」が近づいている……。
「うわぁぁああああ!! 雪崩だぁぁぁああああああああああああ!!!!」
どこからともなく、その男の悲鳴は聞こえて来た。
まさか……。
嫌な予感がして、オレ達がケズグンマーへ来る途中に通って来た山の方を見ると――
「おい、あれは……。まずいぞ……。」
「あらやだ……。ワタシったらハッスルしすぎちゃったのかしら……。」
「うそ……こんなの……。」
「ちょっと! 誰か助けてブヒ! 起こしてブヒ! 死んじゃう! 死んじゃうからぁ!」
尋常ではない大きさの雪崩が、この温泉街に迫ってきている。
山にありったけ積もった雪が、どうやら先ほどの下スマッシュの地響きによって一気に崩れたらしい。
まったく、退屈しないとはいっても限度があるぞ……。
既にヒトビトがパニックを起こして避難を始めてはいるが、この混乱した状況はかなり危険だ。
現に早速ファラがぽよ~んと蹴とばされてどこかへ転がって行った。
「ウタ、イスタ、すぐに避難誘導を――」
「おいおい、んなもん必要ねーよ。」
ウタは気だるそうにため息交じりにそう言うと、明らかにサイズオーバーなフードを上げ、その恰好とは不釣り合いな小さな顔を出した。
「いや、やるのは構わんが――それよりオレは、逃げるヒトビトが二次災害を引き起こす可能性もあると言っているんだが……。」
「そっちはシルフィに任せりゃいい。メノ、お前がしっかり守ってやれ。」
ダラダラと雪崩の方へ歩みを進めながら、タバコを取り出し冷静に咥えている。
「ウタさん、いってらっしゃいませ。」
イスタがウタの背中に丁寧にお辞儀をすると、ウタは後ろ手を振ってそれに応えた。
そしてタバコに火を起こしてふかしながら、押し寄せるヒトゴミに逆らって歩いていくと、遂にウタの背中は見えなくなった。
「ちょ、ちょっと、本当に大丈夫なの? ワタシ達も逃げた方が良いんじゃないかしら……。」
「ウタさん、一体なにを……。」
「なにも問題ございませんよ。だって、ウタさんですから。」
不安げなボーラとシルフィをよそに、イスタはいつものように冷静に笑うだけだった。
まぁ、実際その通りなのだが。
その後、オレ達がシルフィを中心に、転倒した者や踏まれてケガをした者の救助を行っていると、遂にそれは起こった。
ボッッッゴォォォォオオオオオオオオオンッッッッッ!!!!!
僅かに身体が宙に浮くほどの縦揺れと同時に、遥か上空に夕暮れに染まった見事なキノコ型の雲が一瞬で浮かびあがる。
「な! なんですかっ! アレっ!!!」
「ウタさんです。」
あぁ――まったく、化け物じみた光景だ。




