Vindicated_4
「う……。なんか、ちょっと熱いですね。」
ヒトゴミの中、萬恵湯畑を歩く俺達は早々に額に汗を浮かべていた。
何しろここは10000を超える温泉の湧く土地――最初から寒さなど無かったかのようにグッと気温が上がっていたからだ。
あちこちから立ち上る湯煙で僅かに視界は白み、地面からはお湯も張っていないというのに湯気が立っている。
先ほどまで虫の息だったファラはウキウキと元気を取り戻した半面、そう言ってシルフィさんが少し辛そうにしているのも無理はない。
ボーラさんとメノさんは何食わぬ顔をしているが、イスタさんもパタパタと手うちわで綺麗な顔を扇いでいる。
ちなみにウタさんは――
「ぜぇ……はぁ……」
ざまぁねぇ、UMAは死にかけていた。
「う……くっそ……バカあちぃ……。」
そりゃそうだ。
アンタだけカンカン照りの酷暑日に無理やり散歩させられてるポメラニアンみたいな状態だからな。
まぁいい気味だ。
俺の事突き落とした罰が下ったのだろう。
謝られてすら無いし、その罪は相当大きかったと見える。
というかそんなに熱いならそれ脱げよもう。
それにしても――
「ここら辺の街並み、なんか懐かしい感じで落ち着きますね。家とかお店の雰囲気が良くないですか?」
そう、ケズグンマー。
前々から思っていたのだが「グンマー」って絶対日本人が付けた名前なんだ。
そしてこの街の景観、誰にでも解りやすく例えるなら古都、京都がイメージとしては近いだろうか。
日本が世界に誇る瓦屋根の木造建築――昔ながらの日本の「和」のテイストをふんだんに盛り込んだここは、まさに日本風温泉テーマパークであろう。
うむ、実に素晴らしい。
よきかなよきかな。
「ん? シーヴちゃん、このヘンテコでみすぼらしくて小汚い木造の建物が好きなの?」
あいやー……。
ヘンテコ……みすぼらしくて……小汚い……。
「うむ、オレには少しカビ臭いな……。息苦しくて変な病気になりそうだ……。」
カビ……病気……。
「そうでしょうか? わたくしは好きですよ。あの赤い街灯なども、とても風情があって良いと思います。」
「そうですね。私も久しぶりに来ましたが、いつ来てもここの街並みは素敵だと思いますよ。」
あぁ……。イスタさん、シルフィさん……。
やはり女性の方は浪漫というものを解っていらっしゃる。
俺は思わず腕を組みうんうんと頷いてしまった。
「ねぇこの向こうってなんなの?」
「ん?」
見ればファラが赤く塗られた竹を幾つも並べて結った柵をグイグイと不思議そうに押している。
俺達が歩いている脇はその大きな柵で視界を覆われており、その上にはやはり湯煙が立っているが――まぁつまるところ、この向こうはずばり温泉であり、この柵はずばりもずばり、除き防止だ。
バギッ!!
え?
「あ、穴開いちゃった……。」
「おい!! お前何してんだ!!」
竹が腐っていたのか劣化していたのか知らないが、ファラがグイグイと押した辺りは顔程の大きな穴が開いてしまった。
「え? あっはは、ごめんごめん~。許してヒヤシンス~っと。」
といつものように笑って誤魔化しながら、全員が歩みを止める中、あろうことかファラはその穴に足をかけて柵の上に顔を出し――ておい!
「お~! しー君すごい! みー〜んなすっ裸だよー!!」
「ばっかオメェ!! そーゆーのはボーラさんみたいなおっさんがやるもんだろがぁ!!」
「あぁ!? おいヒロシィこのボケクソゴラァ!!!」
「あ!!!!」
しまった!! つい言っちまった!!
思わず口を突いた「おっさん」という4文字に、先頭にいたボーラさんの表情が仁王像の様に憤怒に歪み、肩で風を切りながらズシズシと俺の目の前まで歩み寄ってきた。
「誰が毛深いオヤジだコラァ!! 掘るぞコラァ!!」
「毛深い!? い! 言ってないよ!!」
「今言ったろうがぁぁぁあああああああああああああああああ!!!」
「ちょ! まっ! 腕振り上げないで!!」
しかし既にその目に理性はない、サイコモードだ。
進撃の仁王像は両腕を高々と頭上へ振り上げ、確実に俺の首を叩き落とすつもりでいる。
あぁ――足がすくんで、もう……もう……動けないよ――
「シーヴさん逃げて!!!」
シルフィさんの、声――
ふっ……そうか――きっとこれも、パーティングギフトのせいなのかな……。
ー キャーーーーーーーーーーーー!!! ー
「ヒトが仁王像に襲われてるぞーーーーー!」
「ガ! ガンツだーーーー!! 逃げろ! 皆逃げろーーー!!」
周りを歩いていた観光客たちが事態に気付き悲鳴を上げて逃げていく――
「うぅぅぅううううううううがぁぁああああああああああ!!!」
「のらーーーーーーーー!!!」
グジャァ!!!
くっだらねぇ。




