Vindicated_3
「あ……。」
「お、起きたか。」
「しー君だいじょぶ?」
はは。また死んだか、俺。
パーティングギフトで。
目を覚ますと俺以外の6人全員の顔と一羽の白カラスが輪になって覗き込んでいるのがまず見えた。
どうやら落下死したようだが――はて、あんな程度の高さから落ちたくらいで死ぬものだろうか……。
ダバの大きさというのは精々5メートルかそこらだ。
無論、頭から落ちれば別だが――
「シーヴちゃん、大丈夫? ぐっちゃぐちゃに踏み潰されてたけど……。」
ボーラさんの緊迫した面持ちがその悲惨さを物語っている。
どうやら俺はウタさんに押されて落ちた後、ダバにグチャッと無残にも踏みつぶされたらしい。
ホント主人公の扱いじゃねぇぞこんなの。
「俺、死んだんすね。」
「あぁ。流石にオレももうダメかと思ったが、シルフィの奇跡のお陰でなんとか助かったんだぞ。よかったな。」
いやメノさん、ほぼほぼその子のせいで俺は死んだんすけどね。
感謝しろよ――みたいな言い方するのやめて貰っていいすか。
「シーヴさん……。すみません……。また私の体質のせいで……。」
あぁ、ほんとにな。なんなら来なきゃよかったと思ってるよ。
とはいえこうしてシュン……とされると強くは言えないのが男心というもの。
「いえ、謝らないでください。どうにもならない事ですので。」
毎度毎度、どうもありがとよ。けどもう勘弁してくれねぇかな。
「あ、シーヴ様、まだ起きない方が――」
「イスタさん。」
そう言って起き上がろうとする俺の肩をそっと優しく支えたのはイスタさん。
この天使の笑顔だけが心の救い――ん?
あれれー。なんか、ニヤニヤしてるー……。
これー、嘲笑ってる時の、かおー……。
「たくっ、こんなさみぃ中手間かけさせやがって、ボケっとしてっから落っこちんだぞ。」
アンタのせいだろがこのUMAが。
腕を組んだ毛玉の化け物の中からそんな他人行儀な小憎たらしい台詞が聞こえて来て、流石にちょっとイラっとした。
「はーいはい、どーもすみませんでしたねー。」
「あ? てめぇ首吹っ飛ばすぞ?」
「ぇ――」
逆ギレ……?
ぉぉ、やっべぇ……。
マジで殺る系のコンビニ強盗と同じ目になってる……。いやそんなの会った見たことないけど……。
「しー君、はやく謝った方が良いよ……。」
俺がワタワタしているとファラが耳元でこそっと呟いた。
「す……すしゅ、しゅみましぇん……。」
「おいウタ、よせ。そんなことをしてたら日が暮れるぞ……。シーヴ、立てるか?」
「あぁ、大丈夫です。」
「ちっ。あの山のテッペンまで飛ばしてやんのによぉ。」
ウタさんはそう言って「殺神鬼」の酒ツボをグイグイ飲む。
おぉ怖――こっちが悪くなくても逆らえねぇ。地獄の獄卒のような白ダルマだ。
対してどこまでも冷静で大人なメノさんに手を借りて身体を起こし、辺りを見渡すと――
「おぉ?」
俺が踏みつぶされてからどれくらい経つのか分からないが、どうやら死んでいる間に温泉街に到着していたらしい――と思う。
俺が寝かされていたのは温泉街の入り口にある真っ赤な大鳥居(?)の脇のベンチだった。
その巨大な鳥居を潜って様々な種族が出たり入ったり、なにやら皆幸せそうに仲間や恋人、家族と並んで歩いていく。
なんだか、こういうのも懐かしいな――そういえば前世の記憶、今日は出ないんだろうか。
「うぅ……さむぅ~……。シルちゃん、お宿はどこなの?」
「あぁ、それなら――」
大きな鳥居の中を「神聖で巨大ななにか」が潜る様に木枯らしが吹き抜けると、ファラが身を縮こませて鼻水を垂らし、ブルブルとチワワみたいに震え始めた。
暖かそうな恰好してるけど、コイツ結構寒いの弱いんだよな。
しかし確かに、ここに来た途端急激に気温が下がった気がする。
体感で5度くらいは低いかもしれない。
これでさらに雪など降ればもう堪ったもんじゃないだろう。
「あっちの方ですね。」
そう言ってシルフィさんの指さす鳥居の奥先には軽いボヤ騒ぎの様にちらほらと湯けむりが立ち上り、その全貌こそまだ見えないものの、いかにも仙人とか神様とかが住んで居そうな雰囲気を存分に醸し出していた。
そう、あれこそがケズグンマー温泉地帯、ヨノハテの湯屈指の観光名物、その名も「萬恵湯畑」であろう。
草津は最高。




