奇跡/ドナドナの刑
2024/02/26_改稿済み。
翌朝。
寝室の扉の向こうから、ジュワジュワと、油で何かを炒めるような景気のよい音と、コンコンと鍋を振るう軽快な音が微かに聞こえてきて、俺の意識は闇の底から安らかに目を覚ました。
「もう、朝か。」
窓から吹き込む風は活気づいた祭りのあとのように寂しくも穏やかで、天井のスレイブスコロニーは揺れるたび祭りの終わりを歌うようで。
カーテンが踊る様にヒラリと舞うと、麗らかな陽光が寝室の茶色い床を、眼下の夜景を思わせる金色へと塗り替える。
日差しの束で出来上がった空中の暖かな一本道には、白んだ埃が雲のようにふわふわと気持ちよさそうに漂っている。
チュンチュンと、風に乗る鳥のさえずりは、新しい朝を迎えた喜びを歌にのせて讃えているかのようだ。
瞬きの度に思考と視界がクリアになってきて、まるで潜っていた水の中から頭を出したみたいな爽快な気分だった。
隣にファラさんはいなかった。
俺が眠りに落ちる間際からファラさんを見かけていないことから、彼女が俺よりも遅く寝て、そして俺よりも早く起きて、今はキッチンで朝食の用意をしていることが予想できる。
「なんだかよく解んないけど、気持ちが楽になったな。」
どっかに持って行かれまったみたいに――。
昨晩、いつの間にか眠ってしまった俺は、慈悲深い誰かに守られていたような、聖母マリアにでも抱擁されたかのような、暖かく優しい夢を見ていた。
内容は感覚でしか覚えていないが、夢の中で俺は、寒さに凍えていた気がする。
しゃがみ込み、身を震わせて呻く俺の頭を、隣にいた女性が優しく何度も撫でると、やがて震えは治まっていて、寒さも感じなくなっていた。
十分に温まったところで、俺の意識はストンと、深い眠りに落ちてしまった。
「夢……なのか……?」
夢とは思えない、撫でるような優しい感触が、未だ脳裏に”触感”として宿っている。
もしアレが夢でなかったとしたら、もしや悪夢にうなされていた俺の頭をファラさんがなでなでしてくれていたのではないかと思い、なんだか寝ている間に初心を悟られたようで急に恥ずかしくなった。
「まぁ、たぶん夢だろ……。」
寝間着の延長線のようにラフな茶色の長ズボンと、筆記体で白く「真・黒豚野郎」と背面に書かれた黒の半袖に着替えて、寝室から出ると、いつもと同じように並べられていく食卓が見えた。
「おはようございます。」
「おはよう、真・黒豚野郎。」
「あ? オメーこの意味しってやがったな?」
料理の向こう側に腰掛けたチーさんに俺が挨拶をすると、チーさんは料理の隙間から子供みたいに顔を出して、茶を啜ったようなダンディな声で俺を道化に仕立ててくる。
キッチンでフライパンを夢中に振るっていた真剣な表情のファラさんは、俺に気が付くと温和に微笑んで、またも陽気に”ハァイ”と右手を小さく振って応えてくれた。
風呂場で顔を洗っているとき、昨晩見つけた心臓の辺りにある★の事がふと気になり出し、もしやアレもただの夢ではなかっただろうかと確かめた。
真・黒豚野郎Tシャツを脱ぐと、スリムな俺の白い肌が露わとなる。
そして、やはり心臓の辺りに、あの奇妙な痣が確認できた。
「やっぱ、あるんだよな……。昨日の事も気になるし、やっぱりチーさんに色々聞こう。」
真・黒豚野郎Tシャツを着て食卓に戻ると、既にファラさんも席についた後だった。
待たせてしまったことを謝罪して、席について食卓を見渡す。
「おいしそう……。」
シュウマイみたいな形の唐揚げ(揚げ餃子)に、豆と白身魚の入った赤いスープ(ミネストローネ)。
謎肉の分厚いソテー(ビーフステーキ)。
乳製品を良く絡めたベーコンと葉野菜のスパゲッティ(カルボナーラ)。
新鮮な葉野菜と細切りになった根菜のサラダ(レタスとゴボウのサラダ)。
「だけど……。」
そしてこれは、今のところ毎朝必ず思うのだが、俺の知る朝食のラインナップじゃないんだよなぁ。
俺は心の中で三日三晩のフルコースにいい加減疲れつつも、ファラさん自身で作り上げた”私の考えたお城”という名の欲望の塊を、ドヤ顔で腕を組んで満足そうに眺めているファラさんを前にすると、なんだか本音を口にすることは躊躇らわれた。
「俺の事なんか気にしないで、先に食べててくれて大丈夫なのに。」
待たせて申し訳ないと思った極まりの悪い俺の言葉に、二人は同時に首を横に振るだけだった。
チーさんは趣深くゆっくりと、ファラさんはどこか嬉しそうに。
「昨日はファラのおかげでよく眠れたようだね。」
チーさんが俺の顔を見て、どこか意地の悪そうな笑顔になった。
野太く意味深な言葉の響きに、俺の脳裏で完全に外れていた一本の回路が、ビタッと連結部にハマる。
それと同時に、物凄い圧の電流が俺の全身を一瞬で駆け巡った。
「そんな、まさかアレは、夢じゃない……。」
あまりの衝撃に俺が俯きがちに頭を抱えると、チーさんは小馬鹿にするようにいやらしい笑顔を浮かべ、昨晩の出来事をチーさんに報告したであろうファラさんはクスクスと笑う。
「なでなでは、夢じゃあないだろうな。」
「な、なでなで!! グハッ……!」
俺は、寝ている間に女性から頭を撫でられていた恥ずかしさと、それでもファラさんになでなでされてしまったという喜びに板挟みにされて深い傷を負った。
「それじゃ、リンネ君も揃ったことだし、いただきます。」
チーさんが仏のように両手を合わせて丁寧にお辞儀をすると、何故だかファラさんも仏のように手を合わせて、南無……と、いつになく真剣な面持ちで静かにお辞儀をした。
ので、俺もそれに倣うことにした。
「い、いただきます……。」
――今日の朝食は、少し重たいぞ。
***
「ふむ、家族らしき三人と、食卓を囲っていた、か……。」
「はい。なんだかアレがただの夢とは思えなくて。あっちも現実に思えるような、こっちが空虚に変わるような、とにかく複雑な気分になる変な夢でしたね。」
「んー、夢か……。ちと、それだけだとなんとも言えんなぁ。」
「はぁ、ですよね。」
食事の最中、昨日の食事中に見た夢の事を話したが、聞いていて悩まし気に唸るチーさんは、思い当たる節がありそうな口ぶりをしながらも、特に具体的な回答を示してはくれなかった。
記憶喪失者ならではの幻覚症状とかかと思われたが、別にそういう前例があるわけではなさそうだ。
とするならば、本当にただの気のせいという事も十分にあり得る。
「それと、もういっこ気になることがあるんですけど、なんか俺、胸の左側に星形の黒い痣みたいなのがあるんですけど、これって何かの病気のサインですか?」
「左胸に、星形の……。お前さん、ちとその痣を見せてくれ。」
「え、今ですか……?」
「安心しろ、誰もお前の裸に興味はない。」
「そーゆー問題なのか?」
「この星ではな。」
「それ絶対に”お前の中では”だろ。」
食事中という事もありチーさんの指示に同意しかねた俺は、申し訳程度にファラさんの方をちらっと見た。
ファラさんは俺の方には目もくれず、口いっぱいにごはんをもぐもぐ頬張りながら、山盛りのカルボナーラをフォークでぐるぐると大きく巻き取り、さながら巨大なチュッパチャップスみたいになったフォークの先端の球を、既に満タンな口の中に押し込んでいた。
もうこれ以上は入らないだろうと思われた頬袋はパンパンに隆起するも、依然としてファラさんは涼しい顔をしている。
更に山盛りのカルボナーラをフォークでぐるぐると大きく巻き取り、さながら巨大なチュッパチャップスみたいになったフォークの先端の球を、既に満タンな口の中に押し込む。
もうこれ以上は入らないだろうと思われた頬袋はパンパンに隆起するも、依然としてファラさんは涼しい顔をしている。
どうやら無限ループに差し掛かっているらしく、本当に俺の裸に興味がないらしい。
というか、どうやら食うことと俺の鼻からカレーが流れたこと以外には全く関心がないらしい。
「ち、解ったよ、脱ぐよ。」
少しくらい恥じらいという可愛らしい反応をファラさんに期待した寂しがりやな俺だったが、諦めて半ば不貞腐れ気味に、真・黒豚野郎のTシャツを脱いだ。
「ふむ……。」
真・黒豚を下からまくり上げると、チーさんは食卓の向こう側から身を乗り出し、俺の心臓の辺りに目を凝らした。
やがて、どこか不穏な表情で眼を見開いて顎の髭をゆっくりとさすり始めたのを見て、俺は不安になった。
「やっぱ、まずいんすかね、これ……。」
「いや、心配せずとも、これは病気ではない。しかし驚いたな。」
「何がですか?」
チーさんは、ふぅっと、ため息交じりに座り直し、背もたれに寄りかかった。
「どうやらリンネ君は”奇跡”を授かっているようだね。」
「え、なんです? キセキ……?」
「リンネの中には”業苦”を背負って生まれてくる者がいる、と言ったろう。その逆でな、この世界に祝福された者は”奇跡”を授かって生まれてくる。」
「はぁ、奇跡ですか。よくわかりませんが。」
この世界に歓迎されたリンネが、生まれつき授かる能力――奇跡。
チーさんの話では、強い想いとか、やり場のない優しい願いを抱えたまま死んだ者に宿る能力らしい。
怨念や呪いのように、授かった者の枷となる”業苦”とは対照的に、誰かを想う心から芽生えるという”奇跡”には、様々な能力があるらしく、大体はなんかしらの役に立つもののようだ。
んで、俺のはというと――。
「一体、どんな能力なんでしょうか。」
「さぁな、まだ判らん。」
「あ、そう。」
「まぁそれも、いずれ解ってくるだろう。」
チーさんは軽い調子で会話を勝手に締めくくると、再び食事に手を付け始めた。
結局、俺自身の事については何も進展がないままだ。
むしろ解らないことが増えてしまったように思う。
目を開けたままに見る、夢のこと。
左胸の痣と、奇跡という未だ謎の能力。
失われた俺の記憶と、過去。
――そして、俺がここに存在する理由。
「なに、そう落ち込むことは無い。この星で奇跡を授かるという事は、特別な使命を抱えているという事でもある。少なくとも、奇跡を宿した魂というのは、悪いものではないんだよ。」
慰めともとれるチーさんの励ましを素直に受け取ることが出来なかった俺は、返事も頷くこともできず、ただ黙って視線を落とし、項垂れるばかりだった。
そしてやはり、今朝のご飯はいつに無く重かった。
***
時刻は20時……グッドシャーロットでの労働二日目の俺は、ひととおり午前中の清掃作業を終え、これから休憩室でマラク班のみんなとお昼ご飯を食べようというところである。
俺とマーシュさんが休憩室の扉を潜ると、既に休憩室には他のマラク班の人たちと、まだ”営業”から帰らないはずのマラクさんが大人しく席についていて、机に用意された弁当を黙々と食べていた。
「お、マラっさん、お帰り、今日の”営業”は随分と早いね。」
「今日はサクッと終わったわ。収穫ゼロ。」
「そりゃ、ご愁傷さまで。」
マーシュさんは疲れた様子のマラクさんへ軽薄に声を掛けながら、彼の左隣に「どっこらしょーいち」と慣れた様子で腰を下ろした。
「りんねっち。どうだ仕事は? これからやっていけそうか。」
続いてマラクさんは俺の顔を見るなり、パッと右手を軽快に掲げて、昨日今日の仕事の具合を軽く尋ねた。
何故だかその時、ふわりとお花のような良い香りがした。
マラクさんの方からその香りが漂ってきた気がしたが、彼に香水を浴びる趣味があるようには思えなかったので、真相は定かではない。
もしかすると、先ほどまでぐるぐるパァの死神班長たちがここに居て、彼らが昼食を終えた後にここへ入ってきた誰かが、たまらずファブリーズか何かを撒いたのかもしれない。
なかなか筋の良い名推理に、俺は勝手にそう結論付けた。
「マラクさん、お疲れ様です。荷車とかなかなか重いですけど、まぁどうにかやれる気がしますし、慣れれば大丈夫そうですね。」
「そうか、まぁ無理はすんなよ。ぼくもよく解らんが、身体はケーキの”シフォン”らしいからな、うん。」
「え、あ、うっす……。そっすね。」
マラクさんは涼しい顔をして腕を組み、うんうんと何度も頷いたが、意味の分からないことは人前で使う前にちゃんと調べた方がいいと思う。
「要するに”自分の身体はそこそこ甘やかしていこうぜ”ってことだろうと、ぼくは思う、うん。」
てんででたらめだが、脳味噌ガチタンクにしてはなかなか良いことを言ったと、俺は思う。
「てかマラっさん、この後はどっかのヘルプ入るの? もしそうならこっち来てくれよ。りんねっちじゃアホほど使い物にならんくてゲボ吐きそう。」
お前はもっと新人をいたわれや、チビ。
「ん? あぁ、そうそう。それが急なボスのお達しでな、またこれから行かなくちゃなんねぇとこがあるんだよ。んでマーシュ、お前もついでにぼくと来いって話。」
「うへー、ま~たかぁ……。めんどくちゃ~い。」
「別に嫌なら来なくても良いが、問答無用で”ドナドナの刑”だぞ。」
「あー、行くよ行く、こっちもストック切らしてるし。”ドナドナ”は勘弁。」
「ま、また色々教えてやるから、しっかり覚えろよ。」
「うぇ~……死にてー。」
完全に空気と化した立ちっぱの俺をよそに、二人はなにやら愚痴交じりに込み入った話を始めた。
どうやらこの後、マラクさんはボスの指示で再び営業に行かなくてはならないらしく、マーシュさんはそのとばっちりを喰ったようでドンヨリと表情を青ざめさせた。
ところで、ここグッドシャーロットの”ボス”なる人物は、一体どこで何をしているのだろうか。
俺は一度もお目にかかっていないのだが、どうやらここグッドシャーロットに常駐している感じではない。
そして、ボスの事と併せて気になったのが、なにやら不穏で珍妙な”ドナドナの刑”である。
二人のやり取りから、なにか罰のようなものだと考えられるが、いずれにせよわざわざ二人の間に割って入って聞くような空気ではなかった。
その後、俺は二人のやり取りからひっそりと距離を置き、他の班員の方とご飯を食べることにした。
「お疲れ様です、先輩。」
「あ、ブサイェフンェフン……君。おつかれさん。」
裏口から一番近い席でひとり黙々とお弁当を食べていたモブA先輩(印象が薄すぎて名前を忘れた)の隣に俺は腰を下ろした。
俺が挨拶をすると、モブA先輩は俺の顔を見て深層心理で思ったことを反射的に口走りそうになって慌てて咳払いをしたのが露骨に解って、ちょっと嫌いになった。
「リンネ君は、たしか昨日からだったよね。この仕事も結構大変っしょ。」
「はい、けどまぁ、なんだかんだ体を動かすのは意外と好きみたいですね、俺。」
俺はしばし、モブA先輩(印象が薄すぎて名前を聞いても覚えられなかった)とご飯を食べながらのんびりと談笑した。
先輩の印象があまりに淡白で、逆に笑っちゃうほどに名前は覚えられなかったが、話してみれば気さくで面倒見がよく、結構良いモブAの先輩であることが分かる。
特徴は無いけれど、故に癖もない。
ドッカンターボなマーシュさんよりも、俺はこういう人と仕事をした方が、ストレスは少ない気がする。
「あ、先輩、そういえばさっき小耳に挟んだんですけど、ドナドナの刑ってなんなんです?」
「ん、あぁ……。実は俺も日が浅くてね、あんまり詳しくは知らないんだけど。」
俺が気になっていた話題を持ち出すと、モブA先輩はひっそりと声のトーンを落とし、口元に右手で戸を立てて、周りに聞こえないほどの小さな声で用心深く話し始めた。
「噂では、それがこの養豚場で一番重いペナルティと言われていてね。檻に閉じ込められて”ドナドナ便”とかいう謎の黒ずくめの集団によって、どこかへ運ばれていくんだそうだよ。」
「ほう……。ん……?」
「そして、ドナドナされたら二度と帰って来れないって言われているんだ。」
「うん……。ん……?」
「ちなみにね、たまにマラク班長から漂ってくる甘ったるい匂い、あれは、体に纏わりついた死の臭いを誤魔化す為の香水らしいよ。」
「えー……。」
「っま、ただの噂なんだけど。」
モブA先輩はそれ以上語らず、不自然なほど乱暴に話を切り上げると、何食わぬ顔で再び弁当を食べ始めた。
ドナドナの刑なる小話の終わりに、先輩はただの噂だと軽く笑ったが、けれど話をしている間の彼の仕草や声の調子は少しも冗談めいていなかった。
そのことから、どうやら彼は、昔テレビで見た稲川のおっちゃんバリに怪談やホラ話に人を乗せるのが上手なようで、案外人は見かけに依らないもんだと、俺は心の中で彼に不敬を働いてしまったことを反省した。
「おい、りんねっち。」
「あ、はい。」
ふと表口の方から声が聞こえて顔を上げると、既に昼食を終えたらしいマラクさんとマーシュさんが、開いた表口の戸の前で俺の事を呼んでいるのが解った。
マーシュさんとここに来てからまだ数分と経っていない筈なのだが、どうやら二人はさっそくボスの指令で外回りに赴くところらしい。
マラクさんは声の調子こそいつも通りだが、見た目は死神みたいに真っ黒な布を頭から目元までスッポリ被っていて、表情は鼻と口元以外の一切が見えず、まるで別人のように思える。
対して、マーシュさんはいつもと同じグレーのツナギのまま、面倒くさそうに頭の後ろで腕を組んでいる。
「このあとマーシュとぼくは出掛けちゃうから、りんねっちは休憩室の掃除しといてくれ。んでそれが終わったら今日はもう帰って良いぞ。」
「え、あぁ、はい。わかりました。」
「んじゃ、行くぞマーシュ。」
「へいへ~い。」
マラクさんはいつもの軽い調子で笑い、渋々な様子のマーシュさんの前のめりに曲がった背中をパンと、景気よく叩いた。
マーシュさんはケツをぶっ叩かれたみたいに背筋をピンと伸ばして、どこか苛立たし気に返事をしている。
そんな二人を見送って、俺は再びモブA先輩に声をかけた。
「先輩、もっと色々聞かせてくださいよ、ここグッドシャーロットの、七不思議。」
「七つもないよ。それに俺が知ってるのは、ドナドナの話だけ。」
「じゃぁ、ほら、例えばそう……そこの裏口脇の開かずの扉の奥には、実はドナドナされた死体が安置されているとか、そーゆーゾクゾクしちゃうの、作っちゃいましょう。」
「それなんの意味があるの……? てかキミ、もしかしてだけど、俺の名前、もう忘れてる?」
「はっはっは、まっさかぁ~☆」
「じゃぁ俺の名前は?」
「稲川モブA……ですよね?」
「正解。」
「ホッ。」
「んなわけないだろ、殺すぞ。」
「やだなぁ~。怖いなぁ~。おかしいなぁ~。」
「俺お前嫌いだわ……。」
――こうしてモブA先輩との関係に惑星規模の亀裂が入ったその日以降、しかしモブA先輩の姿を見る事は一度も無く、彼の本当の名前を聞く機会も永久に失われてしまった。
ピルバーグ作、キャラクタープロフィール
マラク・デアディビル(表)
46歳
身長 186tm(およそ186㎝)
体重 88tg(およそ88㎏)
利手 右
好きな異性のタイプ
優しくてにこやかなヒトなら、顔とか体型は気にしない。
好きなもの
家具作り、マスク作り、珍獣標本、狩り、雑用
嫌いなもの
キームとターク、仕事
ピルバーグのインタビューと見解
マラク・デアディビル(表)という自称ヒュムの中年男は、常に陽気な仮面をかぶっている。
だがそれが、演じているのか、狂っているのかは、彼自身にも判らないらしい。
趣味の家具作りもマスク作りも、ヒュムの皮を素材に使ったものが9割を占める。
俺が今座っているこの椅子も、実はヒュムの皮で出来ているというのだから、こんなにハラハラすることはなかなかない。
仕事より雑用が好きだというが、彼の言う「雑用」とは、つまりボス直々の指令「悪党狩り」のことである。
ヒュムの皮で家具やマスクを作る本物の悪党が、正義感を振りかざして今さら何を言っているのかと思ったが、目だけはマジだった。




