Theory Of A Deadman_6
「げほっ! げほっ……。うぅ……。」
めちゃんこ、風邪引いたでござ……。
「しー君大丈夫?」
「ぉ~…う……。」
あのあと昼食をルギィさんと済ませ、俺達はそこでお別れをして日暮れにはケズバロンに戻ったのだが……。
やはり昨日浜辺で倒れたのが効いたらしい、俺は帰路の途中で急に高熱を出して動けなくなり、今はファラに看取られながら宿のベッドに横たわっていた。
もしかしたら、ようやく見慣れた景色に戻って来れて気が抜けたのもあるのかな。
はぁ、ついてねぇ……。
外では相変わらず盛大に花火が上がっているのだが、いまはソレが体に響いて、正直辛い――
「うっ…頭…痛……。」
「んー。顔赤いねぇ。」
まさか、このまま死なねぇよなぁ、俺。
そうして天井を見つめてボーっとしていると、ファラが俺のおでこにそっと手を当てた。
おふ、なんかヒンヤリしとって気持ちえぇ――
「うわっ、おでこ熱っ!」
大げさな……。
まるで火傷したみたいにわざとらしく手を振って笑うファラに、内心イラっとした。
コイツは俺が弱っているこんな時でもギャーギャー五月蠅いのだ。
「ここで目玉やき焼けそうねっ! ジュ~~~っ!! って、あっははっ!」
「はははー。」
面白くねぇよアホ、病人で遊ぶんじゃねぇ。
――あう、なんか笑ったら眩暈がしてきたぞ、ストレスかな……。
「ふぅ……。」
「ねぇほんとに大丈夫? 汗凄いし、なんか死にそうな顔してるよ?」
あぁ、死ぬかもなぁ。
「――すまん、水と薬、取ってくれ。荷物に入ってるから。」
「えっ、お薬……?」
あ? んだその顔……。
ファラが突然きょどり始めたが、こういう反応の時は、あれだ。
「おい、おまえまさか。」
「ひゅ~ひゅ~。」
「はぁ……。」
食うなってのによ薬を。
てかなんで逆にそれで無事なんだよお前は。
ファラは俺の唖然とした表情から目を逸らすと、腕を頭の後ろで組んでわざとらしく口笛を吹き始めた。
いつもならとっくにひっぱたいてる所だが、今はそんな余裕もない――
「いつ俺の荷物漁ったんだ? まさか昨日の夜俺が寝てる間とかか?」
「き、記憶に、ございませんっ。」
「あっそ。」
仕舞にはワタワタと目を泳がせて冗談交じりに誤魔化そうとする。
そろそろナタを求めて街の武器屋を一軒一軒しらみ潰しに回っているところだが、悪いが今はお前と押し問答する元気もねぇっぺが。
「もういい、外で薬買ってきて――って、そんな時間でもないのか。あぁ、うぅ……。」
「あ、あしたっ! 明日の朝一番でアタシ買ってくるよっ!」
「うぅ、ゲホッ……。」
「もう……。しー君ほんとヤワよね。アタシ生まれてこの方、風邪なんて引いたことないけど。」
「は? まじで?」
「うんっ!」
ファラはなにやら得意気に頷いたが、もしかして虫とか食ってると色々とヤバめの免疫とかつくのかな。
あぁ、まぁバカは風邪引かないっていうしな、それが一番しっくりくるわ。
「たまに頭痛くてちょっと体だるくて、なんか食欲ない日もあるけど、精々そんなもんねっ。」
あいやー、それは風邪だわ。
つまりコイツは、馬鹿すぎて風邪引いてることに気付いてないだけだってことか。
あーぁ、このバカと話してたらなんか具合悪くなってきたぞ。
「あっそ。すまん、もう寝たいから、灯り消してくれないか……。」
「え? うん。」
バチーーーーーーン!!
プツン……。
あ~も~………。
いやまぁ村に居た頃からずっと思ってはいたが――あの頃はまだ言える立場じゃなかったからなぁ。
いやなに、確かに部屋の灯りは消えたよ?――けどファラが無言で何の慈悲もなくスレイヴスコロニーを思い切りぶん殴ったもんで、こんな状態ではあるが俺は流石に見過ごせなかったんさ。
「お前それさぁ――笑顔でそれ殴るのやめろよ……。中に妖精いるんだろ? 可哀想じゃねーか……。」
「え? でもお爺ちゃんが『こうした方が点きが良い』って言ってたよ?」
「それはあのジジイの心がドロドロに汚れてるからだろ! そんなに強く叩かなくても点くっぺが!」
「――ぺが? んー、そうなのかなぁ?」
「ほれ! ちょっと貸してみんしゃいっ!」
僅かに興奮状態になった俺は重たい体を起こし、暗くなった部屋でファラにスレイヴスコロニーを取ってもらい、それを受け取って軽く叩いてみせた。
コンコン……
パッ!!!
「な!?」
「えーーーー! しー君すごー! めっちゃ心キレイじゃんっ!」
「いやお前も多分つくぞ。」
よっぽど性格ブスでない限り普通につくっての。
コイツはバカだけど性格は別に悪くないからな。
しかしファラこの「うわぁ~!」という社交辞令的なわざとらしい反応、感心されてるのかバカにされてるのか解らんが、なんか癪に障るな。
うぅ、興奮したせいか頭がガンガンする……。
「はっ――はぁっ……。」
「ん? はぁ?」
「ぶわっくしょんがぁあ!」
「ぅわ! ちょっとぉ~~~っ! 顔に鼻水掛けないでよ汚いなぁ~~~!!」
「うぅ……。ずまぬ……。ずびぃ~。」
ふぃ~、けどなんかスカッすんな~。
決してわざとではないのだが、俺はファラの顔目掛けて思い切りくしゃみをしてしまったらしい。
そして俺の鼻水をもろに食らったファラが「ふえ~!!」と目をバッテンにして慌てているのを見るのはそんなに悪くない。
「んもう~……。くしゃみくらい向こう向いてしてよぉ~……。」
ファラはブツブツと文句を言いながら椅子に掛けてあったタオルで顔を拭い――
「は――」
おほ……。来た来た来た――どれ…もう一丁……
決してわざとじゃないが――
「はぁっくしょん!!!!」
「んびゃぁあああ!!!」
へっへっへっ……。日頃の恨みぃ……。
サイ&コ~~~~ウ……。
決してわざとじゃないけどね。
しかしまったく、なんだってこんな時に風邪なんか……。
「ふぅ、さい先わりーやぁ……。」
ようやく後半戦スタートだ。




