Under Your Skin_7
「キャーーーー!!!! やだーーーー!!!!
どこ触ってんのよ放してよもーーーー!!!!」
ウタさんが執務室を出て行ってから数十分。
俺はその間タバコ臭いソファに仰向けに寝転がって天井を見つめていた。
憂鬱だ――この恐ろしく静かな部屋で気になるのはファラの安否ばかり……。
ー チーさん、これがファラの右足です。 ー
ー このバカタレ! それは右腕だろう! ー
ー え? こんなに太いのに? ー
脳裏に浮かに上がる映像――必死にファラのパーツを集めたものの生き返る事は無く、言い逃れの出来ない状況でチーさんにしつこく罵倒されるなど――そんなネガティブな想像が頭を支配していた時だった。
「――ぁいったぁっ!!」
勢いよく押し開けられるように扉が乱暴に開き、ドサッと音を立ててウシのようなシルエットのなにかが室内に放り込まれた。
「ファラ!!」
「え? しー君!?」
そしてそれがファラだった。
「うわぁぁあああぁぁん!! ファラァッ!! 無事で!! よかったぁぁああはぁぁはああぁん!!」
「アタジモーーーー! もうしー君死んじゃったかとおもてぇ~~~~!!」
「おんどりゃぁ! やかましわぁ!! ったくーーーー!!!」
俺は夢のような光景に涙を流し、生き別れの兄妹との再会の様に膝をついたまま抱き合った。
そしていつからそこにいたのか、そんな様子を見ていたタさんがタバコの煙をくゆらせながら大声で唾を飛ばしてキレると、ぶっきらぼうに執務室の扉を閉めた。
「たくっ! このバカタレが~!!」
あいやー、うじゃけた顔してどしたのー?
舌打ちをしてソファに身を投げる様にドカッと座る様子から、かなりストレスが溜まっているのが解るが、とりあえず輪になって踊っとく?
「なんで私がこんなことせにゃならんのだっ。 あのバカタレが~! 余計な事しやがってからにぃ~!!」
足を組み眉間に皺を寄せ、先ほどからぶつくさと文句を言っている。
きっと無能な部下の尻ぬぐいや日々の仕事があまりに忙しく、自分の時間や心の余裕が無いのだろうね。
そりゃうじゃけた顔にもなるわ。
「んで! お前らいつ帰るんだ?」
「え――」
ウジャさんにそう言われて、俺は不意に先ほど頭の横をかすめたぶっといボウガンの矢を思い出す。
フラッシュバック――あぁリメンバー……。あれがもし、頭に刺さっていたら、俺は――
「はっ! はっ! はっ!」
「あ? な、なんだ?」
「しー君……。大丈夫?」
突然心拍数が上がると共に過呼吸になり、全身に震えが走る。
あ! あ! なんか! ヤバい!
ヤバいこれは――ちょっとしたパニック症状かもしれない!
俺は声も出せずにその場にみっともなく蹲ってしまい、それを見たウタさんが大きくため息をついたのが解った。
「まぁ……責任の一端は管理者である私にもあるからな……。
お前らダバで来たんだろ。そこまでは護衛してやる。
ファラ、シーヴが落ち着いたら声を掛けてくれ。
私はそれまで溜まった書類を片付ける事にするよ……。」
その後俺のパニック症状が治まるまで、ウタさんはウジャったそうに頭を抱えていた。




