Vindicated_5
まぁ、もう、説明しなくていいよね。
そうですー、俺、死にましたー。……。ふざけろ。
「大丈夫ですか……?」
「……。」
ふと目を覚ますと、シルフィさんの寂しげな表情が覗き込んでいるのが解った。
なんだろう、後頭部に良い感じのだんりょ……く――って……。
え、ヒザ――枕か……まじ?
ほほう……。
ふむ、この眺め……。これはこれで、悪くない、か……。
あぁいや――いかんいかん。
俺はさも何事も無かったかのように名残惜しい温もりから体を起こした。
見ればクロちゃんがシルフィさんの脇にちょこんと座っている。
「助けていただいて、ありがとうございます。」
「いえ……。えっと――首から上が、壁に叩きつけられた熟成トマトみたいになってましたよ……。」
「ほふ~ん。」
いいよもう、状況説明なんてしてくれなくてもなんか解るわ。
とはいえ、今回ばかりはシルフィさんのせいにできない。
完全に俺の口の悪さが裏目に出た。
素直に感謝するのが道理というものだろう。
「すみません……。」
なにしろシルフィさんのこの表情、完全に自責の念に駆られてしまっている様子だ。
「シルフィさんが謝ることじゃないですよ。あれは確実に、俺が悪かったです……。」
「ん――そう、ですね。」
けどなんだろ、微妙に腑に落ちねぇな……。
て、あれ?
「――みんなは?」
それにここは――
「皆さんは先ほど温泉に入りに行きましたよ。」
ここ、宿の、部屋か……。
そう、ここは宿の客間と思われる和室だった。
てことは、今俺は――シルフィさんと2人きり……。
え……? それで、膝枕?
なにそれ……。
まじ?
まじまじまじ?
これまじで脈ありか?
「シーヴさん……。」
「はい。」
おぉ、なんかドキドキすっぞ!!!
おらワックワクしてきたぞっ!!!
そう、目を泳がせて何かを躊躇う様なシルフィさんのこの表情。
これは女子が好きな男子に告白するときのそれだ!!! と思う!!!
落ち着けー……落ち着けー……。
スー……&ハー……深の呼吸&深の呼吸……。
飽くまで冷静に――動揺はしないで男らしく振る舞え、俺!!!
告白されたらなんて言おうか……。
即答はまじキモいからな。
良い感じに駆け引きがあった方が熱く盛り上がるぞ?
それにきっとシルフィさんは今ドキドキで不安な気持ちでいっぱい、胸中穏やかではないはず。
とりあえず一瞬驚いたようにハッとした顔をしよう。
その後すぐ優しく包み込むように笑ってみよう。
そして無言でそっと手を取る。
そしてイケボでこう言う。
「えぇ、よろこんで――」
よし! これでいこう!!
ふっ……いいかお前らなぁ?
恋愛ってのは、自分のことばっかじゃダメなんだぜぇ?
告白する側の気持ち――それを汲み取っていち早く安心させてあげられる、それこそがモテる男の鉄則。
それこそが、ジェントリティってなもんよぉ。へへっ! こんちくしょ~うっ!
「えと、その――」
ゴクリ……。
思わず息を呑む。
いよいよか――俺もいよいよ、報われるんだね……。
パトラッシュ、次合う時はお嫁さんを連れてくるからね……。
そしたら俺達、本物の家族さ。
はてさて、結婚式の日取りはいつにしようかにゃん?
シルフィさんに着せるドレスのデザインも考えなくっちゃな~ん。
あぁ楽しみだなぁ~ん。ほふ~んっ。
ふふ、子供は何人が良いかなぁ。
4人? いや、やっぱ5人だな。
男の子より女の子がいいなぁ。
パパって、呼ばれたい――五つ子かぁ、五等分の愛娘――はは~。パパは5つに分けられないんだぞ~。
ぐふふっ。
「ズボンのふくらみが……。」
「え?」
「きもいんですけど。」
ズボンの、ふくらみ? ん~? な~に言ってるんだ~?
俺はシルフィさんの言っている意味が理解できず、視線を下す。
「ゴフ……。」
あいやー、死にたい。
ってさ、きっと、こんな気持ちなんだ。
あぁ……。
応援してくれたみんな、さようなら……。
今までありがとう。
てんさま。完。




