Ashes Remain_3
「ん~~、おいしいねぇ、しーくん~。」
「お待たせしました、こちら蟹グモのもも肉のソテーです。」
「わーい! ありがと~!」
蟹グモの肉――ね……。
あのグロテスクな虫を見たあとにどうしてソレを喰いたいと思えるのか不思議だよ……。
丁度お昼時という事もあり、俺達は浜から上がった先にあるカフェ「ハーフ アン オレンジ」にやって来た。
「すみません、本当に。」
「いえ、いいんですよ。この時間はどうせ暇ですから。」
俺はそこでトイレを借りて哀れなくそ豚Tシャツと寝巻のズボンに着替え、また濡れた服を外に干して、ソレが乾くまでの間お邪魔させてもらう事となった。
店員さんの言う通り、お昼時だというのにお客さんがあまりいない。
俺達も含めて3組ほどだ。
ちなみにさっき灯台でみかけたあの女性は、ここにはいない。
それはさておき、立地のせいもあるだろうが、これで商売が成り立つものだろうか?
まぁ「この時間は」というからには夕方位からが掻き入れ時という事もあるが。
なにしろ先ほど灯台から見えた景色が目の前にあるのだ、ここから見る夕焼けはそれはもう筆舌に尽くしがたい絶景であろうことは容易に想像できる。
「それとこちら、テンギャーマダールのスープです。」
「あぁ、俺のです。どうも。」
テンギャーマダール。
さっき海の上を優雅に飛んでいたあの鳥のことだ。
要は鶏肉のスープ――これは絶対美味い。
冷えた体を温めたかったし、ちょうどいい。
「こちら、アカホシランチのお客様は。」
「あ、アタシのでーす!」
「デブリポークウィンナーのポタージュです。」
「あ、アタシのでーす!」
……。
「アカホシ……。ミックスフライ――です……。」
「あ、アタシのでーす!」
……。
「それと、こちら――テンギャーマダールの、唐揚げですが……。」
「あ、アタシのでーす!」
……。
どんだけ……食うんだ、コイツ。
店員さんドン引きしてんじゃねーか。
なんかカウンターの奥で他の店員さんがこっちを指さしてヒソヒソ話してるのが見える。
視線が痛い。
「んん~、うまし~!」
まったくコイツは恥というものを知らんのか。
そうしてファラがポタージュをスプーンで掬った時だった。
掬ったその中に、なにか黒いのが浮かんでいるのが見えた。
「あ! おい。」
「ん?」
「お前それ、虫入ってるぞ。」
「え? あ、ほんとだ。きっと匂いに誘われて来ちゃったのね。」
え? おいおい。
「あ~ん。」
「て食うな食うな!! せめて避けろよ!!」
「えぇ?」
あっぶな……。
なにナチュラルに胃袋に収めようとしてんだコイツ。冗談は顔だけにしてくれよ……。
「もう、こんなちっちゃいのどーせ口に入ったら一緒でしょ?」
「そーゆー問題じゃないの!」
「ど、どうかなさいましたか……?」
俺が大声を出したもんで、カウンターの奥から店員さんが慌てて様子を見に来てしまったらしい。
「あ、いえ、ちょっと虫が入ってたみたいで――でも大丈夫ですよ。」
「それは――大変申し訳ございません、お客様……。すぐに代わりのモノをご用意致しますので――」
外で服を乾かさせてもらってる身で文句は言えんが、変に気を使わせちまったかな。
そうして店員さんがファラのスープに手を掛けた時だった。
「んーん、いいのよっ。外食してる時点でゴキブリ食べてるようなモノだもん。」
「ブーーッ!!!」
おぉぉおぃいいーーーーーーーー!!!
おまえおまえおまえーーーーーー!!!
「え……」
「……。」
「ん?」
なんてこと言うんだぉまえはぁ!
店の空気カチンコチンじゃねぇか!
いや竹を割ったようにサッパリしてるよ?!
けど時と場合、そして場所を考えようよ!
なんでお前はいっつもそうなんだ!!
「その――申し訳、ございません……。」
「いえ、こちらこそ――す、すみま、せん……。」
「ん? ねぇなんでしー君が謝るの?」
おまえのせいだよバカタレ!!
「ちょっと、ゴキブリって――やだ……。」
「ありゃ相当マナーがアレだな……。」
……。ち……。
他のお客さんの視線が……。空気がエグい……。
気まずい。
店員さんがスープから手を引いて足早にキッチンの方へ去って行った。
後でもっかいちゃんと謝ろう……。




