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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 終章 ノー スリープ フォー ルーシィ
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Firefly_1

「気楽なものか。子供だって辛いんだ――って、そう言っていました。」


「そうか……。子供だって、辛いんだ――か。」


 その夜、俺はルギィさんとコールドプレイに再び訪れた。

時刻は18時――俺とルギィさん、アルコさんで円卓を囲んでお酒を飲んで、今はあの日のシーヴ君の話をしていたところだ。


「未だになんで彼があんなに悔しそうに涙を流したのか、僕には解りませんけど。

 あの涙は――彼にはなにか、計り知れない程の辛い過去があるように思うんです。」


「うん、彼はワシの時もそうだったよ。

 フレン君の話をしているのに、なにかもっと個人的な想いビトがいるような、そんな感じだった。」

 

「そもそもリンネってやつは業苦を持たないにしたって、良い死に方してないって言うじゃないか。

 それに業苦ではなく、奇跡を持ってここへ来た。

 それって大切な誰かへの相当な強い想いがあるって事なんじゃないのかい?」


 彼の想いを伝える奇跡――それのお陰で俺は再びこの地へ足を運ぶことができた。

けれど、彼がなぜそこまで俺を助けることに拘ったのか、俺にはやっぱりそれが解らなかった。

あの時彼が流した涙――あれは本物だった。

本当の苦しみを味わった者にしか流せない、本物の涙だった。

それを何故、記憶も持たず、この世界に来てほんの数カ月の彼が、それを――


「奇跡ってあれだろ? 神の祝福だとかなんとかって、よく言われてるけどさ。

 結局のところ、業苦を持って生まれてくるヤツと、思いの丈ってのは同じなんじゃないのか?

 それを前世でヒトにどう向けて死んで行ったかって、ただそれだけの話だと俺は思うが。」


 片肘をついたアルコさんがグッとオルフェンズを瓶ごと口へ運んだ。

もう結構飲んでるが、顔色一つ変わらない。

相変わらず酒には強いヒトだ、関心はしないが。


「そうだなぁ。未練、という意味ではそうなのかもしれないね。

 とすると、彼もそれなりに辛い想いを抱えて、想い半ばでここに来たのかもなぁ。」


 ルギィさんはグラスに注がれたエブリデイライフを静かに飲んでいる。

想い半ばで――業苦と奇跡は表裏一体だと、どこかで聞いたことがある。

彼のあの涙も、もしかするとその強い未練から来たものだったのだろうか。

しかしまぁ、俺達がどれだけ思考を巡らせようと、解る術などどこにもないが。


「あ……。」


 ふと窓の外を見ると白光虫が飛んでいた。

昨日ここに帰って来て、久しぶりに見たこの不思議な光る虫たち。

たしか白光虫も、浮かばれなかった想いや未練が、姿を変えて彷徨い続けているのだと言われていたな。


「そろそろかな……。」


そういうとルギィさんは、酒でほぐれた顔で俺の方を見てニコッと笑った。


「フレン君、突然だが、今から一緒に『セオリー オブ ア デッドマン』に行こう。」


「え……。」


 それは本当に突然の提案だったので、俺はまた酔った時のいつもの冗談かと思った。

セオリー オブ ア デッドマン――それはこのケズマラディークに昔からある霊園。

そこにはルギィさんの奥さんのサラさんや、そしてシゴールさんの……。

お父さんの……お墓も――


「はは……。今から――ですか。」


「あぁ。今からだ。」


 どうやら冗談ではないらしい、ルギィさんは俺の目を真っ直ぐ見据えて微笑んではいるものの、決して笑って誤魔化すような雰囲気ではなかった。

こんな時間に――何を考えてる。

正直、あまり気が進まない……。


「こんな時間に行っても……。開いてないでしょう。」


そんなに急がずとも――


「あそこは年中開けっぱだぞ~。

 墓荒らしなんていやしないし、見ての通り白光どもで明るくなったからな~。」


明日でも良いじゃないか――


「そう、ですか……。」


まだ、心の準備が……。

 

「けどルギィさんお酒も入っていますし、暗い夜道で転ぶと危ないですよ。」


「フレン君、今夜、行く事に価値があるんだ。」


「そうそう、夜にあそこに行くと亡霊が出るんだ。面白いぞ? フレン君も行ってみると良い。」


 酔っているのかいないのか――悪戯に笑みを浮かべながらアルコさんはさらに酒をあおる。

亡霊なんて、また冗談を言いながら他人事のように笑っていた。

今夜、行く価値――今夜でなければならない理由なんて、別に俺には――


「兄さんが、キミを待ってる。」


「……。」


お父さん、か……。


「その為に、ここに来たんだろう。」


「……。」


 俺は――確かに、その為にここに来た。

そのために、来たんだ。

大災害の後、一言も言葉を交わさず、顔すら合わせないままに呆気なく最期を迎えた、シゴールさん。

そのお父さんに――挨拶を、しに来た、けど……。


 亡霊――か……。

別に信じちゃいないが……。

返答に困りアルコさんの方を見るが、どういうつもりか、二ッと怪しく口角を上げるだけであった。


「――わかりました。」


こんな時間に、墓参りなんて、正気じゃない――


「はぁ……。」


 思わずため息が漏れた。

それこそ罰が当たりそうだ……。


「その前に、一服だけ、良いですか。」


「あぁ、もちろん。」


俺は静かに酒をあおる2人を前に、震える手で、タバコに火をつけた。


「ふぅ……。」



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