You Are All I Have_3
「あ、しー君こっちこっちー!!」
広い店内でハンガーに掛けられた大量の服の間から、笑顔で手を振るファラを見つけた。
というより、この格好のせいで簡単に見つかった――という方が正しいだろう。
「えっへへ、可愛い服いっぱいあったよ~っ。」
ファラは既に自分の分の冬服を買い物かごに入れており、それはもうホクホクと満足そうであった。
「男物はあっちだねっ。」
いよいよこの格好ともお別れ、か。
そう思うと少し寂しいし、思ったより悪くなかったが、俺はまぁやっぱり普通の服が着たい。
さて、どんな服が良いかな……。
って――
「おーい。」
紳士服コーナー。
「ん?」
そう。全部――
「なんで男物の服、これしかねーの……?」
エビフライ。
「しかもなんで全部耳付きなんだよコレーーー!!」
「え、ちょっと落ち着いてしー君!!」
「おんどりゃーーーーーー!! こんなもん落ち着いてられるかーーーー!!」
「ど、どうかなさいましたかお客様……?」
このスチャラカポコ式クソ展開に俺がやけになりドタドタと地団太を踏んでいると、騒ぎを聞きつけて慌てたスチャラカポコ的クソ店員が早速現れた。
が――テメェか犯人は。
「……。」
「お客、様……??」
あぁ、解ってたよ。
「このエビフライ野郎!!!!」
「え、えぇ!?」
店員は黄色い「ニャンニャンスリープウォーキング」を着ていた。
お前は手出しとけよこの野郎!!
金勘定すんだろが!?
「なぁ!! 普通の服はねーのかこの店はよ!!」
気弱な店員相手に思わず悪質クレーマーのような口調になるのも仕方のない事だ。
こればっかりは俺は何も間違っていないし、普通に怒っていいと思う。
いつだって唯一俺だけが正しいんだ、この世界では。
「普通……?」
あ? んだその顔は。
首まで傾げやがって「このヒト頭おかしいのかな」とでも言いたげじゃねーか。
「ダイアシーズンはこれが普通なんですけど……。」
「はぁぁあああああ!?」
もう何が何やら、解らねぇよ……。
「じゃぁじゃぁ!! なんでレディースはお洒落な服が沢山あんだよ!!」
「え? レディースはそれが普通なので……。」
「死ねやぁぁあああああ!!」
「ヒィッ!!」
「ちょっとしー君やめなよ……。可哀想だよ……。」
「可哀想!? このクソエビがかっ!? 俺の方が可哀想だよーーーー!!
なんだこのバカみてぇな着ぐるみはよ! バカじゃねぇのかほんとによぉ! うがーーーーーー!!」
俺は猛烈に怒り狂ったイエティのように店内で再びドタバタと地団太を踏みまくるがしかし、どれだけ暴れようと、この店でまともな服が手に入ることはなかった。
そしていつだって俺は正しいし、いつだってこの世界は狂っているんだな。




