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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 終章 ノー スリープ フォー ルーシィ
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Theory Of A Deadman_3

「ぅうっへぁぁああああああんんんうぅぅううっ!!」


ぅわっ! 酒くっさっ!


「だーやめろやめろ! なんだってんだおい!!」


「しーく~~~~んっ! こわかったよぉぉぉおおお~~~~!!」


 はぁ? まさかまた誰か死んだのか? 勘弁してくれよもう……。

俺が風呂から上がるとエントランスの酒盛りは終わっていたらしく、宿の中は少し怖いくらい静かになっていた。

湯冷めする前にさっさと寝ようと部屋に戻ったのだが、扉を開けた途端鼻水を垂らして泣きじゃくるファラが飛びついてきたというわけだ。


「だぁおい! 鼻水! 汚いから! 落ち着け! 何があったんだよ!!」


「さっき! さっき! 窓の外からバンっ! てやられて!

 ビックリして見たら! ヒトがいたぁぁあああああぅぅぅううう……。」


え……。


「ここ、2階だよ……。」


「だから怖かったのぉお……。えぐ……。」


 泣き崩れるファラはさて置き、俺は薄気味悪い窓際まで恐る恐る近づくが、どうにも窓を開ける勇気までは出なかった。

いやーおいおいおいおい……。

シャレになって無くね……?

やって良い事と悪い事あるだろ……。

これあれだろ? 窓開けたら中に入って来るとか、そーゆー系のヤツ。

怖っ!!! なにがこの地の想いだ、だよ――怖いよ……。

いやまさか、もう部屋に入ってるとか無いだろうな……。


「んっ――何だこれ……。」


 薄ら寒い恐怖と不安に押し潰されそうになりながらキョロキョロと部屋の中を見渡した時、俺はあるものに気付いた。

そして多分だけど、それを見た時俺は幽霊なんかよりずっと肝を冷やしたと思う。


「おい、お前これ、なに……?」


「え……?」


 絶倫パコパコ媚薬太郎――ラベルにそう書かれた小さい空の便が、テーブルの上にある。

はて、絶倫とな? パコパコとな? ん、媚薬太郎?――あぁなるほどね、キャベツ太郎の親戚かなんかか。なら、よし。


「それ……? ジュース。」


じゃねーよバカ。


「さっきお部屋戻る時に……。ひっく、ラナンさんがくれたの……。今夜はハッスルねって……。」


ほふーん。


「お前それ、飲んだの???」


「うん……。」


――怖っ!!! あのババァなんてもん寄越してんだ!!

違うっつってんだろがあのハゲーーーー!! 


「てかなんでお前は何でもかんでも飲むんだよ! そのうち毒盛られるぞ!」


「ぐす……。アタシ……。お風呂入るね……。」


「え!? おい! おまえズルいだろ!」


 あんな怖い話しといて何一人だけ逃げようとしてんだコイツ!

俺だけこのお化け屋敷に置き去りにする気か! そうはさせねぇぞ!

 

「じゃぁ……。一緒に、入る……?」


「うっ……。」


こっちのモードも、うぜぇ……。


「……。やめとく。」


「じゃぁ行ってくるね。ひっく……。」


「あ、おいーーーーー!」


パタン……。


あ……。


 シーン……。

グズグズにグズッたファラの退室と同時に、一瞬にして訪れた異様な静寂が背筋に纏わりつく。

和室にスレイブスコロニーの灯りがぼんやりと揺れ、耳鳴りが恐怖を逆なでする……。

ちきしょう……。

こんなヘヴィなネタ同時に2つもぶっこんできやがってよぉ!

よくネタ尽きねぇもんだよ! 逆に感心するわアホ!!


 どうやら、とことんこの世界は俺の敵らしい。

そのうちネタで殺されるかもしれないな……。

と、とりあえず……。


「ヒケコイ! そうだヒケコイを読もうっ!」


 グッドアイデア!

俺は鞄からヒケコイの57巻を取り出した。

幽霊ってのはネガティブな感情に寄って来易いって言うからな、まずは気を紛らわせて忘れよう。


「そしていつでも逃げられるように部屋の入り口は少し開けておこう!!」


キィ……。


「あ。」


 す、すきまが――怖……。

入り口の側に座り、いつでも避難できるように扉を少し開いて隙間を作ると、薄暗い廊下がちょこっとだけ見えた……。

もしこの隙間から誰かが覗いていたら……。


ー けいいち君。 ー

 

 うっ――レナ……。

僅かに開いた隙間から、一瞬メンヘラのナタ女が覗いたような気がした……。

これがお社様の祟りか……?

俺もそろそろヤバいかもな……。 


「こ、こっつぁみなぁ……。」


 や、やめよう……。

とりあえず、ヒケコイを元気に音読すればいい。

ファラさえ戻ってくれば――戻ってくるまでの時間稼ぎになればそれでいい!

しおりを挟んだページを震える手でどうにか開き、俺は大声で馬鹿みたいに音読を始めた。


「そしてヨシネンは、猛獣の様に焼け狂う業火の中に決死の想いで飛び込んだ!

 そう、今や彼のコトミに対する想いの前では、死の恐怖など取るに足らないものだった。

 まってろコトミさん! 俺が必ず! アンタを救い出す!

 そしたら俺! アンタと結婚するんだ!

 もう俺は躊躇わない。もう俺は間違えない。いや、間違えたって良い。

 正しいと思う事を、俺は信じるんだ。

 ヨシネンは止まらなかった。ヨシネンは…振り返らなかった……。

 過去を。間違え続けた日々の過ちを……。後悔したあの日々の自分を……。

 ただ前へ、前へ、前へ、真っ直ぐと……。ぐす……。

 そして誰も、業火へ向かって駆けて行く彼の背中を止めなかった。ひっく……。

 彼は炎の中へ燃え尽きる様に消えて行った……。

 真っ暗な夜空へ燃え立つ炎柱うぅ……。

 それは天まで届くほど、高く聳え立ち、灯りの消えた真っ暗な街を明るく…照らして…いた……。

 ぐす……。57巻…めちゃくちゃ良い…話だなぁ……。」


 あれ、涙が……。

やっぱヒケコイはいいなぁ。

はぁ、なんかお陰で祟りの症状も落ち着いてきたぞ。


「――さて、布団敷くか。」


 俺は入り口を離れ、押入れの中の不気味な怪物の存在を恐れることなく開き、そこから布団を取り出した。

なんだ、意外と大丈夫じゃん俺。

オバケなんてやっぱいなかったんじゃね。

病は気からって言うし、きっと気のせいだったんだろな。

けど――


「……。念のため、離れたところで寝ようっと……。」


 俺は空になった「絶倫パコパコ媚薬太郎」の便を見てそう思った。

そう、こっちの不安は残ったままなのだ……。

なにしろアイツに寝込みを襲われる可能性がある限り油断はできない。

あんなアホウシに俺の初めてを奪われてたまるか!


「はっくしょん! ……。」


 にしても海っぺりだからか、夜になるとやけに冷えるんだよなこの辺て。

さっさと寝るのが吉だな。

部屋の隅に布団を敷き、早々に潜り込む。

間もなく一日の疲れが大きなため息と共にドッと押し寄せ、なんだか体中の空気が抜けていくようであった。


「ふぅーー……。疲れた……。」


一応、スレイヴスコロニーの灯りは点けたままにしておこう――


「ちっちゃいこと~は気にしないっ! それ! アケチコッ! アケチコーー!!」


「死ね。」


 ふと下の方からクソチコの声が聞こえた。

アイツまだ酒盛りしてのか――タンスの角に小指ぶつけて死なねぇかな。

 

「はぁ。」


とはいえ――このまま……。




寝れば、こっちの――もの……。




……………。




…………………………。




……………………………………………………。




 ……くん…。




……………。




…………………………。




 ……くん、起きてよ――


 「ん……?」


 あぁ――ファラか。

風呂から上がったのか。

俺はいつの間にか眠ってしまったらしく、戻ってきたと思われるファラに身体を揺すられ目を覚ました。


「どうした……?」


「はぁ……。はぁ……。ん……。」


は?


「え? な、なに……。」


 は? なに? は?

目を覚ますとファラが息を切らして俺の側に座っていたのだが……。

顔は真っ赤だし、目つきが、やべぇ。

明らかに、様子がおかしい。

これ「絶倫パコパコ媚薬太郎」のせいか?!


「ん――しー君……。アタシもう、我慢できない……。」


「ちょちょちょ! ちょと待ておまえぇぇえええ!! 違うから! 違うからぁ!!」


 お前とは違う! お前とは違うんだ!!

おい! おいおいおい!! 聞こえてんだろ! 見てんだろ!

こーゆーイベントはシルフィさんとかイスタさんといる時に起こしてくれよ!!

なんで寄りにも寄ってこのアホウシなんだよ!

勘弁してくれよおおおおお!! 


「しー君――アタシ……。ダメ……。」


「きゃーーーー! やめてーーーー!! 無理矢理なんていやーーーー!!」


 俺のファーストキスが、こんな底辺ニートのアホウシに――

それも無理矢理だなんて――こんなの、あんまりのら――

しかし俺の抵抗も虚しく、興奮した様子のファラが火照った顔を近づけ、俺の肩をギュッと掴んだその時だった――


グゥゥゥウウウウウウウウウ~~~~~。


「――うにゃ?」


 なんだ? ラップ音……? じゃないな……。

なにしろ嫌に聞き馴染みのある音だった。

まさかコイツ――


「お腹、空いたよぉ~~~~……。」


グゥゥゥウウウウウウウウウ~~~~~。


「もう動けないよぉ~~~~……。」


「あいやー。」


 助かった――と言って良いのだろうか?

ファラはついに俺にしがみ付く体力すら失ったようで「ぐて~っ」とアイスが溶けるように畳に突っ伏すと、腹から不気味な呻き声を上げ始めた。

どうやらこのアホウシの前では性欲すら全て食欲に変換されるらしい。

もしやこれも寄生虫の副作用だろうか?――ま、いずれにせよ、俺は童貞を守り切ったぜぃ☆


ぷぅ~~ん……。


「あ、ピスタチオカメムシっ……。」


「え?」


いつの間にか部屋に虫が侵入したらしく、俺達のよく知る緑色のカメムシがぷぅ~んと呑気に飛んで来て俺の布団の上にプッと止まった。

ファラがそれを獲物を狙う野良猫の様に瞳孔の開いた目つきでジッとみつめて、更にヨダレを垂らし――ておいまさかおまえっ!!!!


「あ~~~――」


「あーーーー! おまえ待て待て待てそれはまずいって!!」


「――~んっ!!!」


ガリッ。


「あ……。」


ガリッゴリッ


「ん~~~っ!!!」


「ハァーーーー……………………。」




 ……………………。




…………チーさん――コイツ、ツイニ…………。




………カメムシ、喰イマシタ……………。




「んん~~~んっ!!!! 甘くてクリ~~ミぃっ!!!」


 ぇ……。がちょ……。

どんな間違いが起きてもコイツとだけは結ばれねぇや……。

ファラは恍惚と頬を赤らめ、生きたまま喰い殺したカメムシの余韻に浸っている。

そして――


「もっといないかぁ? ピスタチオカメムシってたまに布団やマクラの隙間で寝てるのよね~。」 


「俺の布団をめくるな! もう寝るからあっち行ってくれよ! きもちわりぃなぁ!!」


「うぅ~。アタシお腹空いてるのにぃ……。」


「知るかアホ!!!」


 嬉しそうに掛布団をめくったファラの手を振り払い、俺は布団を頭から被って沈黙した。

まったくよぉ! ここに来てからろくなことがねぇよ!!

あぁちくしょう、なんか興奮して寝れねぇし考えれば考えるほど腹立ってきたぞ……。


「ちっちゃいこと~は気にしないっ! それ! アケチコッ! アケチコーー!!」


「あぁもうっうるっせぇさっさと寝ろやボケがぁぁあああ!!!!!!!」


俺は畳をバンバンと両の手で叩きまわした。



もはや昆虫食とはなにか…。

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