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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 終章 ノー スリープ フォー ルーシィ
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Daddy_3

「ここ、か……。」


 18時、俺はラナンさんから聞いた現コールドプレイの店の場所に来ていた。

村はずれの川沿いにポツンとあるその店は、失礼ながらヒトの出入りなどほとんどなさそうに見える。

もうルギィさんは着ているのだろうか……。

そんな事を想いながら、店の扉の前に立ち尽くしていた。

なにしろ俺に一人で先に入る勇気はなかった。


「アルコさんか……。」


 まだケズトロフィスにこの店があった頃、時々お父さんに誘われて店を訪れた。

大概はお説教を聞かされて、お父さんのお酒に付き合っていた様なものだったから、正直いい思い出はほとんどない。

アルコさんはそれを見て、エスカレートしそうな時は割って入ってくれていた。

あまり話す機会はなかったが、あの頃の俺にとっては心を許せるお兄さん的な存在だった。


 けれど――それももう20年以上も前の話だ……。

当時アルコさんには大勢の親友がいて、お店に顔を出すとよく一緒にバカ騒ぎをしているのを見かけた。

その親友らも、あの災害で亡くなったというし、ボーラの話ではアルコさんは確かその頃酒浸りになって、日がな一日フラフラと、何をするでもなくケズトロフィスの跡地を彷徨っていたと聞いていたが――


ガチャ……。


「遅いなぁ。」


「……え。」


「おぉ! 来た来た! なにしてるんだ早く入れ!」


 俺がそうして店の入り口で立ち往生していると、来るのが遅いと心配したルギィさんが店の中から顔をのぞかせた。

早速俺は強引に腕を引かれ、気持ちの整理もあやふやなまま、明るい店内へ引きずり込まれてしまった。

明るい店内に、お客はいない。

ルギィさんと俺、そして――


「あ……。」


「よぅ、いらっしゃ~い。」


「アルコ、さん……。」


「久しぶり~。」


 そう言って俺の目を見て怪しく笑った。

随分と、印象が変わったけど、その怪しげな笑顔はあの頃のままだ。

それが懐かしくもあり、僅かに後ろめたくもあった。


「ほらほら、ボーっとしてないでさっさと席に着きなさい。マスター、エブリデイライフ!」


「はいよ。」


 ルギィさんが席に着き景気よくお酒を注文する。

俺は黙ってルギィさんに従い、円卓の椅子に、向かい合わない形で座った。 


「いつも、こんなにお客さんが少ないんですか?」


「ん? あぁ、ワシらのいるこの時間帯はとっくに営業時間外だ。」


「え、そうですか。」


「17時で終わり。こんな時間に店を開けてても誰も来ないからなぁ。」


いや、それをルギィさんが言うのは失礼な気がするが。


「はっはっはっ。来るのはこの地に縛られた亡霊くらいなもんだよ。」


「なるほど……。」  


 アルコさん、全然怒らないんだな……。

冗談を言って笑いながら、アルコさんがお盆にお酒を乗せてこちらに来る。

なんだか嬉しそうだ。


「はい、エブリデイライフね。」 


「ありがとうっ。」


「俺も、今日は飲むぞ~~~。」


 そう言ってウォッカの瓶を嬉しそうに掲げた。

オルフェンズ――そうラベルに書かれたそれは、昔からアルコさんの好きだったお酒だ。


「フレン君、キミにはこれを――」


 そして次には俺の前にお酒の入ったグラスが差し出される。

けど――


「いや、僕は、お酒は……。」


 こうなるとは解ってはいたが、初めから飲むつもりはなった。

ずっと酒に逃げていた俺は、これに少なからず抵抗があったからだ。

ただ飲んで、ただあの部屋でジッとしていた虚無を、思い出してしまう。

それが後ろめたく、気分が落ち着かない……。


「いいからいいから、折角帰って来たんだ。飲んでやってくれよ。」


 飲んでやってくれ――か。

簡単に言う……。

あぁ、いやだ……。


 ー いいか、説教だと思うな。そういうつもりで俺は話してないからな。 ー


 ふとあの頃隣にいたお父さんの顔を思い出してしまった。

眉を吊り上げ、酒を掻き込んでは、俺に言い聞かせるようにゆっくりと俺の隣で喋っていた。


「いいか、一家の大黒柱っていうのは絶対に倒れちゃいけないんだ。

 お前が倒れたら、もうその家は終わりなんだ。

 どんなに辛くても、どんなに苦しくても、弱音を吐こうとも、絶対に泣くな。

 なにがなんでも、守り抜け。お前がしっかりしなければ、俺達には何もできない。」


 ここに来て、嫌なこと――思い出してしまう。

あの頃、一番つらかった時期の事……。

俺は――


「ふぅ……。」


とことん酒には良い思い出が無い――

 

「それじゃぁ、かんぱい!」


俺が渋々それに手を添えると、ルギィさんが陽気にグラスを掲げた。


 ー かんぱ~~いっ!!! ー


「かんぱい……。」


俺の気など知りもしない陽気な2人の間で、俺は静かにそのお酒を口に運んだ。


「……。」


この味――


「あ……。」


なんで――


「おかえり。」


 俺が飲んだのは、ジュースだった……。

それも、子供向けの……。

アルコさん……。


「これ……。」


「うん、懐かしいだろ。」

 

「ははは。フレン君は昔から嫌いだったよね、その味。」


けど……。ルゥが――好きだったヤツだ……。


「一応、お酒も入ってるけどね。キミが帰って来るって聞いて、慌てて用意したんだよ。

 名付けて『ダディ』――キミの為に生まれて来たお酒だ。今なら、飲めるだろ。」

 

「……。」


 飲め……。ない……。

こんな甘いやつ、飲めるわけ……。

ルゥ――なんで、こんな、優しい……。味……。

こんな味……。だったんだ……。


ー お父さん!! ー


…………。


「ルゥ……。」




あぁ、そうか……。




思い出した……。




 エルザの誕生日――みんなと居る時に、お父さんと大喧嘩して……。

俺はまた家族を放ったらかして仕事に行こうとした。

あの時、ルゥは泣きながら。

今までに無い程、大声で泣きながら――


「いってらっしゃい!!」


そう、言ったんだ――


「……。ぁ……。」


「おかえり、ダディ。」




俺は――なんでこんな――大事な事すら――




涙が――止まらない――




「た…………ただ……い……。……ただいま……。」




窓の外には白光虫が少しずつ飛び始めていた。

 



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