Under Your Skin_4
「どこ行きやがったあの変態カス1000万野郎!!」
「ぜぇ……。はぁ……。ち、ちきしょうっ!」
荒れ狂う亡者の軍勢から命からがら必死に逃げ続けた俺は、気が付くと観光区まで来ていた。
ヒトゴミの中、体力はとうに限界だというのに、追っ手はすぐそこまで迫っている――
「あふぅん。これまでか――」
そう思った時だった。
「シーヴさん、こっちっす。」
「え?」
突然聞き覚えのある声に呼び止められ、見ればコロさんがコロッケ屋「ハルジオン」から身を乗り出して俺の方に手招きしているのが見えた。
藁にもすがる思いだった――そんな俺が減量中のボクサーの様に死力を振り絞ってコロさんの方へ歩み寄ると、思い切り腕を引かれて屋台の中に引きずり込まれた。
そしてその直後――
「ちぃ! どこ行きやがった俺の1000万!!」
「くそ! 逃げ足の早い俺の1000万だぜ!!」
「野郎、バラバラにして臓器や目玉は別に売ろうと思ってたが、こりゃ一筋縄じゃ行かねぇかもな。」
ヒィ~~~…もうやめてよぉ~……。
俺に1000万の価値なんてないよぉ~~~~……。
「シーヴさん、静かに……。」
「……。」
生きた心地がしない――見つかればあの恐ろしくデカいボウガンで頭を撃ち抜かれて惨殺される……。
地獄のかくれんぼだ……。
この時間が永遠の様に感じる……。
そうして荒くなった呼吸を堪えながら屋台に身を潜めていると、目の血走った亡者の群れは身の丈ほどのボウガンを担いでどこか別の場所へ1000万の行方を捜して離れて行った。
「……。」
「……ふぅ。」
コロさんがため息をつくと同時に笑顔になり、どうやら俺は助かったのだと解った。
ホッと一息、一気に緊張がほぐれてヘロヘロなのらぁ……。
それにしても――
「危ないとこっしたね。」
「あ……ありがとうございます……。」
いやほんとに……。
コロさんに助けてもらえなかったらマジでヤバかったわ……。
生死問わずって――法律がないからってスチャラカポコタン過激過ぎだろ……。
最後の奴とかいよいよ俺の事バラバラにしてパーツごとに売り捌こうとしてたしな。
いつからか修羅の星だったか、ここはよ。
「昨日あの張り紙見た時、コイツはやべーなって思ったんすよ。」
俺がそんな事を考えていると、コロさんがははっと小さく笑った。が――
「え。」
あの張り紙を見た。
やべーなと思った。
「……。」
それはつまり――俺に掛けられた懸賞金の事も知ってるって事だ。
「いや、ほんとすんません。」
おま、何故、謝る。
「えーっと……。コロ、さん……?」
なにやら含みのある笑顔で、俺の目をジッと見ている。
まさか……。このヒト、俺の事を――
「あ、そーだ。」
「え。」
疑惑まみれのコロさんは突然台の上の紙袋に手に取ると、その中から何かを取り出した。
まさか――ナイフかぃな!!!
「はっ! はっ! はっ!」
ち……ちくしょ!! 過呼吸で動けねぇのら!!
「て、あれ――」
「――どしたんすか?」
刺されるより前にパニックでショック死する――けどまぁその方が良いか、痛いの、嫌だし――そう思った瞬間、甘く香ばしい香りがふいに鼻を撫でた。
体のどこにも痛みはなく、また決してパニックでみっともなく失禁するもなく、コロさんの不思議がる声だけが耳元で静かに聞こえた。
そしてその手には――
「コレ、あげるっすよ。」
「イナフ……。」
否――コロッケが、差し出されていた。はて――
「廃棄予定の売れ残りっすけどね、すんません。」
「……。あぁ……。ありがとう。」
俺が恐る恐るそれを受け取ると、コロさんはただニコッと笑っただけだった。
他意は、ない――ようだが……。唐突にコロッケ……。
まさか毒とか入ってないよな……。
いやいや、失礼だろ――まったく。
ファラとはぐれて一人、巨大なボウガンで頭を撃ち抜かれる恐怖から逃げ続けた俺はどうやら人間不信に陥っていたらしい。
正直食欲など無いのだが、気を紛らわす為に受け取った疑惑コロッケを口にした。
サクッ
うが、クッソ不味い……。
毒じゃないがこの味は……。
寄りにも寄って疑惑まみれのハチミツ味噌チーズだった。
「イ、イナフ……。」
ハチミツ味噌チーズって実際は多分美味しいと思う。




