Everglow_1
手の中のオルゴール――その小さなゼンマイを巻くと、飽きるほど聴いたあの優しい音色が流れる
ベッドの上に横たわり、目を閉じる
願わくば、このまま永久に眠りたい
そして、あの夢に――
僕はその愛おしい夢の中で家族といた
最愛の妻、そして最愛の娘と
どこまでも澄んだ青い空、ポカポカと温かく優しい太陽、透き通った美しい海、穏やかで安らかな波の音、海鳥の声――
ここには僕ら家族以外、誰もいない
僕たちだけの、永遠の楽園
とても穏やかで温かい砂浜、そこで心地よい潮風に撫でられながら、優しくて、穏やかで、そのまま柔らかい砂に沈んで消えてしまいそうだった
夢見心地、眠りの縁、そこで何も知らない無垢な娘の安らかな寝顔を見ながら、その隣に寝転がっていた
遠くで妻が、波と砂の隙間を軽やかに歩くのが見える
僕らに気が付くと、嬉しそうに手を振って、僕を呼んでいた
そんなところで寝ていないで、アナタもこっちにきて――
そう言っているようだった
人生最高の温もりに包まれて、僕はただ光の中に溶けるように眠る
僕がずぅーっと、欲しかった、永遠の景色がそこにあった
こんな暖かい日々がいつまでも続くんだって、夢の中で思った
あぁ、今思い出しても本当にきもちがいい
あぁ…………
あぁ……
……
けれど気が付くと、低く暗い天井、息苦しい狭い部屋、全身に汗をかいていて呼吸が苦しい――身体が、鉛の様に重たいんだ
目が覚めて、泣いている自分に気づいて、悔しくて、惨めで、また泣いた
「俺は――俺は――」
何度だってあの悪夢に帰りたい
こんな糞みたいな暗い部屋で、涙を流してる自分が嫌だ
永遠に続いていく、こんな糞以下の不毛な現実が嫌だ
目が覚めるたび、気が狂いそうだ
お願いだ、一生のお願いだ
俺の全てを捧げられる
あの浜辺へ――どうしたら帰れるのかな
「おしえてくれ――」
これがもし夢なら、今すぐ覚ましてくれ
あの日々に、あの砂浜に、あの温もりに、楽園に、俺を帰してくれ
どうして俺だけ――俺だけが、こんな目に遭うんだろうか
あの時、もしみんなと一緒に死ねていたら、俺はもう――何も背負わずに済んだのに
ただ……。ただ。ただ、ただそれが、ただそれが悔しい――
俺が何をした……。なんで俺だけが、こんな苦しい想いをして生きていなきゃいけない
もう俺に構うな……
一人残らず……
何もかも……消えてしまえばいい――
………
ゆっくりと落ちていくオルゴールの音色と共に、僕は――再びこの白い部屋に戻ってくる
もう――二度と戻れないのなら
もう終わりでいいんじゃないかな
「――シーヴちゃん、おかえりなさい。」
…………




